中編5
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靴下

俺が住んでいる場所は、辺り一面田んぼが広がっていて

その開けた土地の先には、はるか遠くではあるのだけど

北アルプスの山々が見える、まさに絵にかいたような田舎だ。

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これは、俺が高校に入学して初めての夏休みのときのこと。

当時俺は悪友のHとSと普段からつるんでいた。

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部活は3人とも陸上部だったのだが、ほとんど幽霊部員のようなもんで、

部活をさぼっては、隣町まで自転車こいでカラオケ行ったり、

ファミレスで長時間くだらない話をしたりと

まぁそれなりに人生を謳歌していた。

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あれは台風がちょうど過ぎ去った次の日だったと思う。

それはもう雲一つない晴天で暑さで血が沸き上がるのではないかと思うほどだった。

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いつものように3人で集まり、川遊びでもするかということになった。

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Hは銛を持ってきていて、魚をどれだけとれるか勝負しようということになり、

結局夕方近くまで時間を忘れて遊んだ。

結局魚は1匹しかとれなかったけど。

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帰り道は夕陽を背に自転車をこいで、田んぼのあぜ道を3人で話しながら帰路についた。

H「あの1匹を仕留めた瞬間の感動よ!これからは俺のことをプロと呼ぶがいいさ」

S「1匹だけじゃねーか、俺らと変わらんだろ」

俺「つか、その魚くうのか?オイカワはあんまうまくねーんだよなぁ」

H「頂いた命に感謝し、責任をもっておいしくいただくでござる」

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そんな他愛もない会話をしていると、

通り過ぎた電柱の陰に何か黒いものがいたようなきがした・・・

俺「おい!ちょっと止まって!なんか電柱のとこにいた!」

キィィー!と音を立てて3人が一斉にブレーキを踏んだ。

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S「猫じゃね?」

H「まぁ猫だろうな」

俺「いや、結構でかかったぞ・・・熊かも・・・」

S「いや、ここには鹿はでるけど熊がでたのは聞いたことねぇぞ」

H「とりあえず、俺見てくるわ」

Hはそういうと、自転車から降りて電柱の方に歩いて行った。

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俺「おい、なんかいたか?」

H「何もいないけど、何かがいたかもしれん。

電柱の脇の地面がめちゃくちゃ掘り起こされてる」

S「やっぱ猫だな!帰ろう!家まであと30分はチャリこがんといかん」

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結局猫だという結論になり、少しがっかりしたような、

ほっとしたような気持ちで再び帰ろうとした時だった。

Hがこちらに戻ってくる・・・その後ろに白いワンピースの女の子が立っていた。

俺「H・・・後ろ・・・!」

Sも俺もまともに声が出せない。

本当にビビるとまともに声が出ないものなのだなと今になってそう思う。

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その女の子の髪はもともと明るい色なのか分からないが、

夕陽に照らされて金髪のように見えた。

三つ編みにしており、10メートルほど離れたここからも、

異様に目が大きいことがわかる。

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Hは後ろを振り向くと、女の子はHに詰め寄り、

「ねぇ、ねぇ、ねぇ、靴下ちょうだい」

とこちらにもきこえる程の声で話しかけていた。

よくみると黒い靴下が片方だけ履かれていて、もう片方は素足だった。

Hは無言の全力ダッシュでこちらに向かってきた。

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・・・女の子も全力でHを追いかけてくる・・・

Sと俺はもう気が動転してしまい動けないでいた。

そんな俺らを無視するかの如くHは全力で走り抜けていった。

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その後ろを1メートルくらい後から追っている女の子も俺らを無視し、

Hを追っていった。

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俺とSは2人の後ろ姿を呆然と眺めていたが、

前方の電柱を通り過ぎようとしたときだろうか・・・

Hが文字通り消え、女の子は立ち止まり、地面から黒い何かをつまみ上げた。

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おもむろにそれをその子が素足に近づけたところで、それが靴下だと分かった。

片足をあげ、靴下を履き、そして意味不明な言葉を発しているのがわかった。

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と、Sが俺を小突き、我に返った。

逃げないとやばい・・・でも帰り道にはあいつが・・・

俺らは自転車に乗り、不本意ではあるがもと来た川への道を全力で戻った。

もうすぐ日が落ちてしまう・・・・

後ろから何か叫んでいるのがずっと聞こえていたが、構わず進んだ。

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川に出るとSと俺はやっと自転車を止め、後ろを振り返った。

・・・女の子は追いかけては来ていなかった。

S「何だったんだ・・・つかH消えたよな?」

俺「ああ、とりあえず、遠回りだけど川沿いの山道通って帰ろう。

正直あれは多分人間じゃねぇ」

一応Hの携帯に電話は掛けたものの繋がらず・・・

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その後は、何もおかしなことはおこらず、無事に家に着いた。

日も暮れる直前だったこともあり、Sは俺の家に泊まることになった。

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ブゥーンブゥーン

S・俺「!?」

Hからの着信だ・・・どういことだ?

2人で顔を見合わせ、つばを飲み込み電話に出る。

俺「Hなのか?大丈夫だったのか?」

H「いや、大丈夫じゃなった。」

Hが話すにはこういうことらしい。

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俺が何かいるといった電柱だが、本当に地面が掘り返されているだけで、

何もいなかったらしい。

Hも少しがっかりして、こちらに戻ってこようとしたときに、

俺らがHの後ろに・・・!とか騒いでいたから、後ろを振り向いたとのこと。

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そこまでは俺らと同じだ。

でもそのあとが違う。

振り向いたらそこには女の子ではなく

まるで絵に描いた仙人のようなお爺さんが立っていたらしい。

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そこでHは全力で逃げたかったのに、足が動かずに

お爺さんと対峙したまま立ち尽くしていたらしい。

そうこうしているとその横を俺とSが全力で自転車こいで通り過ぎて行ったから、

本気で終わったと思ったとのこと。

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これは夢だと思いたくて、おもいっきり目をつむって、

もう一度目を開けると、何のことはない。

田んぼのあぜ道に1人残されて突っ立っていた。

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急いで自転車を回収して、俺らを追いかけて、待つように叫んだが

追いつけなかったから諦めたとのことだった。

俺「なんかよくわからんが、とりあえずHが無事で良かったわ」

H「ねぇ、ねぇ、ねぇ、今どこにいるの?」

・・・これHか?声こんなに高かったっけか?

俺はSに確かめるように携帯を渡した。

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S「Sだけど置いて行ってすまんかった。でお前いまどこにいんの?」

H「田んぼの電柱のとこでずっとまってるよ」

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この話はこれだけの話。そのあとは特に何もない。

Hが化け物に追われて靴下にされてしまったという話。

ちなみにHは1月後、その掘り返されていた電柱の脇の

田んぼの泥の中から発見されたんだよ。

Concrete
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