中編2
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留置

まだ蒸し暑い8月下旬僕は逮捕された。

容疑は詐欺らしいが、そんなことした覚えはない。と突っぱねていた。

取り調べは最初の期限3日では終わらず、証拠隠滅の恐れありとのことで10日間の留置が決定した。

そこからじわじわと恐怖に苛まれる事になる。

留置所の部屋はタタミ4畳半にアルミ製の水洗和式便所があるだけだ。後は紙袋が支給され、それがゴミ箱代わりとなるのだ。

それだけの殺風景な部屋、水は看守に頼めば柵の小窓からコップ一杯いつでも貰える。

4人部屋だが所が空いているので1人で占領中だ。

僕の部屋は7号室なのだが、他の部屋とは何故かかなり離れていて孤立している。

看守の見回りも一日数回だし、用があって呼んでもまず僕の声は所定の位置にいる看守には聞こえる距離では無かった。

基本的に音も遮断され、部屋の中は完全な無音なのだが、その日は様子が違った。

留置が決まって2日目の事だった。

最初は昼飯前のラジオかと思ったが、それにしては早い。まだ朝の10時半だ。

「コツ、コツ!」

何かで床を叩く様な音にも聞こえるし、ハイヒールの足音にも聞こえなくもない。誰も居ないからちょっと怖い。

その日、その音はそれっきりだった。

空耳だったのかな?

3日目、「コツ、コツ…コツン!!」

朝の10時半だった。

昨日より鮮明に聞こえた。しかも音が1つ多いし最後が強めだ。

何かを叩いてる音だ!空耳じゃなかった!

でも何処から聞こえてくるんだ?!

音がするのは確信に変わったがどうにもならない。直ぐにはち切れんばかりの声で看守を部屋に呼んで理由を話し、部屋を移動したいと申し出たが無理!と鼻で笑われてしまった。

4日目、5日目、6日目と音は大きくより鮮明なものになってきた。

「コツン!コツ!ゴン!バン!バンバン!!」

8日目でようやくその音が自分が座っている畳の下からする事が微かな振動で分かった。

僕は飛び跳ねて看守を呼んだ。

か、看守さん!畳の下に誰か居る!

僕の必死の形相に只事では無い事はわかった様だ、看守は応援を呼び便所前の半畳のタタミを持ち上げた。

そこには封の締められていない40リットルのポリ袋に綺麗に関節を折り畳められた若い男が入っていた、血塗れの顔の見開いた目が僕を凝視していた。

僕の前にも何人もこの部屋は使っていた筈だ。

彼は僕にここから出してくれと訴えていたのだろうか、だとしたら何故僕だったのだろうか。

それはもう知るよしも無い。

後から聞いた話だが、その7号室では何年も前に留置9日目の日に忽然と姿を消した被疑者が居たらしい。逃走の形跡も無く、その署では関係者内で結構な騒ぎになり、その事件も迷宮入りしていたと言う事だった。

その被疑者が畳から出てきた人物かは僕は知らない。

それから僕が犯罪を二度と犯さないようになったのは言うまでも無い。

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