長編11
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夏の盆便り

また今年も暑い盆休みが来そうだ

毎年恒例の父方の実家でお盆を過ごす

父方の実家は元庄屋でその村で一番の金持ちだった

だった・・というのは父方の祖父がこれまた超お坊ちゃまで超甘やかされて育てられて

世間しらずの人間だったらしい

私から言えばもうご先祖様にあたるけれどこの方が家を潰してしまった

ほぼ財産を使い果たし最後には親戚一同から追い出されたらしい

家だけはどうにか残って細々とした暮らしだったようだ

まぁ・・・元庄屋だけあって大きな屋敷だ

大きなお家と大きな庭

最盛期の時は女中を20~30人ほど使ってたらしい

今は祖父母だけが住んでいる

父方の兄弟は皆独立してお盆とお正月にだけ帰ってるみたい

父の場合はお盆の時に帰るというしきたりというか決まりになったそうだ

しかし・・・この屋敷はっきりといって広すぎる

自分が幼少の時はいとことかくれんぼして夕飯に遅れてじいちゃんにめちゃくちゃ怒られた記憶がある

いとこも怒られて大声で泣いていた

そういう話をお盆の時に話すとあのときのじいちゃんの怒り顔は怖かったな、と2人で思い出話をしている

今はじいちゃんも年をくってあの時の威厳はもうない

自分の息子をみると丸くなった笑顔で接している

自分たちのあの威厳に満ちた顔ではない優しい顔である

父もじいさんが一番怖いと話している

ご先祖様がああいう感じて家が潰れそうになってじいちゃんの父親がなんとか借金を返し

いまの落ち着いた感じに復興させたらしい

じいちゃんはそれをみていたし苦労した父親の姿も見ている

だからじいちゃんも学校を卒業してすぐに丁稚奉公に出されたらしい

奉公に出された先は非常に厳しく特にお金に関しては1銭足りないとなれば使用人全員が

罰を受けたらしい

そういう環境に育ったからじいちゃんは冗談や人の悪口は非常に嫌う

その点、自分の父は能天気なのか例のご先祖様の生き写しなのかのんびりしている

その点がじいちゃんは一番気に喰わないらしい

あんな育て方をした覚えがないとたまに話してくる

だから母が寄ってきたのか、と納得している

母の兄妹姉弟はおしゃべりばかり

世間話や人のうわさ話が大好き

初めて父が母をじいちゃんばあちゃんに会わせた時に大事件が起こったらしい

母のおしゃべりはまさにマシンガン

はじめは普通の世間話をしていたらしいが火が点いたのか人のうわさ話をし始めたらしい

これにじいちゃんが怒りの一声

母はじいちゃんのあまりの怒り顔に圧倒されて黙ったという

その話を父から聞いた時は信じられない、嘘だろうと思った

さすがじいちゃん、母のマシンガントークを一声で黙らせた

私の妹も母に似てよくしゃべる

この二人がタックルを組んだら絶対にかなわない

昔のことだが母が父にお使いを頼んだらしい

ところがまちがったものを買ってきて父が言い訳をし始めた途端に

マシンガントークがさく裂しあえなく父は沈没した

そこへ妹が学校から帰ってきて母から事情を聴いた妹も加担して

父を責めた

この2人のマシンガントークに父は泣きべそをかいていた

その日の父は顔色が悪くさっさと寝てしまった

母方の一番上の姉にあたるおばさんが一番きついかも

母が父と結婚をすると聞いたおばさんが母に「あんな能天気男どこかいいの?」と聞いてきたらしい

母方の親戚で唯一反対したのはおばさんだけ

父もあの義理姉さんだけは勘弁な、と私によく言っていた

さて大分本筋がはずれてしまったけれど・・・・

父方のおじ(父からすれば弟)と母方のおじ(母からすれば兄)は親戚一同全員が双子の兄弟だろうと冗談を言うほどよく似ている

じいちゃんも間違えて父方のおじ(じいちゃんからすれば息子)の名前を呼んだくらいだから

はじめてこの叔父たちが初見したときに二人とも鏡を見てるみたい、同時に言葉を発したらしい

それからこのおじたちは兄弟以上な仲良しになり

酒飲み仲間としての付き合いをしているみたい

もちろん血は全然繋がっていないまさに赤の他人

この2人が酔っぱらうと父方の家筋の話をよくする

どこでこういうネタを仕入れてくるんだというくらい話をする

自分が特に一番気になる話があった

父方の家系には「娘」が一人も生まれていないということ

全て男子ばかりである

つまり父方兄弟は全て男子でおじたちの子供もすべて男子

じいちゃんの兄弟もすべて男子

唯一「娘」がいるのは自分の父親だけ

つまり自分の妹だ

これについて私もおじたちの会話の中に入った

色々とうわさ話やいかにもという話をして話が盛り上がった

とにかくこの二人の叔父の話は面白い

下手な漫才より面白い

本当にこの2人は赤の他人なのだろうかと思う

ボケとツッコミの役割がはっきりとしててその場にいるだけで笑える

2人のおじも「俺たちは兄弟だ」と豪語している

妹が生まれた時にじいちゃんが一番喜んでたらしい

母が生まれそうだという連絡を受けてずーと病室にいた

なぜか女児が生まれそうな予感がした、と話したらしい

ズバリ、女児が誕生した

じいちゃんは父が妹を抱こうとしたときに父をおしのけてじいちゃんが最初に妹を抱っこした

満面の笑顔だったらしい

「やっと我が家系に女児が生まれた、うれしいことだわい」と大喜びだったらしい

さてこの話をおじたちが興味深いというか少し因縁めいた話をしていた

父方の家系はもともと小作人の家系だったらしい

戦国時代にこの村を納めていた国の領主がご先祖様の働きぶりに感動して

村を納めよ、と言われたらしい

小作人から庄屋になったわけだ

百姓の村のこと

表向きは「それはすごい」「おめでたいことだ」と村人からお褒めのことばをもらったらしい

だが

内心は誰も快く思っていない

「小作人の分際でどうして庄屋になれたのだ、怪しいものだ」

「まさか・・・自分のおっかを・・・・」

と口々に陰口を言われたらしい

領主様からの支援はすごく

瞬く間に

でかい屋敷と広い庭が作られた

年貢米は免除され

ますます懐が豊かになった

それと反比例に村人からの嫉妬心はますます強くなった

世も戦国時代の真っただ中

男連中は戦に連れていかれ

残っているのは女・子供だけ

年貢米はこの村では免除されていたにも関わらずそれには触れずに

村人から年貢米を搾り取っていた

年貢米を出せない家は娘を売り飛ばしていた

また娘を売らない家はご先祖様の女中としてこき使っていたようだ

また村人の奥方も女中としてご奉公させられていた

睡眠時間は2~3時間しか与えられず

掃除・洗濯・買い出しなど

奴隷のようにこき使っていたようだ

ところが男連中は戦場にいるのに帰ってきたら

おっか連中は身ごもっていたということが茶飯事となり

男連中はますますご先祖様を恨むようになった

ついに村人の逆襲がはじまった

百姓一揆がはじまり

ご先祖様が年貢米の免除をされていたことが発覚し

事態はますます悪化した

ご先祖様は恐ろしくなり領主様に助けを求めた

領主はすぐに役人を送り

村人のほぼ90%を虐殺した

おっかや娘は犯されたのちに火あぶりにされた

村はほぼ全滅した

村の働き手がいなくなりご先祖様の懐も一気に寒くなった

そのスポンサーの領主様も戦で亡くなり

もはやご先祖様を助けてくれる人がいなくなってしまった

だが庄屋という権力はなくなっておらず

近隣の村人をまことしやかにそそのかしてこの村に移住するようにけしかけていた

「この村に来れば土地をあげるぞ」

「年貢米は2年間は納めなくてよし」

などと嘘八百を並べて近隣の村びとに声をかけていた

次男三男坊は土地をもらえないのですぐにこの口車に乗ってしまった

悪夢の始まりだ

確かに土地はもらえた

だが小作人なのだ

そして

毎年重度の年貢米を要求された

出来高の90%を納めよ、ということだ

つまり餓死せよ、ということだ

こういう風潮が江戸中期まで続き

ついに・・・因縁のはじまりを村人が起こしてしまった

ご先祖様の代々に呪いをかけたのだ

娘が生まれませんように

早く庄屋が潰れますように

などと次々と呪いをかけたらしい

それを境に父方の家系は女児が生まれず

障害を持つ子供が生まれやすくなった

それが明治時代まで効き目があったようで

父方の家系は子宝にはあまり恵まれずにいた

大正時代にやっと子宝がたくさんできたようだ

村人が呪いの師として京都から偉い坊さんを呼んだらしい

1週間ほど護摩をし呪いをご先祖様に降りかかるように寝ずにお経を唱えたらしい

1週間目にその坊さんは目ん玉が飛び出し舌が糸が絡むように舌同士が絡み

鼻はそぎ落とされていた

その姿を見た村人はあまりにも無残な姿に恐ろしくなった

まだ坊さんは生きておりゾンビのように家から外へ出てきた

その姿を見た村人は恐怖のあまり石を投げつけたのだ

石を次々に坊さんに投げて殺してしまった

坊さんを殺してしまった・・・・

もう村中パニックである

死体を川に投げ捨ててしまった

その日を境に村では奇々怪々な出来事が多くなり

村人は坊様の祟りに違いない、と言うようになった

村中に流行り病が流行しますます村の存続が難しくなった

庄屋の方も親族間での争いが起き

ますます庄屋一族の危機になった

というのがこの2人の叔父の話である

よくもまぁこんな・・・・話をどこで仕入れたんだろ、と感心した

ところで叔父の一人がまた気になる話をコソコソと話し出した

ばあさまのことである

このばあさま、母と真逆の性格である

品があり美人(おそらく若い時は・・おじ談)でおしとやかさがある

凛としていつも着物を着ている

叔父が一度ばあさまがすごい勢いで誰かにむかって怒っている姿を見たことがあるそうだ

それはまさに鬼女のような形相で相手をののしっていたそうだ

自分の母親があのような顔つきになるとは思わず最後まで見ていたそうだ

ののしりおわってふと口元が不気味に笑っていて底知れない恐怖を覚えたと叔父は話していた

もうひとりの叔父は信じられない、と話した

私も同感である

あのばあさまが鬼の形相になっていたなど想像しにくい

小さい時からばあさまは私ら孫に対して優しくしてもらっていた

いつも微笑んでおりばあさまの傍にいると安心感があった

ただ、凛とした感じが強すぎて私は少し怖いなとは思っていた

一度もばあさまに怒られた記憶はないけれど・・・

もう一人の叔父が誰と話してたんだろうかともう一人の叔父に尋ねだが

分からないと答えた

おじはじいさまにばあさまの今日の出来事を話しをした

そしたらじいさまは・・・少し黙り込んで・・・「○○(叔父の名前)、お前が見たことは絶対にだれにもはなしてはならんぞ、いいな」とくぎを刺された

おじは

「おとうちゃん、母ちゃん、誰と話してたんだろうね」と尋ねたら

「おまえは何も知らんでいい、母ちゃんは母ちゃんだ、いいな」と言われたようだ

その日を境におじは母親に対してすこしうさんくささを感じるようになったとか

いつも微笑む笑顔の裏に何を考えているのかあの形相とタブって怖くなったと話をした

母方のおじは意地悪く「今でもばあさまに対してうさんくさいと感じてるのか?」と聞くと

おじは「いや、うさん臭いというレベルではない・・・」と口を濁らした

おじは一気に酒を飲み・・深いため息を吐いた

私が「おじきよ、なんか知ってるな、教えてくれ」と言うと

「まぁ・・・おまえなら・・・いいかな・・・」と

「あのな・・・あのばあさま・・・いやおふくろな」

「あれからおふくろの素性を親戚連中からいろいろと聞きまわったんだよ、でもな・・親戚連中、誰もおふくろのこと話そうとしないんだ」

「え!、どういうことだよ、おじきよ」と私は前のめりになり聞いた

「むしろ、親戚から「知らない方がいい」と言われたよ」

「ええ?ますますわからんけどな」

「そういわれても気になってな、ところがおふくろの親戚というのがいないんだよ、どうもおふくろは幼少の時に両親が死んでおやじのところへ知らない人が連れてきたようだ、つまりおやじとおふくろは幼馴染だそうだ、この話をおやじの弟から聞いたよ」

「え?じいさまとばあさま、幼馴染なのか?その連れてきた人って誰だろう?」とおじきに聞いた

「俺もそれが気になって叔父に聞いたのだがおじも分からないと、ただ、おやじはすぐにおふくろを好きになったそうだ、だが、親父の両親はおふくろを好きになるのは絶対に許さない、と親父に対して説教をしたんだとか」

「でもな・・・結果的におじき達生まれてきてるじゃん」

「だな・・・おやじたちも年頃になりおふくろと結婚したいという願望が強くなり親におふくろと結婚がしたい、と話をしたんだとか・・・そしたら激怒されたらしい」

「お!?えーーーなんでだろう?」

「しかし、おやじも意地を張っておふくろと結婚がしたいと強く言い放ったそうだよ」

「そうだろうね、あのばあさまの美しさは半端じゃないからな」と私が言うと

「わしもそうおもう、自分で言うにはちとな、と思うけど、あの凛としたおふくろの雰囲気と美しい顔たちはとても普通の出自ではない気がしてたんだよ」

「貴族かどこかの令嬢のような気がしてたんだけどな・・・・」

「いろいろと調べていくうちに・・・親父の両親が言った言葉の意味がわかってきたんだよ」

「どういうこと?」

「まぁ・・・そのな・・・・今から話すけど・・・覚悟をして聞いてほしい」

「なに?覚悟しろってか」ともうひとりのおじがおちゃらけをした

「おまえな・・・まぁいいや・・・・おふくろの出がなんと・・・あの殺された坊主の直系の子孫なんだよ・・・・そのお寺というのはもともと貴族が支配していて主に呪術を扱う家柄だそうだ。おふくろはその寺の子孫なんだよ」

「え・・・・・・えーーー、まさか・・・・寺の出身・・・・ばあさま・・凛とした感じと美しい顔たちは貴族の子孫だからこそか・・・」

もうひとりのおじは・・絶句していた

「もうおふくろの寺はなくなっていておふくろは一人ぽっちなんだよ、親も兄妹もいないんだよ、だからこそおやじを頼ってるんだ、おやじもあとからおふくろの素性を知ってますますおふくろを大事にしないといけないと思ったんだよ、親父の両親が反対したのもわかる」

「だよね、じい様一族を呪い殺そうとしていた坊主の子孫がばあさまだからな、こりゃ反対するのは筋が通ってるよな、なんという因縁だよ」

「まぁわしら一族のご先祖が悪さばかりしていたから恨まれても仕方ないけどな、まさか時がたって

因縁同士が結婚するとはだれも思わないよな」

本当に人間の運命はどこで繋がっているか分からない

今年も父方の実家で親戚連中が集まる

もちろんあの2人のおじきは必ず来る

じいさまばあさまは元気すぎるほど元気だ

もう90歳は越えてるはず

ばあさまは見た目が90代とは思えないほど美しい

冗談抜きに30代の感じ

ばあさまと用事があって一緒にお店で買い物をしていたら

知らない奥さんに

「若い奥様ですね」といわれた

「いいえ、私の祖母です」と答えたら

その奥様は信じられないような顔をしていた

「わたしの祖母はもう90歳近いんですよ」と言うと

さらにびっくりした顔をしていた

ばあさまの素性を知って私もますますばあさまを守らないといけないなと思うようになった

私はその因縁めいた血が流れているから・・・・

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