中編3
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歌が聞こえる(AとYサイド)

歌が終わると急にSはいなくなっていた

目を見開き、泉の中、至る所を見たが彼女の姿はない。

「Yさん!Sが、いやNがいなくなった!!」

Yさんは「えっ?それは誰だい!?」

と言った顔をしている

そんなバカな……本当に存在が消えたことになっている。

「ほら、昨日からずっと俺と一緒にいた女の子いたでしょう!?」

と胸ぐらを掴んで聞いても

「Aくん落ち着きなよ、わからないよ」

俺は落ち着いて説明をし直す。

「MさんのようにNもいなくなってしまった」

彼はそれを聞いて、君らもここで歌を歌ったのか……

と目の色を変えた

何ができるのかを考えまくった、まくったが何も思いつかず、歌のことを考える事にした

歌の歌詞は確か一番の終わりは

月がみなもに映る頃、愛しい私を迎えに来て...

そして2番はというと

月が水面から消える頃、私はあなたの前から消えるでしょう…だ。

この歌の、人魚姫は一番で彼を待ってみたものの、2番では、やっぱり彼の前から消えることを選んでいる。

なぜ...なぜだ……?

Yさんもわからないという風だ

こういう時、男ってのは女の心情を読み取れなくて困る。

男と女では月とスッポンほど違うのだろう、そこで兄貴ならどう考えるだろうと思いをはせる……兄貴ならきっと

「うるせえメンヘラ迎えに来たんだから、ついてこい」

と自己中を振りかざし人魚姫をさらうだろうな……少し吹っ切れた俺はYさんに言う。

「今から歌の3番を実行します」えっ?と、聞き返すYさんに俺は

「月を消して人魚姫をさらう王子様作戦です!!」と笑った

水面に映る月は大きく、そして幻想的だ

さてこの月を消すには……泉の周りは木々に囲まれていて都会のようにビルや街灯の光もない

広大に遥か遠く視界に入りきらないほどに憎たらしいほど綺麗な夜空

雲を呼び寄せる神通力なんかありもしないし、どうやって月を消そうかと考えていた

そして反対の発想へと行き着いた

夏、夜、と来たらあれはどこにでも売っているはずだ!!

「Yさん行きますよ!!」

走り出した俺に慌ててYさんもついてくる、ほどなくして息を切らして俺たちは何でも置いてそうな一福亭へとたどり着いた

「ここで何買うの?」と、Yさんは聞いてきたので

「ありったけの花火を買います!月の光を掻き消せるほどの火花を打ち上げるんです!!」

と言った俺の言葉の意味をわかってくれたようだ彼は村民の家を回って、花火大会を急遽やることを伝えて回った

影で消せないなら光でかきけせということなのだ

一福亭のお婆は

「なんぞ花火大会でもするんか?爺さま、あんれ打ち上げちゃりよ」と、打ち上げ花火(1尺玉)まで持ち出してきてくれた

抱えられるだけの花火と、なんだなんだと集まった村民とともに、俺たちは走った、泉へと着いた俺達は花火を泉の周り一面に並べ、泉を取り囲むように皆位置についた

Yさんは例の古弦楽器を持ってきて演奏を始めた

さすがは村民、みんな口々に歌を口ずさみ、それぞれ花火に火をつけた。

一福亭の爺さまとお婆は泉の中枢あたりにある祠のようなところへ小舟を出し、打ち上げ花火の用意をしている。

俺はYさんと目を合わせ音痴丸出しで歌いながらNが、Sが、そしてMさんが、消えた岩の上に立ち、打ち上げ花火が盛大にどーんと空へ上がった瞬間

月は花火の光でかき消されたのを目にした、そして

「迎えに来たぞこのメンヘラ!!」

と叫びながら消えた月のあった泉へ手を差し込んだのだった

Concrete
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