中編3
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合鍵を作らせる女

初めて合鍵を送った男は、サイコパスだった。

初めは男のことをよく知らなかったし、とても優しかったのでつい心を許して、鍵を渡してしまったのだ。

ところが、しばらくすると、勝手に自分の友達を泊めたり、近所迷惑も顧みず大声でギターをかき鳴らして歌ったり、あげくの果てには、どこからか女を連れ込んできたり。

そのことに苦言を言えば、殴る蹴るの暴力を振るわれた。

親にだって叩かれたことのない女はショックだった。

もう限界だった。一日も早く、この男から逃げたい。

だけど、また暴力を振るわれるのが怖い。

男の晩酌のビールに睡眠薬を入れた。最初から入れるとバレるので、ある程度ベロンベロンに酔っぱらった状態で、程よく酩酊している時に入れた。

もう酔っぱらっているので、舌もマヒしているのか、男は、一気にそのビールをあけた。

ソファーで寝込んだ男の首を、電気コードで思いっきり絞めた。

女ひとりの力では厳しいので、電気コードの端っこは柱にしっかり括り付け、男の首にそっと電気コードをかけて回し、一気に全体重をかけて締め上げた。

男はもがき、苦しみ、掻きむしって食い込んだコードを取ろうとしたが、首に血をにじませるだけで、取れなかった。そのうち、男はぐったりとソファーに倒れこんだ。

やってしまった。

でも、これで地獄から救われる。

困ったのは、死体の処理だ。

重い男を引きずり、ようやく風呂場に叩き込む。

男を解体するのは、意外と骨の折れる作業だった。

だが、意外と小分けに分けることができた。

女は、大きな冷凍庫を買った。

小分けにした男を、丁寧にビニール袋に包んで、冷凍庫に収める。

しかし、ゴミとして捨てれば、きっと見つかってしまうだろう。

埋めることも考えた。

しかし、このご時世、どこにでも防犯カメラがついている時代だ。

不穏な行動をすれば、きっとどこかでボロが出る。

そこで女は、考えた。

少しずつ、食べてしまおう。

最初は、人としての理性が邪魔をして、食べるのには勇気が要った。

だが・・・。

「美味しい!なにこれ!」

女は、今まで食べたどんな肉よりも美味に感じた。

女は、人の肉の味が忘れられなくなった。

女が転職した職場に、よく太った男が居た。

そろそろ冷凍庫の男の肉が底をつきかけていた。

最初の男は、細身だったが、太った男の味はどうなのだろうか。

その味を想像すると、女は何としてもその男を手に入れたくなった。

しかし、以前の男は身寄りもなく、ろくでなしだったので、居なくなろうが、誰も気にとめることはなかったが、この男はそうはいかないだろう。

家族も居れば、職場の仲間とも上手くやっているようだ。

この男がいなくなれば、きっと、一番近しい人間が疑われるはず。

だから、女はこの男と親しくなるわけには行かない。

だが、男には、自分に興味を持ってもらわなくてはならない。

女は、男が自分に興味を持つように、男の好みを熟知し、気に入られるように振舞うが、決して親しくはならなかった。

女の思惑通り、男は、女に熱を上げていることは手に取るようにわかった。

手ごたえを感じたところで、女はわざと、無防備に鍵を盗ませて合鍵を作らせることに成功した。

これで、男とは、ほぼ接点なく、男が勝手に自分の部屋に侵入してくるのを待つだけ。

案の定、男は引っかかった。

それにしても、ドジな男だ。

侵入しておいて、靴も隠さないなんて。

刃物を使ってしまったので、床が汚れてしまったが、これは拭き取ればなんとかなるだろう。

ああ、この桂という男は、どんな味がするのだろう。

女は、早くこの男を調理したくてたまらなかった。

それには、またあの骨の折れる解体作業をしなければならない。

桂という男を解体してみれば、意外に黄色い脂肪の塊が多くてげんなりした。

「不味い。」

女は、牛肉や豚肉のように、人にも美味いのと不味いのがあることを知った。

さて、この肉はどうしよう。

考えた末、女は、もう一つ冷凍庫を買うことにした。

そして、女は、中肉中背の適度に霜がふってそうな人物に目を付けた。

「店長、美味しそう。」

Concrete
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@麻央 様
コメント怖いありがとうございます。
アワードは無理だと思いますw
ここ最近、こちらに足が遠のいていましたし、夏ということで少々多めに投稿してみました。
実は、他所で依頼されてた原稿依頼が来なくなったので暇ってこともあるのですが・・・w
また何か、お祭りがあればぜひ参加させていただきたいです。

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