中編3
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さよとカナと私

田舎の車窓は、酷く緩慢に流れているように見えた。

佳代子の逸る心をまるで焦らすかのように、ゆっくりと流れていく。

早く、あの子に会いに行かなくちゃ。

あの子が、架空の友達のさよちゃんと旅立ってしまってもう一年経った。

その間、どれだけ佳代子が加奈子を探しても見つからずに、酷い喪失感に打ちひしがれていた。

だが、東京の親戚から加奈子を見た、居場所がわかったとの連絡をもらい、居てもたってもいられずに、佳代子は電車に飛び乗り、加奈子の元へと旅立った。

加奈子がさよという人格を持っていようと、関係ないじゃないか。

加奈子は加奈子であって、さよごと認めてやればいいだけの話だったのだ。

それを、佳代子は、無理やりに加奈子を元の加奈子に戻ってほしいと願ったから、加奈子はきっと自分の心の中にさよを閉じ込めてしまったのだろう。それを、勝手に、佳代子は、加奈子は元の加奈子にもどったと勘違いし、またさよが現れて、動揺してしまい、加奈子を傷つけてしまったのだ。

加奈子、ごめんね。

あの夏、一番怖い思いをしたのはあなただった。

あの夏、ショッピングセンターで加奈子を見失って、一年後、酷い状態で男の部屋で見つかった。

親にもぶたれたことのない加奈子が、見知らぬ男の部屋に監禁され、ぶたれながらゴミのような部屋で生活してきた。怯えた加奈子の表情と、体の生傷が今も佳代子の目に焼き付いている。

あの日以来、あなたはあまりのショックに、その一年を他人の記憶として処理しようとした結果、小夜を生んだ。

佳代子はようやく加奈子の住む部屋にたどり着いた。

「お母さん?」

部屋の扉を開けた加奈子は、目を大きく見開いて驚いていた。

加奈子は、佳代子を部屋にあげると、冷たい麦茶を出した。

「ありがとう。」

今は、加奈子なのだろうか。それとも小夜?

部屋には、二人分の食器と歯ブラシ。

小夜は居る。

「お母さん、酷いことを言ってごめんね。」

ああ、この娘はやはり私の娘なのだ。

どちらであろうと構わない。

「ねえ、帰ってこない?一緒に暮らそう?もちろんさよちゃんも一緒に。」

佳代子は、加奈子を見つめた。

「えっ?」

加奈子は戸惑っているようだ。

「いいじゃない。ね?三人で暮らしましょう。」

「で、でも。さよちゃんのお父さんが、許さないと思うの。」

佳代子は心が痛んだ。いまだに、あの男の幻影が加奈子を苦しめているなんて。

「さよちゃんのお父さんには、私が話をしてくるから。待ってて。」

「でも、お母さん。さよちゃんのお父さんは怖い人だよ?」

「大丈夫。お母さんに任せて。」

佳代子はとあるアパートへ向かった。

その男のアパートは古く、女の佳代子にも簡単に鍵を壊すことができた。

足の踏み場のないゴミに埋もれてその男は眠っていた。

佳代子は躊躇なく、その男の首に向かって斧を振り下ろした。

最近の斧は切れ味がいい。

女の佳代子にも、簡単にその首をはねることができた。

「加奈子、さよちゃんのお父さんは亡くなったわ。」

「お、お母さん!いやああああ!」

箱に詰めた男の首は、なかなか重かった。

「だからね、加奈子、もう安心していいんだよ。さよちゃんも、ほら、安心して。一緒に、帰りましょう。」

遠くでパトカーのサイレンが鳴っている。

立ちすくむ加奈子と、笑顔で男の首を差し出す佳代子。

やがて、警察が佳代子を連行しようと、佳代子を両脇から挟んで押さえた。

「いやいやいやああああ。私は、加奈子とさよと一緒に暮らすのおおおお!」

佳代子の絶叫が響く。

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「あら、今日は、加奈子なの?さよなの?」

面会に来た娘に向かって、佳代子は笑顔で微笑んだ。

娘は、ゆっくりと顔を上げると、今まで出したことのないような低い声でこう言った。

「俺だよ。」

「ああ・・・・・。」

佳代子は、絶望して項垂れた。

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