中編2
  • 表示切替
  • 使い方

うりふたつ

どうやらこの町には俺の偽物がいるらしい。

どういう事かといえば、例えば俺が行った事のないオープンテラスのお洒落なカフェで俺に似た男を見かけただとか、本は漫画しか読まない俺を場所も知らない町外れの図書館で見かけただとか、酒がめっぽう苦手でここ何年も飲みに出ていない俺が、駅前で酔っ払って暴れているのを見かけただとか…

その時間そんな場所に俺はいなかったし、それは似ているだけで俺ではないよといくら丁寧に説明しても、なぜか目撃情報を寄せてくる友人たちは、頑なにあれは絶対にお前だった間違いないと口を揃えてくる。

もちろん初めのうちは気にもしていなかったし、そんな事もあるのかな?程度にしか思っていなかったのだが、あの日を境に考えが変わった。

突然警察が家に来て、二日前に川へ子供が投げ込まれて死亡した事件で、目撃者が語る容疑者の男の顔が俺にそっくりなんだと言われ、任意同行させられてしつこい尋問を受けた。

幸いすぐにアリバイが立証されたので帰る事ができたが、これを機に、もしかするとこの近くに本当に俺とそっくりな人間がいるのではないか?と考えるようになった。

どうにも気になった俺は、次の日から友人たちが「俺を見かけた」というその場所を一つずつまわる事にした。

俺に瓜二つの男を探しだす。もちろんそれだけの理由だ。

はっきり言ってただの興味本位でしかないが、一度気になったら解決しないと気がすまない性分なので仕方がない。とりあえずラストまで粘ってみたが、初日のお洒落なオープンテラスのカフェに俺モドキは現れなかった。

二日目、図書館。残念ながら現れなかった。

三日目、駅前の立ち飲み屋で口は串焼きをほうばりながら、目は道行く人混みの中に俺と似た男を探す。

時間は過ぎ、終電も終わり、街には出来上がった酔っ払いゾンビたちがフラフラと彷徨い始める。いない。時計を見ればもう三時を回っている。

今日も見つからなかったかと会計を済ませ、タクシーを捕まえるために大通りへ出たところで、反対側の歩道からジットリと視線を感じた。

見れば背広姿の中年の男が直立不動で立っている。明らかに周りの喧騒とかけ離れた異質な空間の中に、男は異様な存在感で俺を見つめていた。

「マジかよ」

その男はまさに俺だった。

どこからどう見ても俺だ。いつも鏡の中で見ている俺だ。その「俺」が鏡なんてないこんな場所に立っている。

男は信号が変わると横断歩道を歩き始めた。近づいてくる男は見れば見るほど俺にそっくりだ。

男は歩きながら胸ポケットから光る何かを取り出した。ギラリとその刃物が街の明かりを浴びて光った。

「みーっつけた」

俺が今まさに言おうとしていた言葉を、先にその男が口にした。

「やっと代われるっ」

その不可解な言葉の意味を理解できた時にはもう、俺の視界には何も写ってはいなかった。

Concrete
コメント怖い
0
5
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ