長編13
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初恋

私は友人Qとほぼ毎日のように遊んでいましたが特にQの出身等の話を聞いた事はありませんでした。

私が給料日だったのと当時付き合っていた彼氏の

浮気が発覚し愚痴を聞いて欲しく

久しぶりに飲みに行こうと誘い二つ返事でOKしてくれた時にQが語った話です。

普段は、あまり自分の事を自ら詳しく話したりはしないQでしたが私のある言葉をキッカケに

Qが普段見せた事の無い表情をしました。

私が 本当にアイツ有り得ない。私が夜勤の時に女家に連れ込んでたんだよ!?

どうして私はクズ男ばっかりに引っかかるんだ……等と愚痴っているとQは意地悪な顔をして類は友を呼ぶって言うけどね……とニヤついていました。

確かにそう言う事もあるのかなぁ自分の行いが悪いのかなぁなんて考えながらも私が

「初恋の人と結ばれたかったな〜」と口にした時です。いつもはおちゃらけてこちらの愚痴や冗談等を笑い飛ばして場を明るくさせてくれるQがなんとも言えない寂しげな顔をしたのです。

驚いた私は 「え……?どうしたの?」と思わず聞いてしまいました。

以下Qの話

小学校高学年頃もう何故そこに居たかの記憶すら曖昧だが某県の今では無くなってしまった自分の住んでいる街から少し離れた村でひと夏を過ごしていた。

そこは自分が来た時にはもう既に村民も極僅かしか残っておらずそこに居た殆ど血縁関係の無い家に預けられていた。

私の家は元々、所謂 転勤族だった事もあり環境が変わる事には慣れていたし学校にも親しい友人が差程居なかった為そこまで寂しいとも感じなかった。

ただ、やはり人も建物も少ないのでいつも体力を持て余していた。

数少ない子供とも何回か遊んだりもした。

名前も全然覚えていないが何人かと一緒に夕方に皆ですぐ近くの林の様な所を探検ようと言う事になった。

地元の子なのに今更探検なんてする必要があるのかと思った私が尋ねると

理由は聞かされていなったが大人達から近寄るなと言われていたみたいだ。

だが余所者の私に見栄なのか良い所をみせたいのか大将的な男の子が私を含めた子分達を連れて林の入り口から続く獣道をズンズンと進んで行く。

山の中と言う訳でもないのでそこまで険しい道では無かったのだが夕方とは言え夏の暑さのせいもあり皆クタクタになっていて先頭を歩く男の子に周りが少し休憩しようと言い立ち止まった時だった。

自分達の居る少し先辺りから

カサッカサッ カサッカサッと人が歩く音が聞こえてきた。

夕方で暗くなり始めていた事もあり少々ビビっていた自分達だったが目を凝らして見てみると少し開けた場所があり、そこから誰かが立ち去ったのだろう。立ち去ったのなら暫くは来ないだろうからあそこで少し休もうと言う事になった。

開けた場所へ進むと小さく廃れてボロボロな祠があり初めて見た物にテンションが上がった子供達が祠を触り始めた。

私は何だか怖かったし罰当たりな気がしたので止めなよとは言うものの近寄らなかった。

ふと視線を逸らしていた時に

バキッと言う音が林の中に響いた

えっ!?と思い振り返ると先程まで先頭を歩いていた男の子が自分の力を周りに見せ付けるかのように祠を蹴飛ばしていた。

元々ボロボロだった祠が余計に壊れてしまっていた。

どうやら中にあるお地蔵さんの様な物も上の辺りが欠けてしまっている。

その後もふざけている地元の子達を見ながら

休憩じゃなかったの?と思いつつ祠に近づき

「ごめんなさい。こんなんじゃ許しもらえないと思うけど……」と心の中で言いポケットに入っていたキャンディを置いた。

ふざけるのに飽きたのか誰ともなく帰ろうと言い始め私達の探検は終わった。

後日、私達が林に行っていた事を大人に知られる事もなく多少叱られる覚悟をしていた私は拍子抜けだったが、だらだらと残りの夏休みを過ごしていた。

いつものように、やる事もなく出かける場所も無い為ぷらぷらと畑の辺りを歩いていた時だった。

ふと村の偉い人の家の敷地の隅に見慣れない男の子が立っているのが見えた。

私みたいに他所から来たのかな歳も近そうに見えるなと考えていたら男の子の方から私へ近付いて来た。

「こんにちは」と男の子は愛想よく挨拶をしてくる。近くで見てみると男の子の顔は幼いながらも整っており少しドキドキしながら私も「こんにちは」と挨拶を返した。

「どこの子?」と男の子に尋ねると「Oの家の人間だよ。あまりこの時間に外には出られないんだけど今日は大丈夫な日なんだ。」と答えてくれた。

大丈夫な日とはなんだろう?病気か何かかな……と想像していると男の子に「君は?」と聞かれたので私も素直にこの村に居る親戚の家に夏休みの間だけ預けられていると答えた。

男の子は「そっか。どうりで見かけない子だと思ったよ。何してたの?」と納得しながら質問してきた。

「やる事もなくて暇だったからちょっとお散歩してたの。」と男の子の眩しい笑顔から顔を逸らしながら答えた。

そうすると「そうだったんだ。あっ僕はKって言うんだ宜しくね。」と自己紹介をしてくれた。

私も「私はQだよ。宜しくね。」と照れながら挨拶をした。

いつもは転校すると学生の特性なのか囲まれての挨拶や質問責めばかりなので初対面の人と一対一で会話をするのは久しぶりだった。

それからKは生まれも育ちもここの村だが事情があり、あまり外には出られない事やこの村の事など沢山話してくれた。

私も何故ここへ来たのか今でこそ覚えていないがそう言った話をKにした事は覚えている。

「じゃあ明日は話せないかもしれないんだ……」と私が寂しげに言うとKは

「日の出ている間はなかなか会える事は無いけど黄昏時なら会えるんだ」と少し寂しそうに言ってくれた。

「黄昏時って?」と私が聞くとKは優しく微笑みながら「日が沈んだ直後の雲のない西の空に夕焼けの名残りの赤さが残る時間帯の事だよ」と教えてくれた。

イマイチ理解出来ていないような顔をしている私を見てKは、また微笑んだ。

でも今日は日の出ている間に外に出たから黄昏時前には家に帰らなければならないと私を優しく見つめながらKが言った。

その法則がどうなっているのか等到底理解も出来ない私は未だに腑に落ちない物を抱えながらも「わかったよ。」と頷いた。

その後も他愛もない話を続けていると日がだんだんと沈み始め私は今日はもうお別れなんだなと思いKに明日黄昏時にここで待ち合わせしよう。と勇気を出して言ってみた。

Kは少し難しそうな顔をした後に「暗くなると、いくら田舎でも危ないから僕がQちゃんを迎えにいくよ」と言ってくれた。

その日は久しぶりに沢山話をして疲れていたのか帰ってご飯を食べお風呂に入るとその後はすぐに寝てしまった。

朝目覚めた時に夢の中でKに会った気がしたのは彼の笑顔が私の記憶に深く残っていたからなのか。

何となく手を付けていなかった宿題に手を付けたりダラダラ過ごした後に縁側でボーッとしていると日が沈み始めた。

空がほんのり赤みを残して段々と暗くなっていく様を見つめていたら控えめな足音が聞こえてきた。

Kが約束通り迎えに来てくれたのだ。

単純だった私は嬉しくて舞い上がっていたのを覚えている。

縁側に腰を掛け、その日も2人で下らない他愛もない事を話していた。

空が完全に暗くなった頃に家の者からご飯だと言う掛け声が掛かった。

私が「ごめんね……ご飯食べてくる!明日も会えるかな……?」と聞くと

Kは「僕もそろそろ帰らなきゃならない時間だったし丁度良かったよ。明日も、また来るね。」と私に言ってから暗闇に溶け込むように帰っていった。

食事中、親戚に誰と話していたのか尋ねられた私は何となくKの事を自分の中に秘めておきたかったと同時に、なんとなく人に話してはいけないような気がして「野良猫と話していたの」と咄嗟に嘘を吐いた。

親戚は「そう……野良猫なんてこの辺に居たかしらねぇ?」と呟きつつ食事に戻った。

この日も宿題をやり頭を使った事もあったのかすぐに床に就いた。

Kの夢を見た。やはり昨日見た夢に出てきた人間もKだったんだろうな……と思いながらまだ日の上りかけの薄暗い窓の外を眺めていた。

すると視界に自分の居る家の門の前に居る人影が見えた。

どこかで見た気もするが思い出せない大人の男だったが特に気にも留めずにまたぐーたらとその日を過ごし始めた。

そして、また空が赤らみを残し薄暗くなった頃Kが現れた。

私は未だにKの顔をあまり見る事が出来ずに居るがそれでもKとの会話は楽しかった。

特に何かをして遊ぶ事は無かったがKとの会話は何故か飽きずに続き楽しさのせいかすぐに空が暗くなる。

それから毎日の様に私はKとお喋りをして夕方を過ごしていた。

私を預かってくれている親戚は特に何かを咎める事をしないが時折、私を不思議そうに見ていたが私は毎日のKとのお喋りが楽しく、あまり気にしていなかった。

ただKに会った日から毎日Kの夢を見るようになった。段々と夢の記憶がハッキリ残るようになってきていた。

毎日会っているせいもあるとは思うが最初は夢でもKと会える事が嬉しかったのに何となく毎日夢に出てこられると少し不気味な気がした。

普通の夢なら良いのだが夢の中のKは何か悲しそうにして呟いているからだ。

夏休みも半ばになってきた頃Kと話している内に少し体調が悪くなった。

Kは私を心配してくれたがKと話す事が楽しかった私は「大丈夫!大丈夫!」と言ってKと話続けていた。

既にその時にはKに恋心を抱いていたのだと思う。

今思えばここで少し休むなりKと距離を置けばこんな事にはならなかったのかもしれない。

黄昏時の赤みが空から失われていく時間は夏であった為に長かったとは言え私は段々とKと会える時間がもっと増えれば良いのに。

もっとKと話したい。一緒に居たい。

恋心もあった為か、そう考える様になっていた。

最近寝ても夢でKに会い話しているせいか寂しいと言いつつも体力を使っているのか段々と疲れが溜まるようになってきていた。

それでもKと話す事を私はやめなかった。

Kは迷惑に思っているかもなんて、その時の私は盲目的であったのか少しも考えなかった。

Kはただ「大丈夫?昨日より具合が悪そうだよ?」と心配を募らせてくれていた。

心配される事も嬉しかった私はKに

「もっと長く話せないの?私Kともっと一緒に居たい」と言うとKは戸惑い少し怖い顔をした後に寂しそうに「ごめんね……あまり長くは話せないんだ……でもQは夏休みが終わったら帰っちゃうんだもんね……」と、いつもより静かな声で言った。

その日見た夢でKは寂しそうに「ごめんね。ごめんね。」と呟いていた。

起きた時に頬には涙が伝っており自分でも驚いた。

何がごめんねなんだろうな……と少し悲しくなった。

その日Kは私の元には来なかった。

何故だろう。私が昨日あんな事を言ってKを困らせたからなのか?と思考を巡らせていた。

モヤモヤしつつも寝ていると夢でKが

「ごめんね……でもQがこっちに……なら……だから……よ……そしたらずっと一緒に……」と少し不気味に笑っていた。

Kの声はか細く、あまりハッキリとは聞き取れなかったし何より今までの夢と違ったので怖かった私はすぐに忘れようとしていた。

それから数日経ってもKは現れなかった。

明後日で夏休みは終わりなので明日には自分の住む町に私は帰らなければならない。

帰る前に好きだと言えなくても良い。ただ、せめてまたKと話したかった。困らせるような事を言ったのも謝りたかったしKのおかげで毎日楽しかったとお礼を言いたかった。

数回遊んだ村の子達よりも私は出会った日から毎日のように会っていたKの事の方が遥かに大事だった。

Kに会えない事を残念に思いながらも自分が悪いのだから仕方がないと気持ちを落ち着かせ明日の帰り支度をしていた時 私が使っていた部屋の窓がコンコンと鳴らされた

驚いて開けてみると、そこにはKが居た。

私は嬉しい気持ちとどうして来なかったのかと言う不満や怒りでいっぱいだったが

「久しぶり」と告げた。

Kも「久しぶり」と返し私が明日帰る事を聞き

会いに来たのだと教えてくれた。

私とKはつい先日までそうしていたように縁側に腰を掛けていた。

Kは神妙な顔をしながら私を見つめていた。

私は少し戸惑いながらKにどうしたのか尋ねるとKは

「ごめんね……でもQがこっちに来るなら……だから死んでよ……そしたらずっと一緒に僕と居られるから」

「だから、こっちにおいでよ」

と抑揚のない声で言い放った。

私は動揺を隠しきれずに

「え?え?どう言う事?え?死んでって……」

とパニックになりながらKに尋ねた

「君が生贄に選ばれたんだ。だから僕は君と出会ったんだよ。」

私が……生贄……?そもそも生贄なんて古めかしい事をまだ続けている地域があるのか?

小学生であったが好奇心旺盛な私は生贄の意味くらい知っていた。

つまりは何かしらの災いを治める為もしくは防ぐ為に私が捧げられると言う事だ。

いくらKと一緒に居られるとは言えども

生贄と言う事は大半が死ぬ事を示している様なもの。

「死んだら……私が生贄になれば……Kと一緒に……」そこまで言ってようやく気が付いた。

私が死ねば一緒に居られると言う事はKは既に死んでいると言う事なのではないだろうか。

夢の中のKは、きっとこの事をしきりに謝っていたんだ。

様々な事が頭を掠めていくなかで自分でも驚いたが私の口から出た言葉は

「K……あのね……私ねKの事が好き。多分初めて会った日から。」

何故この時こんな言葉が出たのか解らない。

伝えるつもりなど無かったのに。

「僕もね……Qの事が好きだよ……だから君には生きていて欲しい。」

涙が流れた

「でも、それじゃあ一緒に居られない」

生きていたいけどKと一緒に居たい

「だからね……僕は皆を生贄にする事にしたんだ。」

「え……?皆って……?」

Kの顔は今までに見た事が無いと言うより

最早Kではない顔付きをしていた……

しかも頭部が一部欠けており、そこから血を流しているではないか。

先程とは打って変わったKに私は恐怖を感じ逃げ出したい気持ちに駆られた。

それは祠で見たお地蔵さんの様な物に似ていた。

そう言えばあの男の子が壊した祠のお地蔵さんも上の辺りが欠けていたではないか。

もしかしてこれは何らかの理由で大人から近寄るなと言われていた場所に近寄りましてやそこに祀られていたであろう物を壊した事に対しての災いなのではないか。

そして他所から来た私を犠牲に村の者は助かる気であったのではないか。

壊したのは私ではないのに。そもそも自ら進んで行った訳でもないし、こんな所に来たいと思っていたわけでもなかったのに。

Kは私の問に答えないまま初めて会った時と同じ姿で私の手に何かを握らせ微笑みながら何かを言った。

私は訳も分からないまま泣いていた。

気が付くと私の目には知らない天上が映った。

「あれ……?」と思っていると母親が

「Q!」と驚き涙を浮かべながらどこかへ走っていった。

どうやら、ここは病院で私は1ヶ月程眠り続けて居たらしい。

母と父が離婚だなんだと毎日の様に揉めている姿に耐えられなくなり私が家を飛び出したらしく暫く待っても戻ってこない私を心配して捜索願いを出した両親の元に予想よりも早く警察から連絡があり私が住む街から少し離れた場所の路上で発見されたらしい。

病院に運ばれたがいつまでも目を覚まさない私を毎日見ていた両親も憔悴しきっていて、もうダメかと諦めかけていたら私が突然目を覚ましたのだと聞かされた。

それじゃあ今までのは全て夢だったのか……?

ふと手に違和感を覚え見てみると、そこには私が祠にお供えしたキャンディと同じ物が握られていた。

母に「〇〇村って知ってる?」と尋ねると

驚いた顔をして逆に私に何故その村を知っているのか尋ねてきた。

私が何処に居て何をしていたのか全て話すと母は驚きながら教えてくれた。

その村は母の実母。つまり私から見て祖母に当る人物が住んでいた村である事。

おそらく祖母の親の代がたまたま移り住みその村に住んでいた事。

そして、そこは私が生まれるより大分前に廃村になった事。

母が生まれた頃には既に今の街に移り住んでいたので詳しい事は知らないが私が発見された場所は、かつてその村にあった林があった場所である事。

「どうしてアンタは知らないはずの、その場所に居てそんな経験をしたんだろうねぇ……」と

母が少し気味悪がりながら呟いた。

私は、ふと祖母から聞いた話を思い出した。

祖母は既に痴呆が入っていたので、そのせいで記憶が混乱して出来た嘘の話だと思っていた。

「おばあちゃんはね昔、神さんと話したんだ。そりゃ男前でね。でも、もう何でだったか話をしたって事と幼いながらも初恋だったんだなって事は覚えているんだけどね……どうしてだったか会えなくなってしまってね。でも今でもその神さんに護られている気がするんだよ。

私の中では神さんって言うより初恋の相手と言うイメージの方が強いんだけどね。」

祖母は少し頬を染めて微笑みながら私にそう話してくれた。

そんな事は今まで気にも留めていなかったのですっかり忘れていた。

もしかしたら私は祖母の記憶を追体験したのではないだろうか。

そうなるとキャンディ以外の説明はつくし納得がいくのだから。

今となっては、祖母がその後すぐに亡くなってしまっているので事の真相は確かめられない。

以上がQの少女時代の話

私は何だか大層な話だなと思いながら聞いていたが真剣に話すQに圧倒されたし、そう言った事に関してはふざけて言う子では無かったので何だか不思議な気持ちになった。

「Kはあまり良い神様とかではなかったのかもしれない。」

「詳しくないし、よくわからないけど子供の姿の神様って座敷わらしくらいしか聞いた事もないしね。」

とQが言うので確かに良い神様が生贄を欲しがるだろうか、ならばKと言う人物?神様?はあまり良い存在ではなかったのかもしれないなあ……等と考えていたが

「でも世代を超えて同じ人に初恋をしたんだから何だか素敵な話だね」と私が言うとQは

「でも調べてみたら、その村が廃村になったのは祖母がその村を離れた時期と重なっているからKが言葉通り皆を生贄に貰っちゃって誰も居なくなったから廃村になったのかもね。」と見た事もない顔でニヤァっと呟いた。

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