或る遺書の断片~初めの霧子~

中編3
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或る遺書の断片~初めの霧子~

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弁護士さんにお願いします。

なるべくこのまま私のブログに載せてください。

× × × ×

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お母さんはいつも、お父さんを殴っていた。

玄関ドアから帰ってくるお父さんをまず殴り、そのまま脱衣所まで蹴りながら追い立てて、洗濯が終わるまではリビングに入らせなかった。

父さんはいつからか独り言ばかり呟くようになり、そして家から出て行った。

私もいつも殴られていた。

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弟が死んだ日、母さんは警察の人の前で泣いていた。

「階段から落ちた」らしかった。そう、弟は階段から落ちたのだ。きっとそうなんだ。

何もわからなかった。

ある夜、母さんが誰かと電話で話しているのを聞いた。

「そんなつもりなかったけど、あたし喜んでもらえてると思うよ。

だってさ、幸せなうちに天国に行けて良かったよね」

あいつが殺した。あいつが殺した!

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16歳で突然、芸能事務所から連絡が入った。

私はアイドル活動を始めた。

事務所の社長さんがよく家に来るようになった。

夜になると母の機嫌が悪くなり、私はおなかをたくさん蹴られて追い出され、朝まで家に帰ることは許されなかった。

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深夜のコンビニで立ち読みしていたら東京のおばさんから連絡が来た。

お父さんが「事故」で死んでしまったらしい。

すぐお母さんに電話すると「あ、そう」と言われた。

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それからすぐおなかがすごく痛くなって救急車を呼んだら、その翌日に、おまわりさんと児童相談所の人が一緒に病室に来た。

でもお母さんが泣きながら謝るとすぐに帰ってしまった。

母さんは誰も病室にいなくなると、私の耳をライターで焼いた。

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高校を辞めてからは地獄のような日々だった。

家にいれば母に殴られ、スタジオに呼び出されては社長に殴られる。

母は顔を殴りますが、社長は人に見られない胸を殴ります。

何度も、何度も。

私の胸には今も骨折の跡があります。

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だから殺しました。

殺意をもって殺しました。

あの二人がこの世に存在してはいけないと考えて殺しました。

刑務所の暮らしは酷いものですが、一切の後悔はありません。

私は世の中のためになることをしました。

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今から、お父さんに会いに行きます。

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最期に、

ファンの皆様へ。

私はもう、ステージに立つことは出来ないでしょう。

ほんの短い間でしたが、有り難う御座いました。

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私はそもそも皆様とお会いする機会は無いはずの人間でした。

私が旅立ってから御存知になる方もいるかもしれません。

けれどそれでも、これまで楽しい瞬間もあったことを知っていてください。

忘れないでください。

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私はただ不幸なだけの人間じゃなかった!

私には友達がいて、楽しい日々があって、だから決して寂しい人生じゃなかった!

私は夢を持っていた!

これからも生きていたかった!

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ありがとう、さようなら。

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× × × ×

独房、食器の破片で頸動脈を切断、出血しているところを発見され、

数時間に及ぶ手術は成功。

懲役を終えて社会復帰した彼女は今は、心の病に悩む人達をサポートしながらも、JAZZバンドを紹介する新宿の事務所で働いている。

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@珍味 様
姐さんを覚えていただいて嬉しいです!
最近の報道で、十代のアイドルが亡くなってしまった例の事件があり、
じつのところもっとキツい描き方も出来たんですが、
ややソフトに霧子さんに表現してもらうことにしました。
あくまで憶測ですがここに書いた以上のことが起きていたのだろうと思います。

霧子さんはつねに孤独な人々と共にあります。

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