ヒトについての考察 サイドA

中編5
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ヒトについての考察 サイドA

「こんちは。またお題を持ってきやしたよ。」

「あんた時々こっちに顔出してるけど、あたしら別に気を許した訳じゃねえからな?あとその胡散臭いしゃべり方何とかならんのか?」

「これはこれは手厳しい。こいつが性分なんで、今更変えられませんで。どうか勘弁を」

「まぁ取り敢えずお題だけでも出しなさいよ。この前みたいな感じでいいならやってあげるわよ。」

「ありがたい事で。えっと‥「ヒト」って書いてありやすね。」

「ざっくりしてんなー。まぁその分自由にやれってことか。」

「毎度の事ながら、はいこれレコーダーです。またその内来ますんで、どうかよろしく。」

「相変わらず何考えてんのかわかんねえやつだな‥」

この3人は「オカルト研究会」を自称し、今も他の生徒が帰った後、空き教室で勝手に集まりお喋りをするのが日課になっている。3人とも女子高校生である。

いつもぼーっとしていて、少し抜けている楓

少し口が悪く、考え方にどこか時代を感じさせる舞

オカルト知識が豊富だが、その内容が少し偏っている咲。 

この物語は、その3人による会話劇である。

「どうしたの楓。何か今日はいつも以上にぼーっとしてるみたいだけど。」

「えっ‥いや、何でもないよ!?

「ヒト」って言われても‥改めて考えてみるとややこしいよね。わたしたちも死ぬ前まではヒト、つまり人間だったし‥今は一応幽霊なんだよね?何か実感ないんだけど‥」

「あら。私は別に幽霊だからヒトじゃない、なんて思って無いわよ?」

「え‥でも幽霊と人はやっぱり違うような気がするんだけどなぁ」

「勿論、死んでるのと生きているのは決定的に違うのだから、そう思うのは当たり前よ。でも少し考えてみて?そもそもヒトって何なのかしら?

言葉を変えるなら、人間と他の動物の決定的に違う点はどこだと思う?」

「そりゃお前、人間はしゃべれるよな。いぬとか鳥は喋れないし。」

「相変わらず単純ね。犬だって犬同士鳴き声でコミュニケーションはとるし、イルカとか鳥だって独自の会話ツールを持っていることは証明済みよ。」

「えっと‥なんだろ‥あ、頭を使う事ができる‥とか?」

「中々いいじゃない。どっかのバカより考えたわね。」「なんだと?」

「まぁ実は犬とか動物に知能があることも証明されているんだけど、この知能と人間独自の感情を組み合わせることで、他の動物と決定的な違いが生まれるのよ。」

「動物には感情がないってか?それはちげえよ。あたし犬飼ってたから知ってるけど、絶対あいつら感情あるはず。」

「違うわ。人間独自の感情。つまり欲の事よ。これを持っている事が決定的な違いだと思うの。」

「よ、欲‥?」

「欲。まぁ単純な生存欲は動物でも持っているけれど、人間にしかない欲は山のようにあるわ。

例えばお金持ちになりたい。恋愛がしたい。毎日楽しく生活したいとかね。まぁそれが簡単に解決出来たら良いのだけれど、大体そうはならないわ。自分の邪魔になるからあいつを殺そう。あいつが憎いから呪いをかけよう。生きているのが辛い。楽になりたいから自殺しよう‥そんなところにつながってしまうの。その欲を思考、行動によって満たそうとする生物‥それがヒトだと私は思うわ。たちの悪いことに、人は欲から逃れる事が出来ないののよ。昔は欲を捨てた人は悟りを開いたって祭り挙げられたけれど、そんな人でさえ死んだら食人鬼になってたっていう有名な怪談があるくらいだしね。」

「あんまり考えたことないけど‥確かに人に見てもらいたいとか、誰か殺したいほど憎むとか、自殺したいっていうのは他の動物じゃあんまりみないかな‥?」

「厄介な事に、ヒトには思考力、行動力というものが備わってしまっているのよ。その二つが結び付いて、それを何としても叶えようとして暴走する時‥それを執念とか恨みとか呼ぶのよ。そして、その力が強いのは何も生きているヒトだけじゃないわ。」

「あっ‥」

「そう。幽霊なんて恨みを晴らそうとする塊じゃない。動物霊だって勿論いるわよ?犬神とかお狐様とか。でも、彼らは人が願うからそれに忠誠したり、力を貸してるに過ぎないわ。根本的には人間の欲によって生み出された存在なのよ。だから日々思考して、まぁ物欲はあんまりないけれどいまの生活を続けたいと願っている私達は何らヒトと変わらないのよ。今のところ自我も保っているしね。」

「そう言われて喜んでいいのかわかんねえけどな。」

「でも、いくら恨みを晴らす塊だとはいえ、それが強すぎて自我を失って悪霊化して誰彼構わず厄を振り撒く存在をヒトだとは思いたくないわね。思考力がなくなったらそれはもうヒトではないと思うし。自我があるってヒトとして大切な事よ。」

「おっと。経験者が言うと違いますなぁ」

「‥私未だにその辺の記憶ないのよ。舞、後で覚えときなさいね。」

「え‥咲ちゃん悪霊だったの?」

「あーそっか。楓は知らないのか。あんときは大変でなぁ」

「そこまでそこまで。もう聞きたくもないわよ。

まぁこんな所かしらね。」

しばらくたって

「こんちは。例のやつ出来ましたかい?」

「はいこれ。吹きこんどいたわよ。」

「ほんとはノート見せれば早いんですけどねぇ楓さん?」

「ノートだ?ノートってなんだよ?」

「し、知らない!な、何の事かな‥?!」

「おっと失礼。ではあっしはこれで。」

感想

いきなりノートの事を言われてほんとに驚いた。わたしノートを書いてる事誰にも言ってないし、二人にはバレてないはずなのに、何であの人知ってたんだろう‥?

というか、咲ちゃん元悪霊だったんだ。後でこっそりその時のこと舞ちゃんに教えてもらおうかな。

あ、あと最近時々頭が痛くなる。というかくらくらする‥幽霊なのにこんなことってあるんだな‥何もおきなきゃいいけど‥

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「さーて。大方レコーダーと一緒みたいで。そろそろあいつに役目果たしてもらうとしやすかねぇ‥。それにしても、「ヒト」ですかい。ヒトに関してはちょっくらあっしも思う所がありやしてね。筆を走らせるなんていつぶりか‥えーと紙とペンは‥」

Concrete
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