中編4
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美幸ちゃんと黒先生

「おまえは小学生の女の子を殺して埋めたくせに・・・」

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その夜、私はある辛口評論家のインターネットブログを訪れていました。

その評論家は痴漢の容疑で訴えられていましたが、本人は冤罪として争って本日無罪を勝ち取っていました。

ブログでは彼の勝利宣言とともに支持者たちのコメントであふれかえっていました。

そんな中私の書きこんだ中傷のコメントに批判が殺到しました。

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「私が女児を殺したの言うのであれば、その具体的な状況を書き込んでください、出来ないのであればあなたを名誉棄損で訴えます」

ブログ主の評論家は私のコメントに対して公然と反論してきました。

その名誉棄損という言葉に私は狼狽えてすぐに謝罪の言葉を書き込みました。

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「虚偽の中傷だと認めましたね、あなたの素性が裁判で開示されるのが楽しみです」

評論家の先生は私を見せしめとして祭り上げるようでした。

ネット中傷者の身元が晒し上げられるのかとブログの掲示板は沸き立ちました。

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数日後、私のマンションの部屋にノートパソコンを持った二人組の刑事が訪ねてきました。

刑事の一人があの評論家ブログの掲示板を私に見せて聞いてきました。

「黒多弥子さんですね、この評論家先生のブログに女児殺害の情報を書き込みましたよね」

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「ご、ごめんなさい、悪気はなかったんです、わたし、小学校の教師なんです、こんなことが職場や子供たちの親に知れたら・・・」

二人に刑事は私の狼狽ぶりを見て顔を見合わせました。

そして、諭すようにゆっくりと口を開きました。

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「さきほどこの評論家が女児殺害を自供しました」

「はえっ!」

間の抜けた叫び声をあげた私に刑事はくだんの掲示板の画面を見せてきました。

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「女の子の名前は香阪美幸」

「児童養護施設から抜け出した女の子を車に乗せて連れまわした」

「○○県と○○県の県境にある○○峠で〇月〇日の夕方に展望台近くの駐車スペースで首を絞めて下の斜面に埋めた」

そこには私が書き込んだ女児殺害の詳細が記されていました。

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「この掲示板に書かれている日付に現場付近で一緒に行動している被疑者と女児の防犯カメラの映像が見つかりました」

私は息を呑みました。

「どうして、あなたはこの事件の詳細な状況を知り得たのですか?」

刑事さんは強い口調で再び尋ねてきました。

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「あの、信じてもらえないとは思いますが・・・」

私は刑事さんに対して話を始めました。

「あの峠を車で通りかかったときに美幸ちゃんの幽霊に憑りつかれちゃいまして、それで掲示板に事件の詳細を書かされたんです」

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「おいっ」

二人組の若い方の刑事が私に対して何か言おうとしましたが、年配の刑事がそれを制止しました。

「あの、わたし昔から霊に憑かれやすい体質でして、今も美幸ちゃんここにいるんですけど、見えませんよね」

私は自分の右肩の上の方の空間を指でぐるぐると示しましたが、刑事さんは何も見えていないようでした。

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「それで・・・わたし、これから事情聴取されるんですよね」

私が恐る恐る尋ねると年配の刑事さんは右手を頭にのせて考えるようなそぶりを見せました。

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「えっと、あなたはあの評論家先生のブログに憶測で中傷コメントを書いて、それがたまたま当たってしまった、そういうことですよね」

予想しなかった刑事の言葉に私は戸惑いました。

「えっ、あの」

「はい、もう、いいですから、お騒がせしました」

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年配の刑事さんはまだ収まりのつかない若い刑事をなだめながら帰ろうとしました。

そして、去り際に一言だけ付け加えました。

「たまにね、こういうことがあるんですよ、殺された被害者からの訴えというような事象がね、でもそれを今の日本では書類に記すわけにもいかないので・・・ね」

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刑事さんが帰って部屋の中に戻ると、私は美幸ちゃんの霊に話しかけました。

「ねえ、あなたを殺した犯人も捕まったことだし、もう離れてくれないかなあ」

しかし、美幸ちゃんは部屋の中をふわふわと浮かびながらそっぽを向きました。

「いや、だって帰るところないんだもの」

「両親のところは?」

「あいつら、暴力振るうから嫌い」

そうでした、美幸ちゃんは両親の虐待から保護されて施設にいたのでした。

「・・・美幸ちゃん」

「その美幸って名前も嫌い」

「えっ、どうして、あなたの名前でしょ」

「だって、わたし幸せじゃなかったもん」

私は小学校の教師として、子供からそんな言葉が発せられることがとても苦しく感じられました。

「でも、弥子先生のクラスは好き、私のことを見えるお友達もいて優しく話しかけてくれるし、だから私の気のすむまで先生に憑りついたままでいる」

ごくわずかに美幸ちゃんは笑いました。

そんな美幸ちゃんの小さな笑顔を見せられると、私は諦めるしかなく軽く息を吐き出しました。

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