中編3
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同窓会でのこと

「だか……らぁ、……居た……んだよ……お前の隣に……間違いないん……」

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スマホを耳から五センチ離しても聞こえるくらいの甲高い声で、郷田が話し続ける。

話し方から声のトーンまで、中学時代とほとんど変わっていない。

ただ、電波状態がよくないのか、ちょっと聴き取り難い。

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「氏家!……いじめられっ……子の氏…家だよ。

お前の隣に……立っていた…じゃな……

二十年…経っても……ちっとも変わって…なか……

茶髪の髪を……坊っちゃん刈り…し。

病的に色白で……ガリガリに痩せ……て。

服なんかも……久しぶりの同窓会だというのに、ダサい長袖のシャツを……しっかりズボンに入れ…。

あいつ……せっかくの集まりなのに……ずっと、お前のテーブルに……」

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三日前に、ホテルの大広間を貸切り、中学の同窓会があった。

敷き詰められた赤いカーペットの上に、いくつもの丸テーブルが置かれ、立食形式で行われた。

クラス単位ではなく、当時の学年全部が集まったので、壮大な集まりになった。

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郷田は俺と同じクラスだった。

いわゆるツッパリで、授業のボイコットやタバコはしょっちゅうで、他の学校の生徒とよく喧嘩して、ケガをさせては、停学処分になっていた。

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氏家というのは、同じクラスにいた、見るからにひ弱そうな奴で、郷田と仲間のツッパリ連中の、格好のいじめの標的にされていた。

風の噂では、二十歳になる前に病気で亡くなった、と聞いていたのだが……。

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「ところ……で、お前、氏家とは……何を話……したんだ?」

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「話したもなにも、氏家なんかいなかったぞ」

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郷田は、同窓会のとき、氏家が、俺の隣にずっといた、と言ってるのだが、本当に全く気が付かなかった。

もともと、存在感の薄い奴だったから、気が付かなかったのか……。いや、それにしても、隣にいたのなら、絶対に気が付いているはずだ。

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「そうか……。なら、いい……んだ。」

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郷田はいかにも残念そうにつぶやき、そのまま電話を切った。

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「なんだ?こいつ」

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電話の後、三日前の同窓会のことを何度も思い出したが、どうしても、氏家の姿は見当たらなかった。

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翌日また深夜に、携帯がコールした。

また、郷田だ。

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「な…あ、氏家、いた……よな……」

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まただ。

こいつ、いったい、何でこんなにこだわっているんだ。だいたい、何時だと思ってるんだ。

しかも、相変わらず聴き取り難い。

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「昨日も言っただろう。だから、いなかったんだって!だいたいお前、非常識だぞ。今、何時だと思ってるんだ!」

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「ねぇ、どうしたの?」

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隣で寝ている美佳がめをさましたのか、半身を起こしている。

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「そうか……。いな……かったのか。なら……い……い。」

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電話が切れた。

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「なんだ、こいつ。頭おかしいんじゃないか」

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俺は携帯を枕元に起き、また、横になった。

美佳も枕に頭を乗せ、心配げに聞いてくる。

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「いったい、どうしたの?昨日から」

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「郷田だよ。中学時代、同じクラスにいただろう。

ツッパリの郷田だよ。」

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「ああ、あの不良の、郷田さん」

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美佳とは中学時代からの付き合いで、今は、いろいろのいきさつで、同棲している。

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「そうなんだよ。あいつ、この間の同窓会のとき、いじめられっ子の氏家が俺の隣にいた、と言って………」

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「ち、ちょっと待って!」

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突然、美佳が話をさえぎる。

そして顔を俺の方に向けて、ゆっくり静かにつぶやいた。

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「確か、氏家さんは心臓の病気で、郷田さんはバイク事故で、二人とも二十歳になる前に亡くなったはずなんだけど……」

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「え!そんな……」

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慌てて携帯を手に取り、着歴を確認した。

そこには、郷田の名前はなかった。

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