中編5
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黄泉還り(ヨミガエリ)

黒木冴子、彼女は交通事故でご主人を亡くした。

結婚から僅か一年の出来事。

幸せな時間が一気に失われ、

幼い子供を一人育てる事になった。

保険金で生活には困らなかったが、喪失感と孤独感、育児の疲れからノイローゼ気味になり、周囲から心配されていた。

私も心配している一人だった。

彼女のマンションに度々訪れ励ましていた。

「冴子、大丈夫?」

「大丈夫じゃない…」

まだ31歳、美人で知られた彼女だが今は憔悴し、やつれた様子だった。

自身でも、このままではいけないと思いカウンセリングに行くと言っていた。

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数日後…。

冴子からラインが来た。

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5月1日(火)

さえこ

主人が帰って来た!   11:45

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え!?何?

慌てて冴子に電話する。

「帰って来たって、どういう事?」

彼女は明るい声で返す。

「どういうって、帰って来たのよ。」

訳が分からない。

わたしは彼の葬儀に参加した。

ニュースにもなっていた。

冴子が精神的におかしくなったのだと思った。

「今から行くから!」

マンションに向かう道中に、スマホにショートメールが届いた。

冴子?いや、義兄からだ。お寺の住職をしている。

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―――――5月2日(水)―――――

-      12:48 明日からGW後半だが、

-         今年はこちらに寄るのか?

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以前は良く遊びに行っていたけど、

ここ数年は忙しくて寄って居なかったな…。

とりあえず、今はバタバタしてるからまた連絡するとだけ返信をした。

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マンションのインターフォンを鳴らす。

「ああ、凛(りん)。いらっしゃい♪上がって上がって♪」

藤堂凛、わたしの名前だ。

冴子は先日までの表情とは別人のように元気だ。

「やあ、いらっしゃい藤堂さん。久しぶり。」

そこには間違いなく彼が、冴子の旦那さんが居た。

とても死人には見えない。

だけど…。

何だろう、この違和感…。

冴子がコーヒーを淹れてくれ、ダイニングテーブルに座る。

違和感の正体を探る…。

!…彼には影が…無い!

(お化け?もしかしてヴァンパイア?)

(違う、違う!いや、そうかもだけど!)

(まだ何か…何?見つけろ、考察しろ、わたし!)

…!彼の動き、彼女の視線、わたしに見えているもの、微妙にズレがある。

(彼女に見えている彼と、わたしが見させられている彼は違うんだ。)

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shake

雷に撃たれたような衝撃と共に思い出した。

叔父さんからのメール…の日付、今日は5月2日。

冴子からラインが来たのは、マンションに向かったのは5月1日…そうだ、昨日もわたしは此処に来ていた。

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昨日の、5月1日の記憶を遡る…。

此処に来た、マンションに。

冴子が今日と同じように迎えてくれた。

冴子は彼がそこに居るかのように話したりしていた。だけど彼は居なかった。わたしには見えなかった。

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「カウンセリングには行ったの?」

「行ったわよ、いい先生だった。『主人が帰って来る』って言ってくれたの、本当だったわ。」

(医者がそんな事を?)

カウンセリングに行ったという心療内科の場所を聞き出した。

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そして今日、5月2日、心療内科を探し訪れたんだ…

受付の女性が声をかけてきた。

「ご予約ですか?」

「いえ、友人の事で先生にお話を聞きたいんです」

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怪訝な顔で冷たく言い放つ

「予約無しでは受付られませんし、患者さんの個人情報ですから他人にはお話できません。」

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「どうかしましたか?」

奥から男が顔を出す。

「黒木冴子の友人です、彼女の事でお話が…」

…しばしの沈黙。

「どうぞ、お入りください」

睨み付けるような受付女性の視線を横目に診察室に入る。

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男は医者にしてはガッチリした体格で、健康的に日焼けしていた。

某医療ドラマ(何とか龍?)の主人公を演じた俳優を彷彿とさせる。

「黒木冴子さんのお友達ですか?え~っと…」

「藤堂です。」

「藤堂さん、彼女がどうかしましたか?」

「幻覚を見ています。」

「幻覚…ですか?」

「亡くなったご主人のです。」

「…彼女に見えていて、貴女には見えない?」

「そうです、先生はご主人が帰ってくると言ったんですか?」

「確かに。」

「何故そんな事を?」

…値踏みするかのように私を見つめ、納得したように唸った。

「なるほど、貴女は変わった魂の持ち主のようだ。彼女に見えるものは、彼女を通じて他の人間にも見えるように細工をしたのだが…。」

「何を言ってるの?何が目的?」

「患者の為さ、幸せそうだったろう?彼女が望むものを見せてあげているだけだ。その対価に、彼女が受とった保険金から幾ばくか頂戴したがね。この世で暮らすには金が必要だからな、有れば有るだけ良い。死んだら魂も頂く予定だよ、そういう契約だからな。」

「おっと、何かしようとしても無駄だよ。彼女にかけたものは私にしか解けない。」

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shake

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「それにね、貴女も既にかかっている。私の眼を長く見すぎたな。」

彼の瞳が、一瞬赤く光ったように見えた次の瞬間から催眠?にかかり、昨日の記憶を無くしたまま冴子のマンションに向かい、今に至る訳だ。

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(あのヤブ医者め!)

また心療内科に戻ってきた。

だけどそこは更地になり、何も無かった…。

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…そんなオチかと思ったが、普通にあった。

「ちょっと待ちなさい!」

カウンター越しに静止する受付女性の横を素通りし、診察室の扉を開ける。

「おお!貴女か、ハハハッ」

何故だか妙に嬉しそうだ。

「さあ、入りたまえ。」

背後で受付女の舌打ちが聞こえた。

「まさか破れるとはね、貴女で二人目だよ。」

「彼女を元に戻しなさい!ヤブ医者!彼女の望んだのは幻なんかじゃない、魂もあげない、何が契約よ、詐欺じゃない!」

「良いだろう、戻そう。魂も要らない。」

(やけにあっさり……)

!「まさか、わたしの魂と引き換え?」

「くははっ、いやいや。今回はサービスだ。それに、貴女の魂を頂くには、もっと大きな対価が要る。」

「だが、本当に良いのか?夢幻でも彼女は今幸せだ、現実に戻れば絶望があるだけだ」

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「絶望の先に希望があるのよ。それに、彼女はそんなに弱く無い。」

「良いだろう、元に戻そうじゃないか。」

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男の言う通り、彼女は元に戻った。

幻を見ていた間の記憶は無くなっていた。

暫くは、やはり落ち込んでいたが、数ヶ月後にはすっかり気力を取り戻し、子育てに奔走していた。

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数ヶ月後、あの心療内科は閉鎖された。

男の行く先は知らない。

二度と出会いたくは無い。

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さあて、今年は久しぶりに義兄(にい)さんの家に寄ってみるかな。

甥っ子達にも会いたいし。

そうだ、ついでに厄除(厄払い)でもして貰おう。

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