ゴーストポリス3(その5)

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ゴーストポリス3(その5)

ロンドン市街 とあるホテルの一室──。

 見た目は豪華で味はそこそこの夕食を摂った後、ユキザワ室長の部屋に集合した ばけものがかりの一行は、ゴツいテーブルを囲むふかふかのソファに座った。

 「んじゃ、ハトムラ!捜査報告してもらおか」

 「ハイッ!」

 ハトムラが立ち上がると、ユキザワは笑いながら言う。

 「別に立たんでエエよ?楽にいこうや」

 「あ、はい。ありがとうございます」

 ユキザワの気づかいに感謝し、ハトムラはソファに腰を下ろして話を始める。

 「まず、第一の現場では、被疑者の霊子反応はありませんでしたが、被害者に直接話を訊くことに成功しました!」

 「What!?被害者から話を訊いたんですか?」

 「え?普通じゃないですか?」

 目を見開いて驚くリダに、さも当然のように返すチカゲ。

 「私達の捜査では、よくあることなのよ。リダさん」

 「コイツがあるからな」

 チカゲに同調したハトムラとムトウがゴーグルをちらつかせた。

 「それを造ったのは、このアルティメットジーニアスのわたしだ!さぁ、崇め奉れ!!凡人ども!!!!」

 その場にいた一同は、ここぞとばかりにズイッと前に出たえだまめ1号に形ばかりの敬意を払い、話を進める。

 「証言によれば、とても大きな人型の何かということしか覚えてないそうで、その証言を裏付ける痕跡を発見しました。コレです」

 ハトムラは何枚かの現場写真をテーブルに並べ、二足歩行の痕跡を示した。

 「ふーん……次、イタドリ!」

 「はははははいっ!!」

 突然指名され、緊張しながらもチカゲが報告を始めた。

 「えー……現場の農具倉庫からは被疑者の痕跡と思われる物証を見つけました!えっと……あの…あれ?」

 体をまさぐり、何かを探すチカゲにユキザワが「コレやろ?」と小型ロボ犬キントキを出す。

 「キントキ!!」

 チカゲがキントキの頭を撫でると、キントキの背中が開き、件の木片が飛び出した。

 「ヌコせんぱい!お願いします」

 「よかろう!」

 えだまめ1号は木片を口に入れ、ブルブルと体を震わせると、ベルがチーンと鳴る。

 「面白いことがわかったぞ?コイツはバイオモンスターだ」

 「「「「バイオモンスター?」」」」

 首を傾げる捜査官とリダに、えだまめ1号が解説する。

 「たまに起こる偶発的な遺伝子のエラーがあるだろう?それをミューテイションと言って、そういうのはミュータントなんて呼ばれ方をするんだけど、バイオモンスターは意図的に遺伝子を操作して造り出したバケモンのことを指すんだ」

 えだまめ1号にムトウが食いつきそうな勢いで訊く。

 「じゃあ、ソイツは誰かが造ったバケモンってことか?!」

 「そういうことだ」

 落ち着いた口調のえだまめ1号に、リダがさらに質問を投げかけた。

 「プロフェッサーアマノ、つまり人工的に造られたモンスターが人を襲った……そういうことですか?」

 「それ以外にないね……目的は知らないけど」

 リダが青い顔でうなだれる横で、ユキザワはえだまめ1号に言う。

 「で?そのバイオモンスターっちゅうんは、どんなヤツなん?」

 「恐らくは、人間の肉か何かを養分とするモノだと思われます」

 「人食いか……厄介やな」

 「ヌコせんぱい!それに対抗する手立てはあるんですか?」

 不安げなチカゲに、えだまめ1号が誇らしげに言う。

 「わたしを誰だと思ってるんだ?オッサン!ちょっとこっちに来い!」

 偉そうなえだまめ1号に呼ばれ、ムトウがしぶしぶ腰を浮かせて脇に行くと、えだまめ1号は「おふぅ!」と一声鳴いた。

 それと同時に、えだまめ1号のおしりから緑色のカプセルがコロンと転がる。

 「クセェ!!またクソしやがったな!このヤロゥ!!」

 「断じてクソではない!うんたんカプセルだ!!」

 「その『うん』ってのがクソのことじゃねぇか!」

 「いいから、開けてみろ」

 ムトウはカプセルを踏みつけて2つに割ると、中に入っていた銀色の銃弾を拾い上げた。

 「それが対バイオモンスター用の銃弾『ブレット+』だ」

 「ブレット+?」

 「今までの『霊子弾』は霊子の結合を分解するだけのモノだったが、それは物理的にも効果がある……だから、生き物にも効いてしまうために使用の機会がなかったのだ」

 ムトウはブレット+をテーブルに並べると、それぞれに分けた。

 「1人当たり6発ずつある。狙いは慎重に頼むぞ?仲間に当たったりでもしたら、ソイツは確実に死ぬからな」

 「そんなに危ないモノなんですか?」

 リダが銃弾を受け取りながら呟くように漏らすと、えだまめ1号もそれに反応して答える。

 「細胞内の霊子まで分解するからね……もし、当たったら弾けて粉々になる」

 「おっかねぇな……」

 「それと、だ」

 えだまめ1号は四肢の内側を開けて、棒状のモノ4本を床に転がした。

 「霊撃警棒の強化版『霊撃警棒ブラック』も携帯しておけ!コイツは霊子に物理的攻撃をするのと同時に3ギガワットの電撃も加える」

 「雷の2倍以上の電撃を?」

 「さすがハトっち!博識だな!人間なら即死の電撃だから、気をつけて使うように!!」

 とてつもなく物騒なモノを預けられた捜査官達に緊張が走る。

 それらを怖々としまうムトウにユキザワが言った。

 「次、ムトウな」

 「はい!」

 ムトウは背筋を伸ばしながら報告を始める。

 「ウェストミンスター寺院で、我々は被害者の痕跡の他に発見したモノがあります……これです」

 ムトウがポケットから袋に入った何かの毛をテーブルに置いてみせた。

 「アマノの解析によれば、これは人のDNAを持ったオス犬の毛と言うことでした。いわゆる狼男のモノらしいです」

 「ウルフマン?あり得ない……」

 つい口を挟んでしまったリダが慌てて口を押さえると、ユキザワは笑いながら言う。

 「信じられへんのも無理ないわな……でも、これは現実なんやで?」

 「……Yes、boss」

 ユキザワの言葉に、リダも納得したように身を背もたれに預けた。

 「ユキザワ室長!この連続殺人事件は結局のところ、同一犯によるものなんでしょうか?」

 「せやなぁ……物証を見る限りじゃあ実行犯はバラバラやけ、確実とは言われへんけど……」

 眉をひそめるチカゲの問いに、腕組みしながら答えたユキザワの向かいにいたハトムラが手を挙げる。

 「室長!よろしいでしょうか?」

 「エエよ?ナニ?」

 発言の許可が下りたハトムラが持論を展開し始めた。

 「実行犯は違えど、全てバケモノによる犯行であることは明白です。私は何者かが何らかの目的をもって、バケモノ達を操っているのではないかと考えます」

 「わたしもハトっちに同意だ……目的は不明だが、デカい組織が噛んでいるのは間違いない」

 「大規模なテロ組織か?冗談だろ?!」

 眉を釣り上げたムトウが立ち上がらんばかりの勢いで誰ともわからない相手を怒鳴りつけると、えだまめ1号は呆れたように呟く。

 「暑苦しいヤツめ……」

 そう言いながらチラリとリダを見たえだまめ1号が、ユキザワの方に顔を向ける。

 「室長……」

 えだまめ1号からの声に、ユキザワが頭を掻きながら答えた。

 「まぁ、アレやな……今ンとこ、向こうの出方を待たんことにはどうにもならんしな……せや!」

 何かを思い出したかのようにユキザワがリダに言う。

 「この事件の間はリダも担当やろ?ほなら、コレ持っとき」

 ユキザワがリダに小さなバッジを握らせて続ける。

 「それは『GPバッジ』言うてな、ウチらの仲間の証やねん……襟ンとこにつけとき」

 「仲間……ですか」

 「せや、リダはウチの部下で、ウチらの仲間や!」

 「じゃあ、わたしの部下でもあるな!よし!メロンパン買ってこい!」

 「Sure!」

 ここぞとばかりに調子づくアマノに、ハトムラが慌てて釘を刺す。

 「ヌコちゃん!挨拶代わりに人をパシリに使わない!!リダさんも素直すぎ!!そもそも、イギリスにメロンパンないじゃない!」

 「冗談だよ……ハトっちは真面目なんだから」

 やや強めのハトムラのツッコミにちょっとビビるえだまめ1号とリダの間にチカゲが入って、リダの手を取った。

 「リダさんっ!!一緒にがんばりましょうね!!」

 「えぇ!イタドリ刑事」

 笑顔で答えるリダから恥ずかしそうに視線を外して、チカゲが小声で言う。

 「……チカゲ………でいいです」

 何故だか顔を赤らめるチカゲの手にもう一方の自分の手を重ねて、リダが微笑んだ。

 「チカゲ、ありがとう」

 その瞬間、チカゲの頭からボンッ!と湯気が立ち、チカゲはリダの顔を見れなくなってしまった。

 「イタドリ、イチャコラすな言うてるやろ?」

 「?……今はチカゲと議論してませんよ?」

 キョトン顔のリダに、ユキザワはしまった!という顔をして、「せやったな」とばつ悪く返す。

 「よっしゃ!今日のところは解散や!!みんな、お疲れさん。それぞれ部屋で好き勝手休んでエエで?どうせ外務省持ちやから、飲み食いも自由や」

 空気を変えるように、ユキザワがパンッ!と手を一打ちして言うと、えだまめ1号が続ける。

 「深酒はするなよ?国家公務員なんだからな!チカゲ!えだまめの充電を頼む」

 「りょーかいです!ヌコせんぱい!」

 和やかな捜査会議が終了した後、リダはホテルを出て、何処かに電話した。

 数コールの後、電話に出た相手にリダが切り出す。

 「彼らはとても優秀です。すでに人間の仕業ではないことを突き止めてしまいました」

 『……そうか、流石と言うべきか、期待通りと言うべきか………』

 少し嘲笑を含んだ声で話す電話越しの相手に、リダが言う。

 「ボス……お話があります」

 落ち着き払ったリダの声が、相手に圧力をかける。

 『何だ、クルタナ?言ってみろ』

 リダは軽く返す相手に、さらに威圧するような低い声を電話の向こうにぶつけた。

 「いえ、それは直接お訊きしたいのです」

 いつもと違うリダのトーンに何かを察した電話の相手は、観念したかのように返事をする。

 『わかった……本部へ来い』

 「ありがとうございます……ヒール長官」

 電話を切ったリダは、すぐさま車を本部へと走らせた。

Concrete
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