中編5
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拾い仏

「今日、ご紹介するのはこちら!」

そう言い、顔に満面の笑みを浮かべ、友人が押入れを開けると、

「うっわ…」

私は対照的に、顔をしかめた。

何故なら、友人が開け放った押入れの中身が、古びた瓶、ボロボロに擦りきれた鞄、錆びた鍵など、独特の物でいっぱいだったからである。

「この間、これを拾ったんだけど」

と言い、その独特の物の中から、友人が出してきた物を見て、私は更に、顔をしかめた。

嬉々とした友人が持っていた物。

それは仏の像だった。

元は金色に光る、立派な像だったのか、当時の面影はなく、今は殆どが剥がれてしまっており、黒く変色していた。

「凄いでしょ!」

と、誇らしげな友人を前に、

「はぁ…」

と、私はこれからを思い、溜息しか出なかった。

時を遡ること、三時間前。

「急用出来たから、今日は佳子ちゃんの家にお泊まりね」

私のお泊まり用品を鞄に詰めながら、母が言った。

その当時住んでいた場所は、祖父母の家から遠い場所にあり、たまに親に急用が出来た時、私や兄は友達の家に泊まる事が、度々あった。

友達の家に泊まる事に、楽しみな気持ちと、少し寂しい気持ちがあった事を今でも覚えている。

何度目かのお泊まりだったので、

「分かったー」

と言い、私は友達の家に持っていく物を、鞄に詰め込んだ。

鞄を持ち、母と共に友人の家に着くと、

「いらっしゃい!」

と、元気な佳子ちゃんが、玄関前で待ち構えていた。

「ちょうど良かった!セラちゃんに見せたい物があったんだ!」

そう言い、私の手を引き、部屋へ向かおうとする佳子ちゃんと入れ違いに、

「いらっしゃい、セラちゃん」

と、佳子ちゃんのお母さんまで出迎えに来てくれた。

「お世話になります!」

ぐいぐいと、佳子ちゃんに手を引かれながらも、それだけ何とか言い、

「子供は元気ね」

と、笑い合う母と、佳子ちゃんのお母さんを背に残し、私は手を引かれるまま、佳子ちゃんの部屋へと向かった。

そして、時は戻り、私は佳子ちゃんが拾ったコレクションを見せられる羽目になった。

佳子ちゃんは昔から、何でも拾う癖があり、新しく拾った物があると、私に見せてきた。

面白い瓶を拾っただの、変わった形の鍵を拾ったと、何度も見せられてきたが、仏の像は今回が初めてだった。

珍しい物を拾い、喜ぶ佳子ちゃんを前に、

「確かに珍しいけど、仏の像拾って、大丈夫なの?」

と、聞いてみたが、

「落ちてたんだから、拾っても大丈夫でしょ!」

と、前向きな佳子ちゃんを前に、

「はぁ…」

と、溜息が漏れた。

「それにもっと凄いのが…」

そう言い、佳子ちゃんが仏の像の黒く変色した部分を、ガリッと爪で引っ掻いた。

「罰が当たるから、止めな!」

と言う、私を気にする事もなく、佳子ちゃんは像を掻き続けた。

すると、黒く変色していた部分が、ぺリッと剥がれ、下から金色の部分が出てきた。

「ほら!凄いでしょ!」

と、佳子ちゃんは誇らしげに見せてきた。

少しだけ近づいて、仏の像を見てみると、経年劣化した部分とは別に、何かが付いて劣化したような、少し膨らんだ部分があった。

「この膨らんだ部分を引っ掻くと、金が出てくるんだよ!」

と、佳子ちゃんは上機嫌だった。

上機嫌なまま、

「今日は、この仏の像を置いて、一緒に寝ようか!」

と言う、佳子ちゃんに、

「それだけはやめて!」

と、猛反対した。

何とか佳子ちゃんを説得し、仏の像は、押入れに仕舞ってもらったが、あんな像があると思っただけで、部屋の空気が重い気がし、私の気持ちは下がっていった。

「おやすみ」

そう言い布団に入ると、昼間に沢山遊んだ為か、すぐに眠気が襲ってきた。

橙色に灯る豆電球は、部屋を優しく照らしていた。

隣を見ると、穏やかな寝息をたて眠る、佳子ちゃんが居る。

そして、仏の像が仕舞われた、押入れが見えた。

「早く寝よう」

そう思い、私は押入れを見ないよう、頭まで布団を被った。

微かに聞こえる、規則正しい佳子ちゃんの寝息を聞いているうちに、私は睡魔に負け、眠ってしまった。

その日、不思議な夢を視た。

誰かが、愛しそうに何かを撫でている夢。

そして、どしゃ降りの雨の中、何かを探している夢。

その二つの夢を交互に視ていると、

「ん?」

突然、目が覚めた。

橙色の豆電球に照らされた、天井を暫く見つめる。

隣からは、相変わらず規則正しい佳子ちゃんの寝息が聞こえている。

ぐるりと部屋を見渡してみたが、部屋は寝る前と何も変わっていなかった。

「なんで、起きちゃったんだろ」

と思いながら、もう一度眠るため、瞼を閉じたが、何故か、なかなか眠れない。

「スー…スー…」

佳子ちゃんの寝息を聞きながら、どれくらい経った頃だろうか。

ふと、違和感に気づいた。

「スー…トン…スー…トン…」

佳子ちゃんの寝息に混じって、何かを叩くような音が聞こえた。

「やだな」

と思い、意識を逸らそうとしても、どうしても気になってしまう。

「扉の方から鳴ってる」

何処から鳴っているのか気づいてしまった瞬間、

「御免下さい」

と、声が聞こえた。

条件反射か、耳を抑え、ガバッと起きてしまった。

「やばい」

と思い、再び布団に潜ろうとしたが、

「トン…御免下さい…トン…御免下さい…」

と、扉を叩く音と、声は止みそうになかった。

「これだと眠れないな」

と思った時、

「はぁ…」

と溜息が漏れた。

扉の向こうにいる何かも、私が起きている事に気づいたのか、

「御免下さい…お返し下さい…御免下さい…お返し下さい…」

と、言い始めた。

「返す?何を?」

そう思った時、仏の像を思い出した。

寝ている佳子ちゃんを起こさないよう、静かに押入れを開けると、独特なコレクションの中央に、仏の像はいた。

勇気を出して、像を掴み、扉の前に置いた。

そして、急いで布団に戻り、頭まで布団を被る。

だけど、気になるので、布団の隙間から扉の様子を窺うと、聞こえていた声は止んでいた。

スッと、扉の引戸が横へスライドし、闇の中から、血に濡れた二本の腕が伸びてきた。

「やっと見つけた…ありがとうございます…」

と何かは言い、

仏の像を両手で包み、また闇の中へと消えていった。

安心した為か、すぐに睡魔が襲ってきて、私は眠ってしまった。

朝。

目を覚ますと、部屋は仏の像が無い事以外、寝る前と何も変わっていなかった。

「仏の像が無くなって、佳子ちゃんは悲しむだろう」

と思ったが、

「仏の像?そんなの拾ったけ?」

と、佳子ちゃんの記憶から、仏の像は消えていた。

「昨日、何かをセラちゃんに見せてた事は覚えてるんだけど、何を見せてたのか、思い出せない」

と、佳子ちゃんは暫く考えていたが、やっぱり思い出せないらしく、私も佳子ちゃんを悲しませない為に、夜中に起こった事も含め、その時は黙っていた。

暫く後になって、ふと思ったのだが、仏の像に付いていた、変色し膨らんでいた部分は、もしかしたら、血の跡だったのかもしれない。

そう思う度に、背筋が凍る。

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