中編4
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のぞく

なんとか終電にすべり込み、地元の駅まで辿りついた。

連日にわたる残業で、この時間の帰宅はもうほとんど苦にすら感じなくなってきた。

でも、今日はなんだかいつもより少し気分が悪い。

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「お姉さん」

いきなりどこかから声をかけられて、私はぎょっとした。

振り向くと、道端の占い屋が私のことをじっと見ている。

「お姉さん」

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どこにでもいそうな雰囲気の占い屋だ、通り過ぎたときはそのくらいにしか思っていなかったんだけど。

よく見てみると、この時間にこんなことをしているわりには、その男は妙に若かった。

そもそもいつも使っているこの道で、今までこんな風貌の占い屋が座っていたことなんてあった?

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「ちょっと話、いい?」

新手のナンパにしたって、こんなのは私の趣味じゃない。

気持ち悪くなって、私は何も答えず、足早にその場を去った。

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駅前を過ぎて、住宅街にさしかかっても、私は急ぎ足を止められなかった。

後ろから足音がする。

誰かがついてきている。

その場で振り返るほどの勇気はなく、でもどうしても後ろが気になった私は、四つ角を曲がるとすぐ塀に身を寄せて、そこから半分だけ顔をだし、こっそりと元来た道をのぞき見た。

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……いる。

すごく遠目だけど、夜闇にまぎれるぎりぎりくらいの距離に、誰かが立っているのが見えた。

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服装や背の高さからみて、それは少なくともさっきの男じゃなかった。

ひらひらとした白いワンピースに、つばが広めの大きな白い帽子。

顔は帽子の陰になっていてよくわからないが、どちらかというと、それはむしろ女性みたいだった。

ちょっと浮世離れしたようなその見た目は、どう見ても怪談話などで聞く幽霊そのもので、私は背中に汗が噴き出してくるのを感じた。

ものすごく嫌な予感がする。

そうしていると、女が両方の腕を上げ始めるのが見えた。

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両手を顔の前にもってくる。

少しして、手を開く。

また閉じる。

開く。

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意味のわからなさと恐ろしさで、私は女をそれ以上直視することができなかった。

塀の陰から首をひっこめると、逃げるようにその場を後にした。

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家の付近まで走ってきて、私は自分の日ごろの運動不足を痛感した。

肩で息をしながらおそるおそる後ろを振り返るが、あの女の姿は見当たらない。

タクシーが一台、交差点を走り抜けていっただけだった。

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あれがテレビのドッキリか何かであることを願いながら、アパートの階段を上る。

急にクラクションが聞こえて、思わずびくりとした。さっきのタクシーかな。今はなんにでも驚いてしまう自信がある。

踊り場をまわり、柱の影から顔を出した瞬間。

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全身が凍りついた。

二階から見える少し先の交差点。

その真ん中に突っ立って、あの女がこっちを向いていた。

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どう見ても通りがかった雰囲気じゃない。

二階の、しかも柱にほぼ隠れた状態の私のことを、明らかに認識している。

そして、またあの奇怪な動きを始めたのだ。

喉まで出かかった悲鳴を必死に呑み込んで、私は顔を伏せたまま、急いで自分の部屋までかけ寄った。

震える手でカギをさしこみ、玄関に転がり込む。

チェーンまでしっかりかけてから、体をひきずるように居間まで這っていった。

怖すぎて足腰が立たなかった。

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携帯の操作もおぼつかない状態で、私はなんとか彼に連絡をとった。

やばいものがいる。すぐに迎えに来てほしい。

私の泣きそうな声で理解してくれたのか、彼はすぐ行く、俺が行くまで誰が来ても出るな、と言って電話を切った。

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それからすぐに、玄関のチャイムが鳴った。

もともと近くまで来ていたのかな。

予想以上に早い到着に少しほっとしながら、私は玄関に歩み寄ると、ドアののぞき穴から外を確認した。

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sound:33

あの女がいた。

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sound:33

大声で叫んだ。

叫びながら、なぜか目は穴から離れない。

うつむき、帽子の陰で見えない顔を、女が両手で覆う。

そしてそのままこっちを見上げると、ゆっくりとその手を開いた。

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sound:33

それは人の顔じゃなかった。

目も鼻もない。

眉間ぐらいのところに、大きな口だけがひとつ、ぽっかりと開いていた。

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ドアをちからずくで蹴飛ばして、むりやり目をのぞき穴から引きはがした。

息ができない。ひゅーひゅーと喉をならしながら、寝室に逃げ込み布団を頭からかぶる。

もうだめ。

私きっと死ぬんだ。

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どれくらいの間そうしていたのかわからない。

外からは何も聞こえない。

あれがまだ玄関の外に立っているのか、もういないのか、布団の中からでは察しようがなかった。

次第に、いろんな考えが頭をよぎり始めた。

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彼はもう来てるんだろうか?

でも仮にまたチャイムが鳴ったとして、私にはもう玄関に向かう勇気はなかった。

最悪ベランダから出よう。2階だし、下には植え込みもあるから、大けがをすることはないはず。

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それから、今までに起きたこと。

何が原因だったんだろう。

私がなにかしたの?

思い当たるふしは一つしかなかった。

駅前のあの男だ。

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あいつならたぶん何か知ってる。

とっつかまえて、この意味の分からない状況を説明させよう。

電話のバイブレーションが鳴って、私はスマホを取るために、布団のはじから顔をのぞかせた。

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sound:33

「バァ」

Concrete
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