中編5
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悪霊についての考察

「そういや、この前幽霊と妖怪の話はしたけどよ。人間に悪さをするのは妖怪だけじゃなくって悪霊ってのもいるんだよな?」

「それについて結局触れなかったわね。そうね。今回のテーマは悪霊に絞って色々話していきましょうか。」

「何か怖そうな話になりそうだけど‥」

「あたしらが怖がってどうするんだよw」

「まぁ、ここにはそういう類いの霊は居ないから、楓が怖がる必要はないわ。必要以上に怖がるのも考え物よ。では、初めましょうか。」

この3人は「オカルト研究会」を自称し、今も他の生徒が帰った後、空き教室で勝手に集まりお喋りをするのが日課になっている。3人とも女子高校生である。

いつもぼーっとしていて、少し抜けている楓

少し口が悪く、考え方にどこか時代を感じさせる舞

オカルト知識が豊富だが、その内容が少し偏っている咲。 

この物語は、その3人による会話劇である。

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「さて。そもそもの話なのだけれど、二人は悪霊って何だと思う?」

「えっと‥悪霊っていうからには、人に悪さをする幽霊かな‥?」

「あたしもそんな感じだわ。」

「まぁ当たらずとも遠からず、といった感じね。そもそも怨みを持って死んだは人は幽霊になって、その怨みをはらそうとするわけだけど、」

「勿論例外もいるよな。あたしらみたいに。」

「それ挙げてたらきりないでしょ。あくまでも一般論よ。で、はらせたら成仏出来るってわけよね。でも中々そんな都合よくいかないのが現実なのよ。実際、そんなに簡単に怨みがはらせたらこの世から悪い人間は居なくなるわ。悪人が居なくならないってことは、幽霊が人間に出来ることなんてたかが知れてるのよ。ここからが厄介なんだけど、対象に怨みをはらせないとその幽霊はどうなると思う?」

「そりゃお前、幽霊なんて他にすることないし、死ぬときはよっぽど一人‥あれ。わかんねえや。」

「人を呪う力だけが強くなるのよ。憎む事しか考えないから。あと、自分をこんな風にした人だけじゃなくて、生きている人間そのものを憎むようになるのよ。自分と同じように不幸にしたくなる。俗に言うやぶれかぶれというやつね。で、力だけは強くなってるから関わった人間全てに悪影響を与える‥最悪殺すことだって出来るわ。」

「え、じゃあ悪霊に殺された人はどうなるんだ?」

「一番不幸ね。その悪霊の一部になるか、存在を食べられるか‥悪霊が成仏するまでは解放されないのよ。例えそれが生前無関係な人でもね。」

「うわ‥考えたくもねえな‥」

「ほんとだよ‥わたし達は関わりたくないね‥」

「私だって、そんなの死んでもごめんだわ。」

「笑えねえよその冗談。」

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「で、その悪霊を何とかするにはどうしたらいいんだ?」

「まず大事なのは、関わらないこと。やぶれかぶれの殺人鬼がナイフ振り回してる所に、直接写真をとりになんか行かないわよね?だからそういう場所には近寄っちゃ絶対だめ。心霊スポットなんかもっての他。出来れば興味も持たないのが吉よ。因みに、場所そのものが悪霊になってる場合も知ってるから、注意しなければ駄目ね。」

「でもよ。向こうから近寄ってきた時はどうするんだよ。それで苦しんでる人結構いるぜ?」

「対処法があるわ。絶対に信じない事。自分は悪霊なんかに負けないって思うことよ。」

「そんなんでいいの‥?意外に簡単そう。」

「前にも言ったけれど、霊が人間に出来ることなんてたかが知れてるわ。でも、悪霊は人間にとりついて、少しずつでも積み重ねで心を蝕んでいくのよ。弱った心は更に攻撃を受けやすくなるわ。だから、絶対に負けないっていう強い意志が大事なのよ。その内もっと弱い人の所に逃げるから。まぁ実際はかなり難しいんだけどね。人の心は意外に脆いから。あとは存在を信じないってのも重要なんだけれど、本当に強いのは信じないじゃなくて知らないという事ね。だから関わらないのが一番なのよ。」

「なるほど。知らない事は武器でもあるんか。知らぬが仏っていうしなぁ。」

「あ、最後に私達にとって重要な事があるわ。」 

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「何?改まって。」

「長い間成仏しなければ、その霊力は強くなるって話したわよね?あれは私達も同じなの。」

「おっ!それなら何かすげーこと出来たりするのか?幸運呼べるとかさ!ケサランパサランみたいによ!」

「相変わらず単純ね。違うわ。悪霊になる可能性があるって事よ。いくら強い怨みがないとはいえ、そもそも生きている人への憧れが完全になくなった訳じゃないのよ。いくら本人が自覚してなくてもね。その思いがピークになって、霊力と合わさってしまったらいつ悪霊になるとも限らないのよ。」

「マジかよ‥」

「更に怖いのは、強い悪霊は自我がなくなるのよ。周りに居るすべての霊を食べて力を増やして、自分の目的を果たす事しか考えなくなるけど、やがては力に飲まれて目的さえ忘れて不幸をばら蒔く‥そんな存在なのよ。悪霊は。私は長いこと成仏していないけれど、普段は3人でいるし、楓が来る前は舞が居てくれたからこうやって喋る事が出来て、人間を羨むだけじゃなかったから悪霊にならずにすんでるけどね。その点はこのバカに感謝してないこともないわ。」

「バカ言うなって!確かに悪霊って大体一人でいるよな。あ、もしお前が悪霊になったら、そん時はあたしの力で元に戻してやるよ。それが無理なら消してやるから。安心しやがれこのオカルト女。」

「それはそれは頼もしい限りね。」

「い、いやだよ!わたしはこの3人がいい!このままがいいの!!」

「そんなこと言うものじゃないわ。もう私達死んでるんだから。いつか消えるときは来るわ。せめてその時まで、楽しくやりましょうね。じゃあ今日はこの辺にしましょうか。」

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わたしが悪霊になるかもしれない‥わたしの大好きな人が悪霊に‥?嫌だ。そんなの絶対に嫌だ。でももしその時が来たら、私は何が出来るのかな‥?

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ある生徒が拾ったノートのページの続きには、会話劇が書かれていた。その題の名前は

悪霊についての考察

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