中編3
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危険な実験 その4

昨晩あれほど酷かった雨も、明け方には何事もなかったかのようにピタリと止み、雲の隙間からは

薄青空が覗き、辺りは夕暮れどきのように、朱色に染まっている。

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織田、沢田と別れた篠原は、大学近くの駅のプラットホームで長椅子に座り、灰色の雲の隙間から時折差し込む朝の陽光に、眩しそうに目を細めていた。

早朝のためか、まだ人の姿もまばらで閑散としている。

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─あの時、俺は確かに天井に漂いながら、織田や沢田の様子を見下ろしていた。

二人の会話の内容もはっきりと覚えている。

それから、あの荒涼とした砂漠のような場所。

あれは、いったいどこなんだ?

そしてそこに現れた、もう既にこの世にいない三人。

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考えると、考えるだけ、篠原の頭の中は混乱していた。

すると、黒のスーツ姿の三十代くらいの男性が、キャリーケースを転がしながら、篠原の座っている長椅子のところまで歩いてきた。

後に続き、白いワンピース姿の同じくらいの年齢の女性が、幼い男の子の手をひいて、やってくる。

どうやら、ご主人の出張の見送りのようだ。

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「タカシ、東京はひどい雨みたいだから、風邪とかひかないようにね」

「大丈夫だよ」

「ねぇ、パパ。おみやげ、忘れないでね」

「分かった、分かった。絶対に買ってくるから」

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幸せそうな家族の会話を聞いていると、篠原はいつの間にか睡魔に襲われ、深く暗い眠りの谷底に堕ちていった。

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どれくらい経った頃だろうか。

突然、

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─ごぉぉぉぉぉぉんん……ごぉぉぉぉぉぉん……

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耳元で、あの臨死体験中に聞いた厳かなガムランの音色が聞こえてきた。

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─ごぉぉぉぉぉぉんん……ごぉぉぉぉぉぉん……

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篠原は意識を取り戻し、瞳を開いた。

ふと反対側のプラットホームの方に目をやると、長椅子の横辺りに何かぼんやりとした黒い人影が見える。

それは陽炎のようにユラユラと揺れている。

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─ん?……何だ、あれは?

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大きく目を見開き、再びよく見た瞬間、篠原の背中に冷たいものが走った。

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それは、二年前に飛び込み自殺をした、幼なじみの藤田だった。

高校時代の夏制服だった白のワイシャツに黒のズボン姿なのだが、ワイシャツはボロボロで、赤黒い血の染みがあちこちに付いている。しかも右肩から下が無く、頭部の右上半分が割れていて、血まみれの薄いピンクの脳ミソが剥き出しになっていた。

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「うわ!」

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篠原は思わず声をだして、立ち上がった。

すると、

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─まもなく貨物列車が通過します。危険ですので、どなた様も白線の後ろ側でお待ちください。

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アナウンスが流れ、列車が近づいてきた。

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─プアア!ァァァァァァンンン……

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轟音とともに、巨大な鉄の塊が、いよいよプラットホームの前を通過しようとした時だった。

さっきまで楽しげに家族と談笑していたスーツの男性が突然立ち上がり、線路に向かって走りだし、頭からダイブした。

「ドン!」という鈍い衝撃音の後、男性の体は撥ね飛ばされた。

直後に、鼓膜が破れるくらいのブレーキ音が鳴り響く。

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「きゃあああああ!タカシー!」

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奥さんの悲鳴が、プラットホーム内を響き渡った。

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電車は悲鳴のようなブレーキ音を響かせながら、やっと停止した。

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篠原は呆然としながら、立ち尽くしていた。

そして、その足元には、今しがた切断されたばかりの男性の腕が、無造作に転がっていた。

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……

「危険な実験 その5」に続きます。

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