長編21
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方向音痴と化け物

いつもの如く中庭で椅子に座って1日の疲れをここで癒すのがほぼ日課になってしまった

小さな庭だけど静かな時間が流れる場所

夕食を終えお風呂に入る前の癒しの時間

ここでコーヒーを飲み少しおやつを食べている

サラリーマンのいけないところは雑用が多すぎること

そしてみんなに合わせること

これで精神が参るし肉体も参る

お酒はなるべく飲まないようにはしている

末娘の葵が寝る前にちょこちょこときては庭で遊んでいる

これも本当に癒される

たまに楓もタブレットを持ってきて絵を描いている

楓の夢はモデルか絵描きになりたいんだそうだ

たしかに楓の絵はうまい

将来は美術大学でも入ってもらいたい

モデルもいいかもしれない

ちょっと目は少しだけ吊り上がっているがF子と同じで顔たちがくっきりとしている

幸いにも楓は少し人見知りはするがすぐに周囲に溶け込める素質がある

そこがF子と全然違う

はじめてF子とスタジオへ行ったときに

はじめは周囲の環境がわからずにF子の傍から離れようとしなかったらしい

だが1時間もしないうちにもうスタッフと話をしてたらしいのだ

楓の行動にF子は非常にうらやましいと言っていた

S子も夕食の片づけが終われば中庭によく来ている

4人の子供たちとトンチンカンとおふくろの面等は相当なものだろう

幸いにして生まれつき能天気なのが取り柄なのか愚痴を聞いたことが無い

だからおふくろやトンチンカンはS子をすごく気に入っている

お風呂まであと1時間前の時にふと・・・思い出したことがある

あれはたしか中一の時だったかな

2月の寒い冬の時期だった

自転車で結構あちこちカメラ撮影を楽しんでいた

あれはたしか隣の県で自転車で2時間くらいかかった場所だった

S君と私は主に自然とか神社とかをメインに写していた

今みたいにデジカメなら失敗しても削除すればいいことだが

フイルムの時代、お構いなく撮れるものは撮っていこうという時代ではなかった

フイルムや現像代が高くて私たちのお小遣いではすぐに無くなってしまう

だからここぞ、という場所以外は写したくても我慢をしていた

まぁ私たち2人はどこかへ出かけた、と言う思い出を作れればいいかな、と思っていた

いつもはS君と2人で撮影にしに行くのだが今回はなぜか妹たちも連れていけ、とS子が

うるさく言うのでしぶしぶ承諾をした

妹たちが参加してもいいのだがなにせ遠い場所

それに真冬で自転車だから相当きつくなるはず

それを妹たちに説明をした

それでも連れていけ、と言ってきたので連れていくことにした

妹たちはまだ小学生だ

付いてこれるのかとても心配だった

コンビニも少ない時代

うまくコンビニが見つかればいいが

とりあえずは無理をせずに行くことに決めた

当日、朝4時、外は真っ暗

私とF子は自転車に乗りS君の家まで走った

外は暗く寒さが身に染みる

昨晩にF子に朝早いし寒いし家でS子とおしゃべりをしてればいいじゃん、と言ったら

なぜだがアニキたちと一緒にいなければいけないという衝動に駆られたそうだ

S子も同じでアニキたちの傍から離れたらいけないような気がするとF子と話をしていたのだとか

S君の家についた

S子ママが出てきた

すぐにS君たちを呼んでくれた

4人揃ったところで打ち合わせをした

行き場所はTVを見てた時に一度行ってみたいなと

思っていた場所

地図で調べると結構遠い

まぁのんびりと行けばいいかな、と言う具合で出発をした

冬の朝と言うか夜というか通る車が少ない

走りやすいことは走りやすかったけれど

路面が少し凍ってた

滑らないように慎重に自転車を漕いだ

シーンとして静か

ただ後ろがやかましかったけれどね

S子とF子(こういう時になぜか声が普通、普段は小さい声で話すのに)

マジでうるさかった

この2人本当に仲がいい

喧嘩をしてるところを見たことが無い

(のちになぜ喧嘩しないのかがよくわかったけれどね)

1時間ほど走った

やはりきつい

公園が見えてきたのでここで休憩をした

もう午前5時を過ぎていた

まだ暗い

公園は誰もいない

4人はとりあえず自転車を置いて椅子に座った

ジュースとS子ママ特製のおにぎりを食べた

S子ママの料理は本当にうまい(・・・なぜS子はこんなにも料理が下手なのだ

あの事件からだいぶ料理の味はよくはなったけれど・・・いかせん・・・まだまだ・・・)

S君は相変わらずカメラから手を離さない

公園を一枚写してた

それと3人の食事風景も撮った

「おっちーー!!お兄ちゃん!!!ちゃんと私たちを美しく撮るんだぞ

下手っぴに撮ったらママに言いつけるぞ!!」とS子のでかい声

「うるさい!!S子!!手がかじかんでシャッターが下りん!!

・・・うううう・・・被写体が・・・」とS君、ぶつぶつと言ってた

たしかに手袋をしてても手が寒い

2人はポーズをとってた

「早くお兄ちゃん!写してよ、このポーズけっこうきついんだからさ」とS子のでかい声

「能天気!うるさい!!」とS君怒った

なんとか写し終えた

30分ほど休憩をして

また目的地まで走り出した

段々と周りの風景が寂しくなってきた

通る車も休みのせいか一段と少なくなった

少し休憩をしたおかげで走るペースも速くなってきた

だいぶ山の近くに近づいてきた

民家も少なくなってなんとなく不気味さが増したような気がした

一度脇道で自転車を止めて地図を見直した

今のところは地図通りに走ってきている

もう少しで目的地の神社が見えてくるはずだ

「おし!もう少しで目的地の神社が見えてくるはずだぞ」と大きな声を出した

「おっちーー!!お兄ちゃんたち、私たち少し疲れんたんだぞ、ここで少し休憩をしてほしいんだぞ」とS子が情けない声を出してきた

F子の顔色も少し悪い

そんなにスピードを出して走ってきたわけではないのだが・・・

「F子、大丈夫か?」と私はF子に聞いた

「お兄ちゃん、少し息苦しいよ・・・ここで休憩してほしい」と言ってきた

朝早いから少し寝不足もあったかもしれない

「おし!ここで1時間ほど休憩しようか・・・」と私はみんなに言った

適当なところに座ってジュースとお菓子を食べ始めた

やはり小学生の妹たちには遠すぎた

でもここまでついてきてくれた

目的地も近くだから慌てることもないだろうと思ってた

ところが・・・

S君、まわりをキョロキョロし始めた

「うーーん、いい景色だ!朝焼けもきれい

よし!ここで何枚か撮ろう」と私に言ってきた

「だな、ここで何枚か撮ろう、けっこういい場所だね」と答えながら

あちこち動き回ってた

ところが・・・・S君、細い道を発見してしまった

一応車のわだちはあったから奥に何かあるかもしれないと言い出しはじめた

わたしも興味が湧いてきた

時間もたっぷりあるし少し冒険してみようかということで休憩が終わってから

この道の探索をしようと決めた

しかし、F子の顔色が全然よくならない

気分は大分落ち着いたみたいだが

なにかしら嫌な予感がする、とF子特有の予感をいいだしはじめた

F子の予感は必ず当たる

どうしようか、とS君と相談してたところ

なぜかF子の顔色がよくなってきた

普通は場所を離れた時に顔色は戻っていたのだが

今回は初めてのケースだ

だぶん、慣れない自転車走行の疲れが出たのだろうか、と思ってた

とりあえずもう30分ほど休憩をした

F子の顔色は完全に戻っていた

S子とおしゃべりをしていた

F子とS子にこの細い道を探検するからと説明をした

「おっちーー!!細い道だぞ・・・大丈夫かな・・・イノシシとか熊とか出ないの?」と聞いてきた

「イノシシは出るかもな、熊は出ないだろ、山奥じゃないんだからさ」と答えた

「お兄ちゃん・・・ちと、私は怖い、この奥に何かしら・・・うーーん、わからないけど・・・

何かいるような気がする・・」とF子の小さな声が聞こえてきた

F子の予感は必ず当たる

どうしようかとS君と話をした

早々に来れない場所だしもしかしたら絶景の撮影地があるかもしれないと言い出した

一応道だし道から離れなければ迷うこともないだろうという安易な考えで4人はこの細い道を

走ることにした

今思えば・・・安直な考えだったな、と後悔している

どんどん奥へ走っていった

周りは徐々に木々の茂りが多くなってきた

しばらく走ると広場みたいなところに出た

後ろを振り向いた・・・・・・

え!?・・・・道が無くなっていた・・・・

完全にその広場みたいなところを中心に木々が茂っていた

「え!・・・後ろ見てみろよ!道がなくなってるぞ」と私は大声で怒鳴った

全員自転車を漕ぐのをやめた

「まじ・・・道ないじゃん・・・・これって・・・完全に孤立!?」

「おっちーー!!お兄ちゃんたち!ここどこよ?」

完全に林に取り囲まれている

どうしよう・・・・

「おし!来た道を逆に行ってみよう!そうすれば道が出てくるはずだ」とS君

全員自転車の向きを逆にして走り出した・・・・

だが・・・・・

道が全然出てこない・・・・

時計を見た、もう午前11時過ぎ・・・

全員いったん停車した

「これは・・・完全にやばいかも・・・逆に走っても元の道へ出れない・・・」とS君

「おかしいな・・・もうそろそろ来た道へ出るはずなんだが・・・」と私

「お兄ちゃん・・・私の嫌な予感当たったね」とF子

「おっちーー!ここで一度休憩しようよ、あんまし動き回ると疲れるしますます迷子になるよ」とS子

確かにそうだ

むやみに動いても疲れるだけ

今みたいにスマホの地図があればすぐに戻れるのだが

中学生当時にそのようなスマホなどない

これは完全に誤算だった

「みんなすまん・・・興味心でみんなを巻き込んじゃったよ」とS君はみんなに詫びた

「気にすることないさ・・・見たところそんなに奥まで入ってないよ、だぶんね」と私

しかし・・・辺りを見回しても同じような風景ばかり

東西南北の方向が全然わからない

完全に林の中に迷い込んだようだ

さて・・・どうしよう・・・・

とりあえず昼食をすることにした

本来ならばここでおにぎりなど全部食べて帰る予定だったけれど

今は帰れるかどうか怪しくなってきた

とりあえず先のことを考えておにぎり1個だけ食べることにした

「おっちーー!!おにぎり1個は寂しいんだぞ

もっと食べたいんだぞ」とS子の嘆き

「我慢しろよ、S子!この先どうなるかわからないからお茶とおにぎりとおやつは残しておこう」とS君

この考え方は大正解だった

この後・・・恐ろしい出来事が待っていたから・・・・

さて・・・昼食と休憩を取ったし・・・

「いっそ!このままこの方向へ行ってみよう!逆なら山の奥へ行くことはないと思う」と私は提案した

「だな・・・そうしよう!」とS君はうなずいた

とりあえず自転車を曳いて歩くことにした

まわりの音を聞き耳立てながら私たち4人は歩いた

鳥の声以外は全然聞こえてこない

山のせいか余計に寒い

いちおうホッカイロはたくさん持ってきた

それを肌身離さずに体温の低下を阻止しないとね

自転車を曳きながらはつらい

「全然、何も音がしないな・・・まさか・・・おなじところをグルグルとまわっていたりして・・」とS君

「まさかね・・・でも同じ風景だからね・・・あり得るかもな・・・いっそ自転車に乗って一気に走りだそうか」と私

「だな・・・そうしようか・・・妹たちよ、自転車に乗れ・・・ゆっくりと走るからついてこいよな」とS君は妹たちに話しかけた

「うん・・・おにいちゃん」とF子

「おっちーー、ついていくぞ」とS子

この能天気S子がいたからこそ雰囲気が暗くならずに済んだ

F子のおしゃべり相手にもなってくれた

しかし・・・走っても走っても・・・道が出てこない・・・なぜだ・・・

30分ほど走った・・・

すると炭焼き小屋みたいな感じの小屋が視界に入ってきた

「お!なんか建物がみえてきたぞ!人がいるといいけどな」とS君

「うん・・・いてくれよ・・・」と私

小屋に着いた

ボロボロの小屋だった

窓ガラスは割れていた

まさに廃墟そのもの

不気味としかいいようがない

中をのぞいた

部屋が暗くて見えにくい

「おし!ドアを開けて中へ入るぞ」とS君

ギィーーと音を立ててドアが開いた

懐中電灯を前方に当てた

部屋はごちゃごちゃに散らかっていた

とても人が住んで無さそう

それになにか臭う

吐き気が出そう

「おえ!なんだこりゃ・・・くせぇーな、こりゃあかん、外へ出よう」と私とS君は慌てて外へ出た

外で待ってた妹たちは心配そうな顔をしてた

すると・・・・林の奥から人の声がしたような気がした

「え!今、奥の方から人の声がしたような気がしたけど、聞こえた?」とS君

「確かに聞こえた・・・奥の方からだ」と私

「私も聞こえた・・・でも・・・近づかない方がいいよ、お兄ちゃんたち」とF子は小さな声で言ってきた

しかし・・・どうしても気になる・・・

「俺が行くわ」と私一人偵察をしに行くことにした

もちろん3人が見えてる位置までの範囲だ

「え!ちょいまち・・・危ないよ・・・行かない方がいいよ」とS君が止めてくれた

「でもな・・・もし大人の人ならば助けてもらおうよ、俺らだけでは無理だよ」と私

「んん・・・・でも・・・・」

私は一人声がした方へ向かった

時折後ろを振り向いて3人が見えてるか確認しながら歩いた

木々が邪魔をしてなかなか前へ進められない

ここらへんが限界かなと思い後ろを振り向いた・・・

いない!!!!3人が見えない!!!

そんな馬鹿な・・・距離にしてわずか200Mほどしか歩いていない

今さっきはちゃんと3人は見えていた

焦った・・・・

戻ろう・・・としたときにまた人の声らしき音が聞こえてきた

明らかに人の声のような会話をしてるような感じ

そのころ、待ってた3人は私の後ろ姿をじーーと見てたらしい

時折振り向くのがみえたらしい

どんどんと奥へ行くにつれて木々が邪魔をして姿を確認することが出来なくなってきた

ついに私の姿が見えなくなり3人は慌てたらしい

「え!見えなくなったぞ!こりゃ大変だ、どうしよう・・・」とS君

「おっちーー!あとを付いていくしかないよ、お兄ちゃん」とS子

「わたしもそうおもうよ、あとを追いかけましょうよ」とF子

それで私の行った方向に3人は向かったそうだ

私は聞き耳を立てた

たしかに人の声らしい

男の声かな?

なにか話をしてるらしい

わたしは身を伏せながら声がする方向へ忍び足で近寄っていった

人影らしいものが見えてきた・・・・

私はもう少し頭を上げた・・・・

見てはいけないものを見てしまった・・・・

人じゃない・・・・なんだありゃ・・・

死体?らしきまわりに化け物が囲んでいた

そして・・・死体を食べていた・・・

オェーー、吐いてしまった・・・

こりゃ・・・見つかったら食べられる・・・

わたしはそーーと後ずさりをしながら静かにその場を離れようとした

「F!なにしてる?」とS君の声

私はびっくりして声を上げそうになった

「え!!!!びっくりした、S君か・・・驚かすなよ」

「どうした?そんなに体を伏せてさ・・・この先に何かあるのか?」と聞いてきた

「ああ・・・そうだよ・・・でも絶対に見ちゃダメだ・・・」と私はS君に警告をした

「え?なに?気になるな・・・俺、見てくるわ」とS君

「やめたほうがいい、見ない方がいい、絶対に後悔するぞ」と私はS君を止めようとした

「そっかい!でも見なきゃ後悔もくそもない」と言って私の制止を無視して見に行ってしまった

「S子、F子、一目散にあっちの方向へ逃げる準備だけはしてておくれ」と2人の妹に指示を出した

「おっちーー、なんとなく意味が分かったよ、うちのお兄ちゃん、好奇心が強いからな・・・」とS子

「S子ちゃんと手をつないで一目散に逃げるね、お兄ちゃん」とF子

「うん、そうしてくれ・・・うしろを振りかえずにとにかく逃げてくれ、お兄ちゃんたちはおまえたちの後ろをおいかけるからな」と妹たちに話をした

S君が頭を下げつつ忍び足で戻ってきた

オェーオェーーと吐いていた

「Fのいう通りだった・・・ありゃなんだよ、化け物がうじゃうじゃいたぞ

オェーーなんか食べてたし・・・こりゃここはあぶない・・早く逃げようぜ」とS君は完全にパニックになっていた

私たち4人はそーーと自転車をもってその場から離れた

私は一応目印に大きな木の下にタオルを置いた

何とか無事にその場所から離れることが出来た

もう鳥肌ものだ

あの恐ろしい形相の化け物

(のちにあれが餓鬼だった・・・そう・・・やはり私たちと因縁深いあの餓鬼たちだ)

人のようなものを食べていた

ここらへんの住人だろうか?

よくわからない

「おっちーーお兄ちゃんたち何を見たのさ、気になるんだぞ、教えてくれよ」とS子が興味津々の顔をして聞いてきた

「いや・・・お前たちは絶対にみてはいけないものさ・・・この世のものじゃない

見たら最後、おまえらは気絶するぞ」と脅かし半分で答えた

「そうだぞ!見ないほうがいいぞ、絶対に後悔する、今俺すげーー後悔してる

今夜悪夢を見そうだ、Fの言った通りだった・・・」とS君は後悔の念で一杯だった

「お兄ちゃんたち・・・恐らくだけど・・・見られてないよね?その化け物たちに?」とF子が聞いてきた

「だぶん・・・大丈夫なはず・・・」とS君

「おそらく・・・見られてないはずだけど・・・どうして?」と私はF子に聞いた

「後ろ見てよ・・・あの林の奥・・・なんか光ってない?」とF子が後ろを見ろと言ってきた

「え!・・・えええ・・・・・うわぁ・・・たくさん光ってる・・・目?いや・・・目だ!!!目が光ってる!!!!」と私

「お!!!!ギョ!ギョェーー!!!光ってる!!!!、逃げようぜ」とS君

「S子、F子、早く自転車に乗れ!!!走れ!!!おれらはあとから追いかけるから

とにかく逃げろ!」と私は2人の妹に催促をした

2人の妹は自転車に乗り猛スピードで自転車を走らせた

私たちも妹の後からついていった

どの位走ったんだろうが・・・・いつのまにか道路に出ていた

とりあえず林からは脱出できたみたいだ

道路の脇道に自転車を止めた

後ろを見た

誰も追いかけてはこなかった

もう息もハァハァ心臓が止まりそうだった

ここでしばらく休憩をした

頭の整理をしないとね

夢か現実か・・・

とりあえず木の下にタオルを置いてきた

それがあれば確実に現実の出来事だ

この道を下っていけば必ず民家が見えてくるはず

そこで助けてもらおう

ゆっくりと自転車を走らせた

疲れと恐怖心で頭が爆発しそうだ

20分ほど走った

遠くに民家が見えてきた

どこかの集落だ

なんだが騒がしい

パトカーが止まっていた

あれ・・もう俺らの捜索をしているのかな?

トンチンカン親父ならやらかしそうだけど

住人もなんだがソワソワとしていた

「おい!○○がいなくなっただとさ・・・」

「こりゃ・・・大変だぞ」

「これで今年で3人もいなくなったぞ・・・」

「誰一人帰ってこん・・・これは氏神さまの祟りかのぉ」

「このままいくとここの集落は全滅だぞ」

などと声が聞こえてきた

警察官も慌ただしく動き回っていた

「なんか・・・すごいことになってるね・・・なんだろうね?」とS君

「なんか行方不明者みたいだけど・・・」

「まさか・・・今さっきの人かな・・・・」

「ううう・・・まさかね・・・・」

「おっちーー、私が今さっき起きたことを話してくるぞ」とS子

「やめーー、俺ら子供が何を言っても信じてもらえないよ、S子!」

「でも・・・お兄ちゃん・・・あの人がもし行方不明者の人だったらどうするのさ?」とS子

「ううううう・・・・とんでもないことに巻き込まれてしまった・・・」とS君、苦渋の顔をしてしまった

いきなりS子が捜索本部へ走り出した

「おい!S子!無理だってば!戻ってこいよ!!!」

S子が捜索本部のテントの中へ入っていってしまった

すると・・・・え!どこかで見覚えのある顔の刑事が出てきた

あ!まさか・・・刑事課長さん・・・・なんでここにいるんだ

「お!!おまえたちかぁ・・・久しぶりじゃのう、チンピラおやじは元気か?」

と満面の笑顔で私たちの元へ来てくれた

「はい!俺らは元気です!、お父さんも相変わらず元気です」と返事をした

この課長さん、私がまだ幼稚園の時におやじと一緒に散歩していて

おやじが職質に遭い、あまりにも不審な点が多いので署まで連れていかれた

その時の取り調べの係長が今の刑事課長さん

それ以降、毎年春になると新人の警官はおやじと一緒に歩いてる子どもを見ると必ず職質してきて

署まで連れていくようになってしまった

そこで・・・新人の警官は叱られるのが春の習わしになってしまった

ちゃんと親父の手配書を新人君に見せて勉強させればいいのにと思ってた

だけど毎年親父は職質に遭い連れていかれて先輩の刑事さんが後輩を叱りつけるという

悪循環に陥ってしまってた

だから親父の顔を見てみんな「またか・・・新人」という空気になっていた

ぞろぞろと課長さんの後に3人ほどついてきた

どれも知ってる人ばかり

そう親父の犠牲になった元新人君たち

どうやらこの行方不明事件は近隣の県でも発生しているらしく

県を越えて合同で捜査をしてると話してくれた

私は今までの経緯をすべて話をした

すると、信じられないという顔をしてた

当たり前だと思う

そんな化け物がいるはずがないんだから

だけど私とS君はその化け物をはっきりと見てしまった

食べてるところも見てしまったのだ

刑事課長は少し考えた後に

「う・・・ん、信じられん、化け物ね・・・おっし!とりあえずその現場を見よう

その現場へ行くことにしよう

それまでは君らはテントの中にいてくれ

まだ少し聞きたいこともあるしな

休憩もかねてテント中にいてくれよ」と言われた

私たちは言われた通りテントの中で休憩をした

警官たちが出たり入ったりと忙しかった

その現場へ行くメンバーを決めていたらしく

現場も普通の現場じゃないという考慮を兼ねて

住人2人

警官5人

私たち2人

の計9人編成で現場へ行くことにした

妹たちはテントの中で待機

午後3時過ぎ

テントを出て一路現場まで歩いた

細い路地を見つけた

ここに間違いない

わだちの痕も変わっていない

「ここの細い道ですね

ここをまっすぐ行ったんです

そしたら林の中に出て迷子になったんです

方角は分かりませんが途中で小屋みたいなものがありました

中をのぞくと真っ暗で小屋の中へ入ったときに変な臭いがしたんであわてて

外へ出たんです

しばらくすると辺りから人の声がしたんですよ

私が様子を見に行くと化け物がいて人を食べてたんです・・・」

「え!!・・・化け物!?おい

おわまり!聞いてないぞ!そんなもんが出てくるのなら道案内は無理だ」と

住人の一人が怒りをあらわにした

「まぁまぁ・・・落ち着いて

私たちがいますので・・・・」

「ううう・・・・ここの地域は昔から「神隠し」が頻繁に起きててよ

周囲の村から恐れられていたんだよ

見た感じそんな深い森じゃなく林なんだけれどなぜか方角が分からなくなるという

現象もここはあるんだよ

方位磁石も狂ってのぉ・・・・

だから結構、行方不明者が多いのかもしれんな・・・・

林の奥からたまに獣のような雄叫びも聞こえてのぉ・・・

そりゃ・・・不気味な場所じゃで・・・・」と住民は説明をしてくれた

たしかにあの林の中に入った途端に方角が分からなくなってしまった

もともと方向音痴だからだと思っていたが

今の説明で納得した

「俺よ・・・ちょっと無理だわ

そんな化け物と遭遇したくねぇしな

悪いけど・・・俺は抜けるよ・・・済まんな」と住人の一人が

文句を言って帰って行ってしまった

私が余計な事を言ったせいで一人帰ってしまった

仕方ない・・・・

慎重にこの細い道を進むことにした

たまに周りの音を聞きながら静かに歩いた

しばらく歩いていくと例の小屋が遠くから見えてきた

「あれです!あの小屋です」と私はその小屋を指した

「う!・・・あれは・・・・たしか・・・○○じぃの小屋じゃないか

あの小屋の持ち主のじじぃも10年前に失踪して未だに行方が分からん」と住人は険しい顔になっていた

小屋についた

警官の一人が中に入った

「オェ・・・・なんだこの匂いは・・・・ん・・・まさか・・・・課長!!

中に入ってきてください」と若い警官が課長を呼んだ

「う!くせぇーな、なんだこの匂いは・・・・おい!まさか・・・これって・・・

死体の匂いかよ・・・・暗くてよくわからんな・・・

応援を呼ぼう、鑑識も呼べ!それと一番明るいライトをいくつか持って来いと伝えろ」と課長は怒鳴ってた

若い警官が無線で事の詳細を報告していた

30分ほどして鑑識とライトをたくさん持ってきた警官で現場は騒然となった

小屋の中でライトを照らしてみたらやはり死体が2体見つかった

1体は完全に白骨化していた

もう1体はまだ死んで1か月は経っていないだろうという話だ

パトカーや救急車やらでさらに現場は騒々しくなった

細い道は完全に封鎖された

村の方でも村の出入り口に警官が立って人の出入りを厳しく制限していた

テントの中はさらに緊張が走っていたらしい

周囲もくまなく探索していた

そして・・・・

無線からもう1体死体が見つかったという連絡が入った

鑑識と課長を呼んでいた

僕たちも来るようにと言われ付いていった

現場は警官だらけになっていた

死体の状態がひどかった

早く言えばミンチ状態

とても人だとは思えないありさまだった

僕とS君は嘔吐した

もうこれ以上子供たちがいるのはよくないということで

帰らされた

まだ気持ちが悪い

テントで妹たちが心配そうな顔で待っていた

「おっちーー、お兄ちゃんたち!よかった、無事だったんだね

もうね、テントの中、大騒ぎだったよ

おまわりさんから「テントの中から絶対に出てはいけないよ」と言われて

なんかすごいことになってるんだと思った

もしかして、お兄ちゃんたち化け物に襲われてたべられたんじゃないかと心配で・・・

もうF子ちゃん半べそだったよ・・・」とS子が今にも泣きそうな顔をしながら話してくれた

「うん・・・私・・・心配で心配で・・・でも無事でよかった」とF子も泣きそうな顔をしていた

「こっちもすごい大騒ぎになった

なんか・・・とんでもないことに巻き込まれた

ごめんな、まさか、こんなことになるとはおもわなかった

俺が余計な好奇心をだしたせいで・・・本当にごめん」とS君は頭を下げた

しばらくすると

警官が来て

「子供たち、ありがとな

村の境目まで護衛を付けるから今日は素直に家へ帰ってほしい

それとこのことはあんましべらべらとしゃべらないでほしい

今日はほんとうにお疲れさん」と言われた

私たちは村の境目までパトカーの誘導をうけて家路についた

とんでもない一日だった

すごく疲れた

後日、課長さんに呼ばれた

「おう!この前はお疲れさん

あの後・・・もっと大変なことになったよ」と興奮気味に話をしてくれた

私たちが帰った後

例のミンチ状態の死体を調べていたら

不思議な事柄がたくさん出てきたらしい

まず血液が一滴も無くなっていたこと

傷口が凶器で刺されたのではなくなにか鋭い牙で肉をかじりとられていたこと

現場に無数の小さな足跡がたくさんあったこと

死体の身元はやはり村人だったらしい

小屋の白骨死体は小屋の持ち主のじいさまであったこと

もう一体の死体はまだ判明はしていないとのこと

不思議なことに外傷はなくなんで死んだのがよくわからないという

おそらく餓死だろうという話

でも私はなんとなくだが

その人はあの化け物から逃げていたんじゃないかと思う

そしてあの小屋を見つけて隠れていたんじゃないかと思う

夜になると化け物が徘徊して逃げるチャンスを失ったように思える

昼間なら逃げるチャンスがあったとおもうけど

あの林の中で方向音痴の人は無理だと思う

実際に後からきた警官たちも方向感覚が分からなくなったと話してたらしい

迷子にならないように50Mおきに警官を立たせたという話

深い森ならいざ知らずだけどそんな感じではないんだけどね

現場検証は夜遅くまでしてたらしい

ある程度落ち着いてきたので現場には課長を含めて10人ほどで作業をしてたらしい

夜8時ころには交代で検証を行っていたらしく

現場から少し離れた場所にテントを立ててそこで仮眠をとっていたようだ

夜10時ころにテントの中で仮眠をしていた警官が外で何やら人の声を聴いたらしく

てっきり課長たちの声かと思ったらしい

テントの入り口を開けて外を見まわしたが現場には課長と鑑識が忙しく動いているのを

見て課長達じゃない、一体誰の声なのだ、と不思議なことを報告してきたようだ

テントの中にいた警官全員が聞いたということのようだ

課長達も忙しく動いていたのだがある程度作業もおわるころに

なんとなく誰かに見られてるような視線を感じたらしい

鑑識もそういう視線を感じたらしく

じーと林の中を見ていたようだ

しかし・・・林の奥にはだれもいないはす

この現場には10人しかいない

課長と鑑識は「みられてる」とお互いに話をしていたようだ

まぁ、気のせいだろうということで夜9時には全員作業をやめて

休憩に入った

テントの中に全員は入れないので

外でコーヒーと握り飯やパンなどを食べていたら

また林の方からなんとなく視線を感じたらしい

それも一人や二人ではなくたくさんの視線を感じたと話してくれた

まさか・・・化け物なのか・・・とおもったらしいのだが

非現実的なことを言うと指揮官としての常識を疑われるので

黙っていたと話してくれた

なんとなく不気味に感じたので夜0時には全員撤収をしたという

直接化け物をみてないが君たちの言う化け物の話は個人的に認めてる

鑑識からの報告も野良犬やクマなどが襲ったという確率は非常に低い

との報告受けてさらに化け物なのかも、と思うようになったと苦笑いしながら

話をしてくれた

一連の失踪事件も一応解決できた、と嬉しそうな顔をしていた

マジでとんでもない一日だった

私、家に帰ったらチンピラおやじにつるし上げられた

おふくろも怒ってたな

大事な娘を危ない場所に連れて行くな、と言われた

それ以降は妹たちを連れていくことは自粛した

疲れた・・・・横になったら即寝落ちした・・・・

Concrete
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