中編3
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危険な実験 その2

朝から降り出した雨は深夜2時を過ぎた辺りから、その勢いを増してきた。

S 大学医学部第3号棟の実験室内で聞こえてくるのは、プレハブの屋根に跳ね返る雨音のうるさい響きと、心電図のモニターの発する単調な信号音くらいだ。

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沢田は、三脚で固定されたビデオカメラの液晶画面を通して、篠原と織田の様子を、ただじっと見ていた。

織田は篠原に、寝袋を着せている。

ただ、これは、普通の寝袋ではない。

電気コードに繋がっていて、温度が調整できるようになっている。

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ファスナーを、丁寧に篠原の首の辺りまで上げると、織田は篠原の顔を見下ろしながら、言った。

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「じゃあ、いくぞ」

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篠原は無言で頷き、静かに瞳を閉じた。

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織田は寝袋のコードの途中に付いた箱型の装置の下方に付いている丸いツマミを、ゆっくりと左に回しだした。

そしてしばらく回すと、手を止め、反対の手でストップウォッチをスタートさせた。

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すると突然篠原が瞳を開き、何かを思い出したようにしゃべりだした。

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「なあ、織田。

もし、俺がこっちの世界に戻ってこれなくても、俺は絶対にお前を恨んだりしないからな」

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「頼むから、化けて出るなんてことは、勘弁してくれよ。令和の時代はそういうの流行らないからな」

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織田のジョークに、篠原は一回にこりと微笑んだ。

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「安心しろ。俺が絶対にお前を蘇生させるから」

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「分かった。お前を信じる」

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何か吹っ切れたかのように、篠原は再び瞳を閉じた。

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「一分経過したぞ。

篠原、気分はどうだ?」

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「ああ、何だか手足が痺れてきて、感覚が無くなってきているようだ。」

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「それは、そうだろう。

冷蔵庫の中くらいの温度に設定したからな」

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「沢田、脈拍と心拍数は?」

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織田が、心電図モニターの前に立つ沢田の方を見る。

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「大分、下がってるきてるみたい。」

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沢田が液晶画面を見ながら、答える。

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「二分経過。

篠原、どうだ?」

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「首から下の感覚が、ヤバいくらいに無くなってきている。頭の中に白い靄が立ち込めているかのようだ。ああ……とにかく、眠い」

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「沢田、脈拍と心拍数は?」

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「そろそろ、ヤバいかも……」

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「三分経過。

篠原!」

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篠原は聞こえているのか、いないのか、眉間に皺を寄せ、苦し気な表情をしている。顔には、段々と血の気が無くなってきていた。

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「四分経過。

どうだ?」

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「ねぇ、本当ヤバいよ。早く助けてあげて!」

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篠原の顔は完全に血の気を失い、まるでろう人形のように動かなくなっていた。

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織田は、素早く篠原の傍らに駆け寄り、寝袋のファスナーを一気に下げた。

同時に、白い空気が立ち上る。

篠原の痩せた白い体が現れた。

織田は篠原の口元に耳をあて、呼吸が止まっていることを確認すると、胸の真ん中に両掌を乗せ、グイグイと心臓マッサージを開始した。

ある程度続けた後、気道を確保し、人工呼吸を行う。

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「どうだ!?」

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蘇生措置を行いながら、必死の形相の織田が沢田の方を見る。

沢田は緊張した面持ちで液晶画面を見るが、白いラインは真っ直ぐ横線を描いて行くだけで、上下の動きはない。

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「……ダメみたい」

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「くそ!くそ!」

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織田はだだひたすら、心臓マッサージと人工呼吸を繰り返す。

額から流れた汗が頬をつたい、アゴから滴り落ちていく。

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織田が蘇生措置を開始してから、およそ五分が経過した時だった。

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「う……動き始めた。心臓が動き始めたみたい!」

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沢田が笑顔で、織田の方を見た。 

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「よし!」

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耳を直接、篠原の胸にあて、微かな心音を確認すると、織田はガックリとその場にしゃがみこんだ。

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その3に続きます。

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