なんだかかみ合わない【どこかで起きていたらしい話】

中編7
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なんだかかみ合わない【どこかで起きていたらしい話】

 前略

 私なんかにラヂヲのネタを求めるようでは終わっていますよ。

 人が死んだ場所に行けばいいでしょう。日本は自殺する人が多いのだから、あちらこちらが心霊スポットですね。

 ……ごめんなさい。不謹慎ですね。

 しかし不謹慎な話は続きますよ。

 自殺にはいろいろな種類がありますが、今回は踏切で起こる自殺について話させてください。

 遮断機があるにもかかわらず踏切で人がひかれる事故は意外と少なくないんですね。わざわざ棒をくぐり、線路を走る鉄の塊を利用して自害を企む人は阿呆です。

 掃除は大変、時間に追われている人の迷惑になる、親族が尻拭いをいなければならない。嫌なことづくしじゃないですか。

 どれも最悪ですが、群を抜いて胸糞が悪くなるのが、庇ってくれた人だけが死ぬ場合です。

 死のうとして生き残ったおバカさんに憤りをかんじますよ。 

 理不尽な死を迎えた人の霊に憑かれて苦しんでしまえばいいのに。

 

 私はこの手紙と一緒に新聞の記事を封筒にいれています。

 ジンシン事故。自殺願望者を助けようとして起きた事故です。

 実はその事故が起こった場所は、私の住む町から距離はあるけれど電車を使えば行けなくもないところでした。

 好奇心に突き動かされて私は踏切をさがすたびにでました。

 町を横断する線路は長く、すると予想以上に踏切が多いわけです。

 面倒くさいな、と思いながらも一つ一つ調べていきますよ。

 隅に花が供えられていないか、妙に踏切の周りが小奇麗になっていないか。

 時間をかけてじっくり観察しました。

 

 しかし踏切を何度も往復していると不審がられるもので、声を掛ける人が現れました。

 その人は挙動不審な私を心配していたのです。

 私の目を覗き込むなり「辛いことがあるなら相談にのる」と言いだしたのです。

 精神がおかしい可哀想な人と間違われてしまったのです。でも、この日おてゃ優しい方ですよ。普通の人なら見て見ぬフリをしますから。

 そんな優しい人を前に、私は硬直して返事する余裕なんてありませんでした。

 手紙だから打ち明けることができるのですが、実をいうと声をかけてくれた人の外見にゾっとしたのです。

 私に声をかけてきたのは彫の深い男顔の女性でした。

 女の恰好をした男、ではありません。

 肩幅や腰の線や腕の細さは女性なんです。ただ、首から上…髪型と顔の部品がその、男性的なのです。

 スタイルがいいだけに惜しい。

 失礼な理由で口どもる私は何故か連行され、すぐ近くの飲食店でオレンジジュースと説教と激励をごちそうになりました。

 話を聞いているとその男女さんは、私が踏切で死ぬと勘違いしているのだと気がつきました。

 イヤイヤそうじゃないんですよ、と私は口を開きました。

 「ピアスを探していた」と咄嗟に言うと、すかさず「誰の?」ときかれました。

「友達の」

「うそでしょ」

 即座にばれました。

 そのときあのオトコオンナ、なんて言ったと思います!?

「だってあなた友達がいなさそうな顔をしているから」

 張り倒してやろうか。嘘だけど。

 間違っていないだけにムカつきましたよ。もう。

 

 苦笑いを浮かべてその場をやり過ごしていると、その人は窓を何度も注意しながら大きなため息をつきました。(ここから踏切が見えます)

「あの踏切でうろついていたから憑かれているのかと思ってね」

「憑かれているて、狐に?」

 本当は目星がついていたのですが、あえて外れた発言を返しました。

「違う違う。あそこで最近事故が起きたんだ」

 案の定その人は首を振り、最近そこで起こった事件を教えてくれました。

 男顔の女と出会った踏切は、私が探していた事故現場だったのです。

 しかも、彼(顔のせいで彼女とは思えない)はその事故の瞬間に居合わせていたそうなのです。

 事故が起こったのは夕方だったので目撃者は数人いたのですが、この人は特別でした。

「電車にひかれて首が飛んでさ…そのとき目が合って…」

「貴重な体験ですね…。良し悪しは人それぞれですが…」

「災難だから!」

 《彼》は窓を注意深く見てから、事故の後の災難を、声をひそめて教えてくれました。

「生首に、付きまとわれるようになった」

 部屋にいるとき、電車に乗っているとき、生首が窓に張り付いて唸っているのです。

 私が同情の声をかけると「仕方がない」と付きまとわれた、本当の理由を淡々と教えてくれました。

 なんと目の前のいる男女と踏切で死んだ生首は、ただ目が合っただけではないのです。

 踏切で死のうとした人と庇って死んでしまった人でした。

「まだ、死にたいですか?」

「“後悔している”」

 その人はもう死ぬ気はないと、顔を見れば分かりました。

「…でも首に付きまとわれても、文句は言えない」

「じゃあ、仕方ない」

 やっぱり庇った方は恨んでいるよな。

 気まずそうにコーヒーをすする男顔を見ながら私は思いました。

 薄々気になっていたのです。

 身代わりに死んでいった人が、恨んで化けて出てこないか。

 瞬時に誰かを助けようと判断し、“自分”を引き留める理由を考える前に体が動き、状況が理解できないまま死んでいきそうな人は世の中にいるかもしれないので、もしかしたら死んだ後に咄嗟の行動を悔やんでいる霊もいるかもしれないと疑問に感じていたのです。

 彼の顔は元気がないものの生気は残っています。

 人を死なせてしまったけれど、人を殺したおかげで、新たな決意を抱いたのです。

「あの事故をきっかけに踏切でうろついている人を見掛けたら止めないといけない気持ちになる」

 この人の決意はもはや呪いです。

 死のうとしたくせに、都合のいい風にまとないでいただきたい。

 とはいえ、貴重な面談ができて私は満足していました。

 あとは私が前向きな言葉を発して帰るのみ。

 さっさと切り上げる言葉を模索しなければならないのに、暢気にコップの水滴を指ですくっていると、ドン、と窓にぶつかる音が聞こえてきました。

 なんとなく窓の方を見て、私は愕然としました。

 窓に、髪の長い首が張り付いていたのです。

 女性の悲哀に歪んだ顔が男顔の女を見ていました。

 その表情に怒りや恨みはなく、何かを懇願しているように見えました。

 ああ、あの生首が彼に付きまとっている死霊か。

「あの、あれ」

「そう。困るわー」

 慣れているのか、彼は涼しい顔をしてコーヒーを飲んでいます。もはや一瞥すらしない。無視を徹底しているのです。

 ここで私も平然とジュースを飲めば恰好がつくのですが、現実は興奮して首を凝視していました。

 久しぶりに、ワクワクしました。

 不謹慎でごめんなさい。

 本当に今日はとてもいい日でした。

 最寄りの駅を案内してもらい、私たちは言葉を数回交わして別れました。

 背を向けて歩き出す彼(あれ?いつの間にか男になってる)を見送りながら、私はいまだ解決できなかった疑問を悶々と考えていました。

 

 あなたはもう、同封した切り抜いた事件記事を読みましたか?

 新聞では仕事帰りの“男性”が、自殺をはかろうとした“女性”を庇って死亡したと記載されていました。

 窓に張り付いていたのは女の生首…。

 それにこれは後付けみたいですが、オトコオンナさんの動作にも違和感を抱きました。女の体をしている割には動作が男性的で、なんだかかみ合っていないと思っていたのです。

 

 ふと、霊に憑かれた人は性格や顔つきが変わる知識を思い出し、その流れで嫌な予想が思い浮かんだのです。

 “憑りついている霊の顔”がその人の顔に張り付くことなんてあり得るのでしょうか。

 と、疑惑の念が強くなった瞬間、歩いていた唐突に《彼》が立ち止まりました。

 私はずっと、この人の動作や“首から上”のせいでどうしても女に見えなくて手紙では彼と書き続けていました。

 でも本当に彼(男)だったとしたら?

 私はまだ生首に付きまとわれる理由を確認していない!

 私は大きい声できこうと息を吸っっていると彼が振り向きました。

「おれはまだ生きたかった」

 彼は、たしかにそう言いました。

「あの女は死のうとしたくせに、返してくれと喚くんだ。おかしいよな」

 私は何も言えませんでした。

 彼の表情は穏やかだったのに、とても怖かったです。

 以上が私が見聞きし、体感した恐怖体験であります。

 できるだけ誇張脚色せず、真実のみを書いてみましたが、あなたが実際に行って会いに行ったほうがよいラヂヲのネタになると思います。

 いいですか。○○町の赤い看板の飲食店がすぐ近くにある踏切です。

 踏切で死のうとする体でうろつけば勘違いして向こうから声をかけてくれるでしょう。

 ネタ提供してやったんだから面白い報告を期待してますよ。

 無理しない程度にラヂヲを配信してください。

 ◎月△日

                     不謹慎は私

 あくまで真面目に怪談に向き合うあなた

Concrete
コメント怖い
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近所の踏切事故を検索して後悔したことがありますw
多いとこはわりと多いんですよねえ…

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