中編4
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神隠しのドライブ

2014年の7月に埼玉県内某所で奇妙な体験をしました。

場所の詳細は伏せておきますが、東京寄りの地域とだけ言っておきます。

僕達のほうがおかしかったのか、あの時点で何かが変わってしまったのか、未だにわかりません。

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当時免許を取ったばかりだった僕は、地元の友達3人を誘って真夜中のドライブに行きました。

3人は仮に田中、鈴木、山口としておきます。

この中で鈴木だけが免許を持っていたので、僕が疲れたら鈴木に運転を代わってもらうことになっていました。

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確か時間は深夜2時を過ぎていたと思います。

田中が喉が渇いたと言い出したので、ちょうど目についた自販機の前で止まりました。

その自販機はほとんどが売り切れで、販売中のランプがついていたのは缶のコーラと無糖のコーヒーのみでした。

「なんだよ、ペットボトルねーのかよ」

田中は文句を言いながら缶のコーラを買っていました。

僕はまだそんなに疲れていなかったのですが、鈴木が気を遣って代わると言ってくれたので、田中がコーラを飲み終わってからは鈴木に運転を頼みました。

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多分、慣れない長時間の運転で自分で思っていた以上に疲れていたんだと思います。

助手席に座った僕は、気がついたら爆睡していました。

そして次に眼が覚めると、明るい草原のような場所に一人で寝転がっていました。

「え…?何ここ、どこ…?」

ひどく戸惑いました。

だって寝る直前まで、鈴木が運転する車に乗っていたはずなのです。

しかも真夜中だったのに空は明るいし、周りには何もありません。

本当にただの草原なんです。

一緒にいた3人も見当たりません。

ふと脳裏に浮かんだのは『天国』という単語でした。

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もしかして事故を起こして俺だけ死んだんじゃ…

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さーっと血の気が引きました。

まだやりたいことも行きたい場所もたくさんある、やり残したことばっかりだ。

彼女もできたことないのに、親孝行もしてないのに…とにかく色んな考えが頭をよぎりました。

とにかくここに突っ立っていても何も変わらない。

僕は歩いてみることにしました。

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歩いているとなんだか不思議な感覚に陥りました。

例えるなら、ふわふわの綿の上を、体が浮くくらい風船をつけたリュックを背負って歩いているような…

自分の力で歩いているつもりだけど、別の力が支えてくれていて、その力が消えたら足元に沈んでしまいそうな、上手く言えませんがそんな感覚でした。

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しばらく歩いていくと、草原の中にぽつんと車が止まっていました。

間違いありません、僕の車です。

相変わらずふわふわした不安定な足元を蹴りながら走り寄ると、中には何故か山口だけが乗っていて、ひどく驚いたような顔でずっと前方を見ていました。

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「山口!おい!俺だよ」

僕の声に気づいた山口は、安心と不安が混ざったような表情で慌てて車から転げ落ちてくると、僕の顔をがっしりと掴みました。

「お前、××(僕の名前)か!!よかった!!鈴木と田中が…いなくてよ…」

よほど不安だったのか、山口の目からは涙が溢れていました。

僕はとりあえず二人を探そうと、山口を連れて車の周りをぐるっと見てみました。

が、どこにも二人の姿はありませんでした。

それどころか人間は僕達二人しかおらず、人が隠れられるようなものも何一つありませんでした。

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車を走らせて探した方が早いのではないかと思い、僕は山口を乗せて車を走らせました。

すると次の瞬間、物凄い白い光が車全体を包み込み、僕は一瞬だけ気を失いました。

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気がつくと僕は運転席でハンドルを握ったまま、あの自販機の前にいました。

変な汗で身体は冷え切り、心臓の音がうるさいくらいに耳に響いていました。

助手席の山口も、目を見開いたまま固まっていました。

外は真っ暗、時刻は午前2時43分…

鈴木と田中は、いない…

自販機の缶コーラには、売り切れ中のランプが灯っていました。

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その後、僕と山口は必死になって鈴木と田中を探しましたが、結局見つかりませんでした。

事故にでも遭っていたら…そんな嫌な考えが頭をよぎりましたが、正直、事故に遭ってくれていた方がマシだったと今は思います。

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鈴木と田中はこの世界から完全に消えてしまった…いや、忘れられてしまったのです。

警察に話しても冗談だと笑われ、共通の友人にもそんな奴は最初からいないと言われ、僕と山口は変人扱いされるようになりました。

二人の家を訪ねてみましたが、全く知らない人が住んでいました。

学校のアルバムからも、鈴木と田中は綺麗さっぱり消えていたのです。

メールのやり取りも連絡先も全て、最初から無かったかのように消えていました。

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あれから月日が流れ、僕は次第に二人の顔が思い出せなくなりつつあります。

鈴木と田中という人物と過ごした日々は、夢だったのではないかとも思い始めてきました。

ただ、今でも時々ぞっとするのです。

あの日、自販機の前に戻ってきた時、山口がボソッと言った言葉…

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「もしかしてあいつら、まだ草原で俺達のこと探してるんじゃ…」

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