長編8
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呼ばれ辿り着いた先は…

2~3年前くらいの出来事ですが

体調の都合で勤めていた会社を辞め

一人暮らしも辞めて実家に帰ったばかりの頃です

恥ずかしい話でもありますが

いわゆる精神的な病といったところで

無気力に毎日ぼんやりしていたのですが

まれに我に帰るというか冷静になる時があり

自分どうなるのかな…

働かないとな…

こんなので自分、働けるかな?

生きていけるのかな?

そのままズルズルと鬱に

というループが出来てしまい

自分の中でもどうにかしようとしていた時期でした

やっぱり、お金とか将来とか考えると

どうしても不安になってしまうもので

その頃の唯一の気晴らしになっていたのが

夜の散歩と親友との通話でした

その友人の仕事が夜勤の警備員のようなもので

ある程度の雑務が済めば割りと自由がきくらしく

週に数回、夜勤中であれば

自分を気にかけて連絡をくれたり

不安から逃げて自分からかけたりと

しょっちゅう通話をしていました

当然、夜中に通話すると家族に迷惑ですので

(あと、実家はマンションでしたので)

通話中は外に出るようになり

そのまま散歩という流れが出来ました

実家は割りと田舎町でコンビニが駅前に1件

駅近くはそれなりに栄えていますが

少し歩けば田んぼか山、あるいは川といった

自然の残った町で夜の散歩も

(場所により暗すぎるということを除けば)

気晴らしには最適で通話を切ってからも

いつもブラブラ気まぐれに

遠回りをしながら帰るのが当時の流れでした

そんな風に日々の楽しみを見つけ

それに慣れだした頃…

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いつも通りに友人と通話を終え

今日はあの道で帰ろうかななどと考えつつ

軽く遠回りしながら歩いていた時

ふと、喉が渇いたので自販機を探して

辺りを見回して初めて異変に気付きました

全く見覚えのない原っぱに自分はいました

music:2

説明が下手で申し訳ないのですが

山と山の間、背の高いススキを左右に一本道といったところで

自販機はもちろん、街灯すらありませんでした

何がなんだか理解出来ず焦ってとりあえずスマホで

地図を開こうとしましたが何故か通信出来ず

アプリはもちろん、通話も出来なくなっていました

確認出来たのは時刻だけ

深夜2時を少し過ぎた頃でした

突然の通信不良もそうですが更に不思議な話で

自分がそこに辿り着くまで

通話を切ってから約30分程度の間

自分がどういう道、経路を歩いたのか

その時、全く記憶に残っていません

通話を切りすぐに音楽を聴きながら歩いていたので

(親友との通話はイヤホンマイクでしています)

あまり周りを気にしていなかったのはそうですが

いくら無意識に近い状態であったとはいえ

知らない道を、しかも夜中に通るというのは

自分ではちょっとありえないことで

(というか自分に限らず誰しもそうだと思いますが)

まして人生の3分の2近くを過ごした地元で

全く知らない道に迷い込むというのが

にわかには信じ難いことでした

周りを見回してもさっき言った通り何もなく

前にはややカーブを描いてる同じような景色の道

後ろも似たような感じで少し先は森のように見えました

しばらくその場で途方に暮れていましたが

我ながら不思議と冷静に

そして呆れるほど単純に

とりあえず前に歩けばなんとかなると

(内心は言うほど明るくはありませんでしたが)

ゆっくり歩きだしました

20分程度歩くと、別れ道に出ました

片方は今まで通りの山沿いの道

もう片方はその山に向けて登る道

当然どっちに行けば良いのかも分かりませんので

とりあえず、先を見渡そうと目を凝らしていると

山に向けて登る道の方にうっすらと

民家の屋根のようなものが見えたので

家があれば人がいそうで安心だと考え

自分はとりあえずそちらに向けて歩くことに

登っていくにつれハッキリと民家であると分かり

更にその先にもいくつか家が建っているようで

少し安堵しつつ進んでいきました

(当然、明かりなんて付いてませんでしたが)

そして、いくつかの民家を通り過ぎ

坂の終わりが見え始めるにつれ民家も数が増え

地面も砂利道(というか土だったと思います)から

アスファルトに変わり更に安心し自分は進みました

(ここで周辺の民家に駆け込んだりしなかったのは

何故なのか我ながらよく分かりません)

坂を登りきると少し先に明らかにT字になった車道と

街灯の明かりが見えて思わず走り出した自分は

その車道に着くと既視感を覚えました

間違いなくこの車道を通ったことがある

何故かそんな風に確信しながら辺りを見渡すと

左側の先にまたも見覚えがあるような大きな建物が

まさかと思いながらその建物に向かうと

それは間違いなく記憶にある廃校でした

sound:15

うちの町はそれなりに広い田舎町ということもあり

かつては小学校が4つありました

(一応、建物的にはまだ4つとも存在していますが)

自分の住む中央部にある学校(母校)

町の北側、それなりに大きな川向こうに一校

(こちらも今は廃校に)

町の南、山の中腹部を開拓して出来た住宅街に一校

そして自分が辿り着いたのは

南の住宅街の東側、更に山の奥にある小さな集落にある一校でした

集落の人口の低下に伴い廃校になりながらも

今では数少ない木造の校舎である為か

はたまた集落では唯一の大型建造物である為か

或いは単に行政がサボっているのか

詳しい理由は分かりませんが

廃校というには綺麗なままそこに残る校舎の前で

自分はそんな今の現状とは全く関係ないことを考え

現実逃避をしていました

信じられないことだから

有り得ないことだから

今まで歩いてきた全く知らない道から

馴染みのある知っている場所へと辿り着けた安堵感

そして地元民だからこそ分かる非現実的さ

それに伴う、言い様のない恐怖

全く異なる感情に、同時に襲われた自分は

その混乱から立ち直るのに時間がかかりました

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ここで自分がこの時、そして今もなお

最も恐怖を感じ、何より不思議に思うのが

自分がどうやってその集落に辿り着いたのか…

何故なら現実的に考えて不可能であるからです

自分が友人との通話を終えてから

無意識に歩いた約30分では

その集落に辿り着く事は出来ないのです

地形的な説明をさせて頂くと

自分の自宅がある町の中心部から

集落の廃校までの直線距離が約3km

その日、通話を終えた地点からなら

約2.5kmと言ったところのはずです

これだけ聞くとそこまで非現実的には

感じられないでしょうが…

先に記したようにその集落は山の奥にあり

実際の道はS字が連続して幾重にも続く登り道

また、自分が我に返り周囲の異変に気付いた場所は

(次から異変開始ポイントと略してみます)

その集落の更に奥になるので

必然的にもっと距離は伸びます

まだ回想の途中ではありますが

後日、自分が実際に検証した結果を告げますと

通話終了ポイントから異変開始ポイントまでを

最短ルートで歩いたところ

"1時間8分"という結果でした

地図によると距離にして4.6kmらしいですが

当日の倍近い時間がかかっていました

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sound:34

しばらくボーっとしていましたが

ふと我に返り時刻を確認

午前3時半を過ぎていました

スマホの通信は復活していませんでしたが

何はともあれ知らない道から

距離はあるとはいえ知っている道に出たことで

心に多少の余裕が生まれた自分は

近くの自販機で飲み物を買い

それを片手に帰路を急ぎました

辺りを木々に覆われ街灯も少ない真っ暗な道でも

特に問題なく歩き続けること40分強

自宅のマンションが見えてきた頃

その時には私は疲れ果てて

(何しろ友人との通話中を含めれば

6時間近く歩きっぱなしでしたから)

それまでに感じていた疑問や恐怖も忘れていました

だからでしょうか

突然、震えたスマホに特に驚くこともなく

いつのまにか通信が戻っていることにも

平然としてしまっていました

空もぼんやりと明るくなり始めた頃

ようやく、やっとの思いで自宅に帰り着いた私は

さっさと眠りにつき、懐かしい夢を見ました

中学時代のまだ親しく話せる友人がいた頃

(というのも中学時代の途中で何か失敗したらしく

気付けばボッチが当たり前になっていた自分なので)

あの集落の廃校出身であった友人の夢でした

その友人はコミュ力高めな好青年でしたが

たった一つだけ不思議な所がありました

居残りや寄り道といった事だけは何があってもせず

放課後になるとすぐに大慌てで帰っていくのです

当然、年頃の学生でしたから

性格上つき合いそうな寄り道等を頑なにしない彼を

当時、不思議に思い自分や周りの連中は

毎日のように急いで帰る理由を尋ねたものでした

いくら尋ねても適当に誤魔化す彼がたった一度だけ

自分に対してだけ打ち明けると言ってくれた

(彼が自分にだけと言った理由も怖話ネタなので

いつか書こうと思いますが今は端折ります)

その瞬間に目が覚めました

あんなに寝起きでしっかり頭が冴えたことなど

後にも先にもこれっきりかもしれないくらい

自分はハッキリとあの時彼が話してくれた

とあるいわくつきスポットと

それにまつわる怪綺談を思い出していました

そのいわくのスポットとは

かつて、あの集落近辺では土葬の風習があり

人が死ねばみな必ず同じ場所に埋めていたという

時代と共に土葬の風習は無くなっていったが

かつて埋葬されたものは未だそこに眠っていて

死の近い者を呼び寄せるらしいとか

そして怪綺談というか一種の都市伝説なのだが

その集落内では大人が子供に代々言い聞かせるほど

まことしやかに囁かれている噂らしいが

その集落に住まう者が日が沈んでから帰路を急ぐと

通り道でなくとも繋がっていない道にも関わらず

気付けば何故か例のいわくスポットに

辿り着いてしまうのだという

間違いない、そうとしか思えない

或いは外れていたらどうしようかと

大慌てで自分が昨日辿り着いた

あの異変開始ポイントを調べようとスマホを開くと

ロックを解除するなりマップが開かれていた

そして記憶にあるが身に覚えのないピン📍を見て

確信と恐怖から食い入るように画面を見つめた

例のいわくスポットで間違いはなかった…

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それからしばらく、自分はもうすぐ死ぬのかと

正直に言えば鬱というよりヤケになり

しばらくだらし無い生活を続けていたが

もう2〜3年が過ぎてもまだ私は生きています

今でも夜の散歩は週一くらいで続けているが

アレからあそこに辿り着いたことはない

今でも不思議に思い首を傾げる体験だったが

最近、気になる話を聞いて

少し謎が解けたような気がしている

死が近いとは、気が弱っていることかもしれないと

あなたも気が滅入っている日は

早く帰った方がいいかもしれない

呼ばれ辿り着いた先から

必ず帰れる保証はないから…

music:3

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