【夏風ノイズ】雨宮しぐるの怪奇録(総集編)

中編6
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【夏風ノイズ】雨宮しぐるの怪奇録(総集編)

 今日も本当に暑い、暑すぎる。こんな平凡でありふれた一日から全てが始まったのかと思うと、なんだか懐かしくて胸が苦しくなる。ぬるくなったコーラを飲み干した俺は、PCに向かってこの文を書き始めた。

 あれからこんなことになるとは、当時の俺は考えてもいなかっただろう。偉大な霊能力者である祖父は俺が生まれる前に他界し、優しかった母親は四年前に死んで、昔からよくわからない人だった父親も海外で働いているため家にはほぼ帰って来なかった。そのため、妹のひなが死んでからは露と二人暮らしだったのだ。

 山の上にある廃墟へ肝試しに行き、謎の怪雨に導かれ、幽霊少女にストーキングもされた。今更だが、この全ての怪異もこれから起こることを予知していたのかもしれない。

 そう言えば、最初に鈴那と出会ったのはこの出来事のすぐ後だった。最初は可愛いけど変なヤツだな~なんて思ってたけど、関わっていくにつれて彼女のことを好きになっていった。初恋ではないが、今となっては大切な恋をしたと思っている。

 彼女と出会ってからは、色々な人との繋がりも増えていった。天才呪術師の神原零に、妹の琴羽ちゃん。呪術師連盟とかいう謎組織の人達や、鬼灯堂の十六夜日向子さんも大切な仲間だ。日向子さんが妖怪だということを聞かされたときには素直に驚いた。姿はどう見ても人間の女の子なのに、背中から触手が出る恐ろし・・・じゃなくて、優しい妖怪だ。

 日向子さんは家出をしてきた鈴那の保護者でもあり、鈴那も彼女のことを慕っていた。あの人、根はいい妖怪さんなのだがかなりの変態である。

 ここまで仲間のことを簡単に書いたが、忘れてはいけない人物が二人・・・いや、一人と一匹いた。長坂さんとサキのことだ。

 長坂さんは神社の神主で、俺に霊感の正しい使い方を教えてくれた師匠のような人でもあるが、それは表の顔。裏では禁術使いとして業界の間では噂程度に囁かれていた、御影という人物の正体なのだ。あの人は「闇を深く覗きすぎてしまった」と言っているが、それでも俺にとっては優しくて頼れる恩師である。

 そしてサキのことについても書いておこう。ヤツは蛇の妖怪で、三年前から俺の中に眠っていたらしいが、俺にそんな覚えは無い。この話は、サキが目覚めてから彼に聞いたのだ。

 仲間のことを書くのはこれくらいにしておいて、次は強く印象に残っている事件について簡潔に書いていこうと思っている。

 鈴那やゼロと初めてお祓いをしたことも懐かしいが、夏祭りのあとに体験したあの悍ましい怪物を封じる儀式は、今思い出しても鳥肌が立つ。鈴那と付き合うことになってすぐ後のことだった。毎年夏祭りの後になると、蛛螺という妖怪を封じる儀式を執り行う必要があり、この時に俺も初めて参加したのだ。それもどうやら何者かが蛛螺に細工をしたらしく、去年より力が強力で色々と大変だった。俺は援護に回っていたのだが、蛛螺を囲う術檻が溶け始めた辺りから俺の中で何かの声が響いた。

(俺だよ、もう一人のお前。俺に体を貸せ)

 蛇の妖怪、サキだ。当時はヤツの名前も正体すらも知らなかったが、この時から協力してくれていたことに今更ながら感謝している。サキの攻撃で怯んだ蛛螺は再び封印され、今年も無事に儀式を終えたのであった。

 次は少し不思議な海中列車の話。ひょんなことから隣町の龍臥島公園で起きている怪異を調査することになり、俺達は現場へ向かった。初めは何の気配もなかったのだが、黄昏時になった頃から突如として辺りの霊気が増し、姿は見えないものの不気味な気配だけが漂い始めた。しかし怪異はそれだけではなかった。海岸の岩陰から、ミイラに似た異様に背の高い怪物が姿を現したのだ。それは知らぬ間に現れた霊を一体喰らうと、再び岩陰に姿を消した。

 上に書いたことだけでも十分すぎるほどに恐ろしいが、こんなことでは終わらなかった。一旦帰ろうとしていた俺達の前に、件の海中列車が出現したのだ。ゼロがそれの動きを封じようとしたが、結局力が及ばなかった。

「無駄だ。お前の結界じゃ、そいつは抑制できない。況してや除霊することも不可能だ」

 その時、ゼロに向かってこう言ったヤツがいた。俺の中にいるサキが、俺の口を使い話し始めたのだ。当時はサキのことを得体の知れない化物としか思っていなかったゼロ達は、ヤツに敵意を抱いていた。サキが憑依した俺とゼロが一戦を交えた後に俺は意識を失い、次に目を覚ましたのは自分の部屋だった。

 この日も昨日に引き続き、海中列車の調査をすることになった。今回は北上昴という結界師の仲間を一人増やして龍臥島へと向かった俺達だったが、周囲に霊気は感じられず黄昏時を待っていると、不意に昴が声を上げた。彼によると、既に沢山の霊が見えているという。昴は左目の義眼のせいで殆どの霊が視えてしまうらしく、それは所謂『霊感』すらも凌駕した能力である。そして黄昏時、その幾多の霊は俺達にも姿を見せ、海の方向からは列車の警笛も鳴り出した。海中列車だ。

 俺の中で眠っていたサキも目覚めると、彼は俺の言葉を使いこう言った。

「よぉ、なんか大変そうじゃねーか。手伝うぜ」

 その発言にゼロはどういうことかと問いただすと、彼は続けて「相棒の友人に手を貸すのは当然だろぉ。敵の敵は味方って言うしな。おい見てろ、これが俺だ」と言った。どうやらこの時の『相棒』とは俺のことのようだ。

 サキの協力もあって無数の霊と海中列車は除霊できたが、最後にあのミイラのような化物が残っていた。サキは妖力を使い果たした状態で意識を潜らせたが眠ってはおらず、俺にヤツと戦うよう指示してきた。俺がうろたえていると、彼は「お前の潜在能力を引き出す」と言い、俺の中にある霊力をコントロールし始めたのだ。そのおかげか、俺は普段以上の力を発揮することができ、無事に化物退治を終えたのであった。

 最後は婆捨穴での恐怖体験と除霊劇を書こう。

 ある日、ゼロ達の運営する神原探偵事務所に三人の少年がやってきた。彼らは前日の夜に婆捨穴という心霊スポットへ行ってきたらしく、当初は何も起こらなかったものの木下という少年は婆捨穴を去る際に足を掴まれた感覚に襲われており、その晩も金縛りに遭ったという。霊が憑いていると確信した俺達は、まず少年から霊を引き剥がし、その後婆捨穴へ向かいスポットの完全除霊をすることにした。

 鈴那とゼロの活躍で少年に憑いた霊を除霊すると、俺達は仲間の呪術師である右京さんを呼んで婆捨穴に向かった。現場の空気は木々に囲まれているにも関わらず最悪で、その悪いものはまさに婆捨穴から発せられていた。穴からは無数の霊が這い出してこちらへと押し寄せてきたが、それら全てはゼロにより切り裂かれ、右京さんが婆捨穴に仕掛けた術も効いたのか穴から巨大な老婆の悪霊が出現したのだ。

 そこからは凄まじかった。俺達がいくら攻撃をしても除霊されず、この時も結局ゼロの活躍で老婆の霊を消滅させることができたのだった。

 しかし、これで終わりではなかった。これまでの怪異は、今後起きてしまう最悪の事態の予兆にすぎなかったのである。龍臥島の海中列車、婆捨穴の悪霊、そしてゼロと昴が除霊をした旧海城トンネルの化け蜘蛛・・・この三か所に囲まれた区域は『デスゾーン』と呼ばれ、異界連盟という連中が仕組んだ呪詛の一種だったのだ。だが、デスゾーンは除霊しても・・・。

 と、この辺にしておこう。これを書き始めたのは昼頃の暑い盛りだったが、気付けばもうじき日が暮れる。さて、そろそろ夕飯の時間だ。またいつか、物語の中で。

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