中編5
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夢の女

咲「二話目ね。まぁ最初は軽い感じの方がいいのかしら?」

舞「お前の軽いは信用ならねえ。いいからさっさと話せ。」

楓「お手柔らかにね。」

咲「何よその言い方。‥そうね。ではオーソドックスな話を1つすることにするわ。」

この3人は「オカルト研究会」を自称し、今も他の生徒が帰った後、空き教室で勝手に集まりお喋りをするのが日課になっている。3人とも女子高校生である。

いつもぼーっとしていて、少し抜けている楓

少し口が悪く、考え方にどこか時代を感じさせる舞

オカルト知識が豊富だが、その内容が少し偏っている咲。 

この物語は、その3人による会話劇である。

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咲「この話は喫茶店での二人の会話劇よ。本当にシンプルな、ね。一人は20歳の妹。もう一人は25才の兄。妹が18のときに地元から離れた大学に進学して、電話でのやり取りはあったものの実際に会うのは久しぶり、という設定よ。」

舞「設定ってお前」

咲「失礼。そういう状況って意味よ。話を戻しましょうか。  

妹「実際に会うのは久しぶりかな~お兄ちゃん元気してた?」

兄「お前‥それ‥」

妹「その様子じゃ元気そうだね~。ちょっと聞いてよ。あたし大学行ってから結構お兄ちゃんに電話で相談してたことあったよね。今思えば下らない事なんだけど、その当時は本当に怖くてさぁ。」

兄「いや‥ってか‥」

妹「思い出した!懐かしい~。えっと、1、2週間おきだっけ、あたしの夢の中にすっごく怖い女が出てきてたんだよね。多分20才過ぎたくらいのはずなのに、髪がボサボサで所々白髪もまじっててさ。目は真っ赤なの。充血してるっていうのかな?よだれもだらだら垂らしてて、空いてる口から見えたんだけど、歯が殆ど無くて、しかもニヤニヤ笑ってるんだよね。しかもあたしの全然知らない人なの。

まぁただいる分にはいいんだけどさ、その女が夢の中で段々近づいて来るのよ。しかもそれ全部あたしの思い出の夢の中でね。

最初は、あたしが小学生の遠足で近くの公園にいく夢の中。広い公園でさ。懐かしい夢だなぁって思ってたら、遠くに真っ赤なコートだけ見えたの。そのときは特に気にしなかったけどね。次はいつだったかなぁ。あ、運動会の時の観客にいたっけ。まだこのときも怖くなかった。

そんな思い出の夢を何回もみて、変だなぁって思いはじめたころに、あたしが中学生時の夢を見てたんだよ。その時は体育祭で、リレーのアンカーだったんだよね。バトンを受けとるために後ろをみたら、あの女がニヤニヤ笑いながら走ってくるんだよ。このときに顔がよく見えた。今でもおぼえてる。」

兄「‥」

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舞「こっわ。えげつない絵面だな。」

咲「まぁ普通にこんなのが走ってきたら発狂するでしょうね。」

楓「さらっととんでもないことを‥」

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妹「めちゃくちゃ驚いて目をさましたんだよ。それからだね。あの女が絡んでくる様になったの。というか、露骨に存在を主張し始めたんだよね。夢の中であたしは高校生になるんだけど、あるときは授業の先生として来たり、映画見てたら離れた席でこっちを見てて、あたしが気付いたら追いかけて来たりね。その度に捕まる前に目が覚めるんだけど、もう怖くて怖くて死にそうでさ。確かお兄ちゃんにも相談したのがこの頃かなぁ。ちょっと、ちゃんと聞いてる?」

兄「‥あぁ。聞いてるさ‥」

妹「夢の中のあたしはどんどん今の年齢に近づいてきてて、女も近づいて来る。この頃になるともう顔の細かいところまではっきり見えるようになってさ。眠るのが本当に怖かったんだよ。」

兄「そうだな‥よく深夜に電話してきたっけ‥」

妹「最後にその女を夢の中で見たのは、あたしが大学の入学式を夢でもう一回体験した時かな。現実だと一年半くらい前か。式が終わって会場から出てきた所にいきなり現れて、あたしの腕を掴んできたのよ。何されるかわかんなかったけど、その女は一言あたしに向かって、「これでおしまい」って満面の笑顔で言ったんだよね。本当に笑顔が怖かった。その瞬間目が覚めたんだよ。

で、まぁそれからは特に何にも起こってないんだけどね。女も出てこなくなったし。終わってみれば何てことない話だけど、その時はめっちゃ怖かったんだから。」

兄「お前に最後に会ったのも‥一年くらい前か。」

妹「あ、確か解決した、って電話したんだっけ。なーんだ。じゃあこの話した意味ないじゃんwこれからどうする?久しぶりに実家帰って来たんだからママにもあいたいな。1年位会ってないし。」

兄「あぁ‥とりあえず家に帰るか‥話はそれからだな‥」

妹「んじゃここ出ようか。あ、先帰ってるから、お金払っといてね~」

兄「‥わかった‥」

兄(妹がその夢で悩んでたってのは親には教えて無いが‥なんて説明すりゃいいんだろう。

なぁ。お前気づいてないのか?今の自分の服装、夏休みで暑い時期なのになんで真っ赤なコート着てるんだよ。しかもお前二十歳だろ?なんで白髪そんなに混じってるんだよ。しかも親に会うなら髪くらい少しは直せよ。しかも目の病気か?真っ赤だったぜ?歯もどんな生活したらそんなに無くなるんだよ。殆ど欠けてるじゃねえか。しかも、話をしてる最中ずっとニヤニヤ笑っててよ。一年くらい前に会った時は普通だったじゃねえか。どうしちまったんだよ‥)

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舞「‥」

楓「えっと、つまり妹さんは、その夢の女と同じになっちゃったってこと?」

咲「そう。でもこれは現実ね。夢じゃないわ。」

舞「で、でもよ?妹は普通に生活は出来てるみたいじゃねえか。まだ救いは」

咲「妹が自分でそう言ってるだけかもしれないわよ。実際、そんな体と感性でまともな生活出来てるのかしらね。そしてこの話の最大のポイントは、妹をそんな風にしたその夢の女が、現実の妹とは全く無関係な人だったって事よ。つまり、誰しもがこのターゲットになる可能性があるって事よ。しかも妹その状態に気付いてないみたいだし。」

舞「は?冗談じゃねえよ」

楓「えっと‥それ以上は‥」

咲「人が何に恐怖を感じるかはそれぞれだけど、霊の中で一番おそろしいのはそういう無差別、理由のない恐怖に無力な人が巻き込まれてしまう、ものだと思うわ。この話はその典型的な例。でも、オカルトってそういうものよ。」

舞「寝るのが怖くなっちまった。責任とれよ。」

楓「どうしようかな‥」

咲「っていうかそもそも私達幽霊じゃない。今更怖がるものもないでしょうに。」

舞「うるせえ。怖いもんは怖いんだよ。」

咲「ここに眠気覚ましのガムやら飲み物やらが大量にあるけどいる?」

舞「いらねえ。」

楓「あ、次はわたしの番か‥話考えないと‥」

舞「あのー、できればそんなに怖くないやつで頼むな。マジで。これまだ2話なんだから。」

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