中編6
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恋愛についての考察

「にしても、せっかく学校から出られたってのに結局ここに戻ってきちまうんだよなぁあたしら。」

「ある意味一番長い時間をここ過ごしてるから無理もないわよ。何だかんだ居心地も良いしね。」

「今日は何をするの?」

この3人は「オカルト研究会」を自称し、今も他の生徒が帰った後、空き教室で勝手に集まりお喋りをするのが日課になっている。ある一件により学校から出られるようになったのだが、なんだかんだ学校を彷徨いている女子高校生の幽霊である。

いつもぼーっとしていて、少し抜けている楓

少し口が悪く、考え方にどこか時代を感じさせる舞

オカルト知識が豊富だが、その内容が少し偏っている咲。 

この物語は、その3人による会話劇である。

「そうね。この一週間の間に色々出かけたし、珍しいお化け煙突についての怖い話でもしようかしらね。」

「いやいや違うだろ。あたしら花の女子高校生生がひさーしぶりに外に出て感じたことって言ったらあれだろ。行く先どこもかしこもカップルだらけだ。羨ましいったらありゃしねーよ。」

「何?今更恋愛なんか出来るわけないじゃない。というか、そんな欲持ってる幽霊なんか居ないわよ‥あ、それは違うわね。」

「お前はそもそも恋愛に興味を持ったことが無いからそんなこと言えるんだよ。普通は高校生にもなったら彼氏の一人や二人‥あたしは居なかったけどさ。」

「わたしもいなかったよ」

「わ、悪かったよ‥とにかく!結構なやつらが色々恋愛してんだよ。デートとかさ。きっとすごい楽しい物なんだろ?」

「(‥というか、私は別に恋愛に興味が無かった訳じゃないのよ。色々そっち系の本だって読んできたし。相手が居なかっただけ‥でもそれを言うのは癪ね‥)」

「わたしの周りも結構彼氏とかいたなー。何でみんな恋愛出来るんだろう。そもそもあんまり人を好きになったことなしなぁ。あ、2人の事は大好きだけど、それは恋愛じゃないし‥」

「決めたわ。今日は恋愛の話をしてあげようじゃない。勿論怪談に絡めてね。」

「相変わらずオカルトを結びつけるんだな。まぁサイトの都合上しょうがないんだけどさ。」

「そんなメタいこと言っちゃだめだよ‥」

「そもそも人間だって動物である以上、種の存続というのは絶対の目的なのよね。だから恋愛というのは生存欲につぐ強い欲で、恋愛したい!っていう感情は誰しもが持つはずなのよ。」

「なんか難しい事言い始めたな。」

「わかんなかったら取り敢えずその感覚は当たり前って事だけ解ればいいわ。前にも言ったけど、人間は欲を満たすために生きる生物‥本能のままに生きてたら恋愛なんて簡単に出来るんでしょうね。勿論、普通は理性で倫理観とかお互いの相性を考えて恋愛相手を選ぶのだろうけれど、そういった思考が本能の恋愛を妨げてるのが他の動物と違う所かしら。何というか皮肉な話よね。」

「まぁ確かにこいつとは付き合いたくない!っていうのはある程度お互いに知らないと出来ないし、こいつの××が嫌いだ!とか、他の動物はそこまで複雑なこと考えないだろうしな。」

「あ、でも動物も相手を選ぶっていう話をきいたことあるよ?」

「それは相手がある程度いたら、より生存に適した種を選んだりはするわよ。でも人間は良い子孫を残せるからこの人と恋愛したいっていうのは珍しいんじゃないかしら。‥一部の方々はするでしょうけど。」 

「やっぱり、お互いが好きだっていう感情が一番だからな。」

「そう。思考や理性で相手を選ぶということは、それが一致した相手とは、理性、思考、本能を乗り越えてしまうということよ。だから恋愛は恐ろしいものでもあるの。二人で心中、なんて言葉があるわ。そんなこと本来の動物からしたらあり得ない行動なのよ。でもそれが出来るのが人間だと思うし、そういう物語は悲しいけれど美しかったりするのよ。」

「何かきいたことある話だな。あ、そういやお七って話もそんなんだったような。」

「あれも恋愛がらみね。恋した相手に会いたいから放火までするというのは恐ろしい事だわ。」 

「さて、昔からこんな恋愛話が作られてるのだから、今はどうなっていると思う?」

「あの、わたし生き霊ってきいたことあるな。」

「じゃあそちらから話そうかしら。恋愛って2人の感情が一致したら素晴らしい事よね。でも世の中で中々そんな事はないわ。言うならばフラれた、っていうものね。それですっぱり諦めれれば良いのだけど、その人を好きになるっていう本能はどうしようも無いのよ。そうなった場合に出てくるのが生き霊よ。」

「確かそいつは死んでるわけじゃないんだよな。生きてるのに、霊が作れるって変な話だぜ。」

「まぁ幽霊は思念、思いの塊っていう点では不思議でも無いわ。問題は、それが相手に取り付いてしまうの。そんな思いに四六時中晒されたら、悪影響が起きないわけがないわ。あとたちが悪いのは生き霊を飛ばしている本人は生き霊を作っているという自覚が無いこともあるの。それを指摘されてようやく気がつく、みたいなね。そんな怪談はごまんとあるわ。」

「生き霊じゃないパターンもあるよね?」

「そう、恋人が死んでしまって幽霊になるパターンよ。これはさっきと同じ理屈で幽霊の存在は説明できるとして、一緒にあの世に連れていかれる場合があるの。死んでも一緒にいたい、なんてね。あの手この手を使って来るのよ。1パターンとして、2組カップルが車の事故に遭うんだけど、主人公が病院で目を覚ましたら目の前にもう一組のカップルがいて、主人公の彼氏が死んだって言うの。でも、個室の閉じられた扉の向こうから、死んだはずの彼氏の声でこっちに来いよ!って言われながら何回も何回もノックされるのよ。怖い話よね。」

「おい。その話知ってるけど、それをこの例で出すって事がお前らしいよ。」

「?どういうこと?」

「流石。長い付き合いだけあるわね。楓、その話実際に読んでみなさい。多分そこら辺に有るだろうから。とにかく、恋愛は生も死も乗り越える強い力なのよ。する方も好かれる方も用心しなさいね。」

「色々話したけど、やっぱり生きている内に恋愛は経験しておくべきものよ。それに悩んだり楽しんだりは人間だから出来るわけで、あたしらみたいに死後もそれに執着したって、ろくな事にならないわ。死人の恋煩いじゃないけれど。」

「今回一番駄目な事はこの話題をあたしらがしてるって事だよな。今更相手を作るわけにもいかねえし、死んでる奴なんて録なの居ないしな。結局今まで通り3人でいるしかねえか。」

「みんなと何でも話ができて、一緒にいれて楽しいし、彼氏なんかいなくてもわたしは幸せだよ。」

「私は今の状況で満足してるわ。なんなら彼女になってあげてもいいわ?」

「おいおい。そこまで困ってねえって。」

「あらそう。」

「ふふっ」

感想

恋愛なんてしたことないけど、彼氏ってどんなんなんだろう?もし生きてたらわたしにも出来てたのかな?でもそんなもしもの話より、今が幸せならそれでいいや。それにしても、最後の咲ちゃんの言葉、何かひっかかるような‥明日は何をしようかな。

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「‥私は別にあんたと恋愛しても良かったって、2人の時はそう思ってたのよ。」

「ん?何か言ったか?」

「何でもないわ。ねぇ。恋愛欲求があるって事はもしかしたらあっちの欲も戻ったのかしら?」

「うるせぇ。ちくしょーあいつ色んな物戻しやがって。こんな感覚久しぶりだぜ。」

「‥」

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「あー。こんなとき独り身は寂しいでやすね‥誰か愚痴でも聞いてくれやせんかねぇ‥そんな相手が欲しい‥」

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