長編9
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遊園地・獣・廃墟

実話に基づいた話。

私が生まれ育った町は、今は小さなスーパーと公園があるだけのありふれた町だが、かつて遊園地があって結構栄えてた。

遊園地の周りには住宅が多く建ち並び、商店街の他に大型スーパーやディスカウントストア、コンビニ、ファストフード店が軒を連ね、土日平日問わず、県外県内から来る来園者と地元民で町は賑わってた。

だが、時代の流れと老朽化に伴って、私が中学に入学する頃、閉園してしまった。

かつての賑やかな音は重機の物々しい音に代わり、思い出の場所がどんどん金網のフェンスで囲まれていくのは、寂しかった。

そして、中学2年の夏、ある事件が起こった。

私が通っていた市立中学は当時かなり荒れていて、上級生の殆どは茶髪金髪にピアス、ミニスカートや腰パン。喧嘩や万引きで警察のお世話になることも度々あった。そんな先輩達に感化されたヤンチャな数人の同級生が、心霊もののテレビ番組で心霊スポットに取材に行くというのを真似て、閉園した遊園地の中に潜入しようという話になった。

無断でフェンスの中の遊園地に入るのは不法侵入なので見つかったらヤバイことは目に見えているのだが、1年以上も放置されていた遊園地がとうとう取り壊しの工事を始めるということになり、夏休みも近かったので、肝試しを兼ねた夏の思い出作りという名目で、クラスのリーダー的存在だった田辺君(仮名)を中心に5人が集まり、親や教師にバレないように計画を進めていた。

そして、終業式から2週間後、計画は実行された。

メンバーは、田辺君を含む2学年男子5人、女子5人。そして、田辺君の兄の男友達が2人(中3)。女子5人のうちの1人は、里奈(仮名)といって、私の小学校からの仲の良い子で、家も近所だった。

里奈から聞いた計画は、夜の9時に集合して、2、3時間くらい園内を周ったら帰る。もし人の気配がしたら速攻でダッシュして逃げる。というもの。前日、里奈は私に「こっそり家を抜け出すのを手伝ってくれないか」と言ってきた。私の家は共働きで、夜遅くまで帰って来ない。一方里奈の家は両親がいるから、なかなか抜け出せない。

そこで、私の家に泊まりに行くと言って抜け出したいというのだ。私は危ないからやめておけと止めはしたのだが、グループの中に気になる男子がいるから行きたいと言って聞かなかった。

そして、里奈は私の家で化粧をして服を着替えて、懐中電灯や必要な荷物を持って、こっそり私の家から待ち合わせ場所に向かっていった。

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玄関のインターホンを鳴らす音で目が覚めた。

時計を見ると午前1時。両親も起きてきて何事かと思っていると、ドアを叩く音と「助けて!」という声がした。慌てて父がドアを開けると、裸足で膝から下が擦り傷だらけの里奈が立っていた。只事じゃないと一瞬でわかった。

遊園地に忍び込んで遊んでいたら、仲間の姿が見えなくなり、携帯も繋がらなくて、怖くなり逃げてきた、と、里奈は泣きじゃくりながら話した。パニックで呼吸も乱れていた。

急いで里奈を家に入れ、母は里奈の両親と警察に、父は自治会の人達に連絡をしていた。

私は里奈をリビングに連れていき、服を着替えさせ、傷の手当てをして、落ち着くのを待った。

30分程経っただろうか。里奈の両親と警察が私の家に来た。そして、落ち着きを取り戻しつつある里奈が、何が起きたかを話し始めた。

夜の9時頃、計画通りに皆集合して、仲間の1人が持ってきたハシゴでフェンスを越え、遊園地の中に入った。雑草だらけの道を進んで、アトラクションの中をはしゃぎながら進んでいった。それから遊園地の中央部にあたる広場で、線香花火をしたり、男子達が隠し持ってきた酒を飲んだりして騒いでいた。

しかし次第に気分がだれてきてしまい、もう帰ろうという雰囲気になった頃、先輩達の機嫌が悪くなり、口論になった。結果残りたい人と帰る人に分かれ、残った先輩2人と田辺君と女子2人はそのまま広場の奥に進んで行った。

自分達は正門まで戻ったが心配になり、しばらく待っていたそうだが、1時間待っても戻ってくる気配が無い。時刻は深夜0時を過ぎていた。

なんかヤバイかも、様子見に行く、と男子達が遊園地の中に再び入って行ってしばらくすると、獣のような臭い(里奈は動物園みたいな臭いだと言っていた)と、何か犬のようなものが唸る声が周囲を囲みだした。携帯も何故か圏外になっていて、恐怖とパニックで散り散りになり、自分は助けを求めてここまで逃げて来た。

と、里奈は1つ1つ思い出すように話した。手足がガタガタと震え、顔は青白くなっていた。

獣の話の部分は警察は半信半疑だったが、とにかく遊園地の中は重機もあるし危ないので、すぐさま捜索が行われることになった。

自治会の人達も捜索に参加し、里奈と私の父も有志で参加することになった。

里奈は更に詳しい聴取のため、母親と警官に付き添われながら家から出て行った。

パトカーのサイレンが鳴り響き、辺りは騒然となった。

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その後明け方近く、遊園地の正門近くで女子2人が保護され、様子を見に行った男子4人と、先輩と一緒だった女子の内の1人が広場で見つかり、保護された。怪我をしていたが軽傷で大事には至らず、手当てを受け警察に連れて行かれた。

しかし、残りの生徒、先輩2人と田辺君、女子1人は未だ見つからず、携帯も繋がらない。フェンスの外も範囲を広げて捜索したが、目撃者もおらず、どこかの家に保護されたという連絡も無い。

広場の奥は遊園地が閉園する何年も昔に閉館し、廃墟と化したホテルがあるのだが、コンクリートの3m近い壁で囲っているため実質行き止まりで、中に入るのは有り得ないとのことだった。

確かに、何度か遊園地に行ったとき、デカい壁があるなと思っていたが、その奥がホテルだったとは、その時初めて聞いた。

遊園地の取り壊しは生徒が見つかるまで延期となった。

私は父の仕事の都合で中学卒業後別の街に引っ越した。里奈達はその後学校にも姿を見せぬまま、どうなったかは知らされず、大人たちの配慮でマスコミに事件の話が取り沙汰されることは無かった。事件の余韻を引き摺り、町全体にも学校にも、どんよりとした、重苦しい空気が漂うようになった。そして皮肉にも、町のシンボルだった遊園地だけが、かつての面影を残していた。

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それから10年が過ぎ、中学の同級生から手紙が来た。同窓会の知らせだった。

地元には足が遠のいていたが、会場が都内だったので参加した。

懐かしい顔ぶれと、皆それぞれ大人になってからの話に花を咲かせた。夜は2次会に参加し、10人程で居酒屋で飲んでいた。酒が回ってきた頃、1人がふと思い出したように言った。

「そーいえば、遊園地壊されちゃったなぁ。あれからみんなどうなったか知ってる?」

その場の空気が一瞬固まった。だが、私はずっと、里奈を止められなかった罪悪感を心の隅に抱えていた。今日も里奈達は来ていない。

「どうなったの?」と聞いた。

中野君(仮名)はあの事件の何年か後、保護された女子の1人である歩美(仮名)と偶然会って話をしたそうだ。彼女達は未成年のたばこと飲酒、不法侵入などで罪に問われたが監察処分となり、更正施設に送られ、今でも事件の事が原因でカウンセリングなどの療養をしているそうだ。

そして、あの日保護された全員が、

「獣の臭いと何かが吠え唸る声がした」

と警察での聴取で話したという。

歩実は先輩達と一緒に奥まで進んだが、廃墟の手前まで来たときに怖くなり引き返した。そして唸り声がして必死に逃げ、男子達の姿が見えた後そのまま気を失ってしまい、目が覚めると大人たちに囲まれていたそうだ。

歩美はそれ以上は口を閉ざし、何も語らなかったそうだ。歩実と会ったのはその1度きりで、今では連絡先もわからないという。

結局行方不明者が発見されぬまま遊園地の取り壊しは行われた。取り壊し中にも何か手掛かりが無いか捜索が行われたものの何も発見されず、更地になってしまった。

二次会が終わり、私は家に帰って遊園地についてネットで調べた。

あるオカルト系のサイトに、開園当初の遊園地の様子を写した写真が載っていた。

1960年代に建てられたものだから、私が子供の頃にはもうすでに年季が入っていたので、真新しい頃の遊園地を見るのは新鮮だった。そして、ホテルの姿も映っていた。遊園地の利用者のために作られたもので、当時としてはかなり豪華な、都心の高級ホテルのような造りになっていた。しかし、ある時客室で首吊り遺体が発見され、その後もホテル内で自殺したり突然死する人が出たため、ホテルはわずか8年程で閉館したのだが、何故か取り壊されず、遊園地が無くなった今でも廃墟として残ったままになっている、と書かれていた。

オカルト系の掲示板でも、一部のオカルトマニアの間で心霊スポットとされていて、事件が公にならなかったことで彼らの好奇心を掻き立てるものとなっていた。掲示板に載っていた最近の写真を見ると、高いコンクリの壁の外を、頑丈そうな2m近いフェンスで更に囲っていた。

気味が悪くなり、もう寝ようと思い携帯を閉じようとしたとき、あるスレッドが立った。

タイトルは、「肝試し来たー!」

ああ、どこか心霊スポット的なとこ行って書いてるんだなと思い、なんとなく見ることにした。

「後輩の男子と女子とひと夏の思い出作り(笑)」

「実況中継行ってきまーす」

「壁たけぇー!どうやって上るのこれ(笑)」

「隅っこに入り口発見」

「マジヤバイ。ガチの廃墟来た!」

そして1枚の写真が投稿された。懐中電灯に照らされた大きめの施設。入り口の看板は文字が剥がれていて判読不能だ。

「記念写真!」

5人が映っているが、ブレブレだった。ジャンプしたりピースしたり、見た感じどうやら学生のようだ。自撮りだったみたいで、撮っている本人は顔の上半分だけが映っていた。

「鍵掛かってなかった、楽勝!」

「吹き抜けがあった!」

「ビデオカメラで撮っていきまーす」

「酒のせいで上手く撮れねぇ(笑)」

「なんか隅っこに石碑みたいなの発見!」

「上手く読めない。ヤバいやつ?」

見た感じ普通の石碑だった。暗くて文字はなんて書いてあるかは不明だ。

誰もコメントをしていない。見ているのは私だけなのか?

「地下室降りまーっす」

「なんかくっせー、この中」

「マジでくせえ(笑)動物くせー」

「なんか鳴き声聞こえた!」

「人影通った?てか引き摺る音してるんだけど」

「女子がいなくなった。どこいったんだ」

「地下室出たのにまだ臭い」

「女子が先に逃げたっぽいのでもう出ます」

「謎の塊発見、てか盛り塩だった。俺たち踏みつぶしてたっぽい。どうしよ」

それから20分程投稿が途絶えたあと、

「入り口が消えてる」

「なんか吠えてるこわいよ」

「ビデオカメラこわれた」

「たすけて」

「まっくら、こわい、朝がきてほしい」

投稿の更新日時を見る。

2002/8/12 AM7:24

現在の時刻は22時だ。それに午前7時なら朝だし。しかも2002年って、これバグってるのか?

そしてこの日付。遊園地の事件があった日だ。

「たすけて」

「たすけて」

「たすけて」

「けもの こわい」

動画が投稿された。どうやら携帯で撮ったらしい。

再生すると、真っ暗な中に懐中電灯らしき光が点滅していた。

何かに怯えるような呼吸の音が途切れ途切れに聞こえ、その奥から何かが唸る声が聞こえた。

唸る声はどんどん大きくなり、近づいてくる。犬のような、でも違う。

まるで、人間が大型の肉食獣の声を真似ているように聞こえた。

懐中電灯のライトが、唸り声のする方に向く。汚れた着物の裾と裸足の足が照らされた。

そしてライトが上に向けられた瞬間、

「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”」

男の叫び声で、動画は終わった。この動画以降、投稿が更新されることは無かった。

あの声は何だったのか。どうして日付が過去なのか。けど、何故かタチの悪いいたずらと思えなかった。

動画をもう一度再生し、ライトが足を照らす手前で一時停止した。奥の方に人が映っている。

田辺君だ。中学2年の姿の。

そして、ライトが上を照らした瞬間、そこには、首がぐにゃりと、おかしな方向に曲がった、唸り声をあげる着物姿の人間の上半身が映っていた。何人も。

ホテルはコンクリ壁で完全に囲われているはずだ。入れるわけが無い。それに、この動画は、どこから投稿されているんだ?

投稿された施設の写真と、石碑の写真をパソコンに取り込んで明度を最大限まで上げた。

真っ暗でよく見えなかった施設は、どう見てもあの閉館したホテルだった。

そして石碑には、『旧○○村刑場跡』と刻まれていた。

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彼らは、抜け出せていないみたいだ。今でも。この壁の中から。

その年の冬、行方不明者の家族から死亡届が出された。

ホテルは今でも、取り壊されないままだ。

Concrete
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