中編6
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西階段の十三段目

私の高校には七不思議として語られる怪談があります。

一般的にはそういう怪談に関しては悪く言えば面白おかしくふざけて語られる雰囲気のものが多いですが、うちの学校のそれは明らかに危険度の高いものでした。

そのことを示すように私の高校の七不思議として語られる現場のほとんどが施錠、もしくは封鎖されて入れない状態にされているのです。

そんな中で怪談の舞台でありながら、私達が日常利用できる場所が二つだけありました。

それがこの学校の二つある主要階段の西階段と東階段です。

その両階段ともそれぞれ別々の七不思議に数えられているのですが、今回お話するのは西階段の十三段目という怪異談です。

どういうお話かと言うとうちの学校には出入り口から近いところにある階段が東と西の二つありましたが、そのうちの西階段では段数が一段増えるというのです。

もう少し詳しく説明すると、西階段の一階から三階までの階段は踊り場まで通常十二段なのですが、目を閉じながら上がっていくと十三段目が存在するときがあるというのです。

また、西の階段には東の階段にはないゴムのカバーが施されていました。

これではまるで主要階段だから封鎖することはできないが、時々転倒、落下事案が発生してしまうので、できるだけその被害を軽減しようとしているようにしか思えませんでした。

部活の先輩にこの西階段の怪異談について尋ねてみると実際にあそこで女生徒が一人転落死していると言われました。

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「これは噂にすぎないとおもうかもしれないけど、間違いない情報だと思うよ、私の先輩が同級生だったみたいで教えてくれたの」

「それにしてもゴムのカバーもされて、夜間の電灯もずっと点灯していますし、いくら被害者がいたからって他に何かなかったらさすがにここまでしませんよね」

「う~ん」

「それに目を閉じて階段を上がって仮に十三段目があったからって特にどうということはないですよね」

「ああ、そういえばそうだね、あれじゃない十三段目があったら不吉だってことじゃない?」

「そうだとしても、あのゴムカバーと電灯が説明つかないですし」

「……それなんだけどね」

彼女は急に声を潜めて、あの階段についての不穏な噂を語り始めました。

「あの階段ではときおり誰もいないところから手が飛び出て背中を押されたり、足を掴まれたりするらしいよ」

「えっ、何もないところから手が?」

「皆が話してるのはあそこで死んだ女子生徒が他の人を仲間に引きずり込みたくてやってるって噂だけど」

「でも先輩、仮にその死んだ女子生徒の幽霊が出るにしても十三段目があるっていう怪異とは微妙に関係しないような……」

何だか話が複雑になってきましたが、先輩もそれ以上のことは知らないようで考えこんでしまいました。

なにかしっくりしないものを感じながら、そこで先輩との話は終わりました。

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そんなある日、部活の後のおしゃべりが長引いてしまい急いで帰ろうとしたときに二階の教室に宿題を忘れているのを思い出しました。

当然、例の怖い噂のある階段を上らなければいけません。

私は特に考えることもなく、教室に近い西階段を選びました。

外はもうすっかり日が落ちて、厚い雲が空を覆っていたので月明かりもなかったのですが、西階段は電灯で照らされているので、その階段の周りだけが青白く浮かびあがっていました。

西階段の下まで来たとき私は何を考えるでもなくそっと目を閉じ、ゆっくりと階段を上っていきました。

一、二、三……

文字通り段々と一番上の十二段目が近づいてきます。

七、八、九……

十段目を踏みしめた時、それまでよりも一段一段を念入りに確認するようにじわじわと足をあげました。

十一……

十二……

これで終わりのはず、私は少し間を置いたのち意を決して片足を上にあげて前に進みました。

十三……!

十三段目、驚いて目を開けそうになりますが、私は息を徐々に吐いて斜め上に進んだ右足の先に意識を集中しました。

気のせいではありません、確かに十三段目の感触がありました。

西階段特有のラバーコートの柔らかい感触と思いました、しかし、階段の踊り場と思われる場所に上がってよく確かめていると何か別の感触が現われてきました。

「えっ、違う、これゴムじゃない」

ゴムにしては柔らかすぎる上に表面も平らではありません、いえ、それどころか太い筒状のものが敷き詰められている感触もありました。

「これ、人の体なんじゃ」

そのあり得ない直感に驚いて目を開けようとしたその時でした。

天井の電灯がバチンとはじけるような音をあげるのが聞こえました。

その途端目を閉じていてもうっすら感じていた電灯の光が消失しました。

慌てて閉じていた目を開きましたが、階段の踊り場はまさしく漆黒の闇の中でした。

「えっ、なにこれ、なんなの!」

私はパニックになりながらも唯一残された手すりの手ざわりを頼りにしながら、とにかくこの場所から脱出しようと踊り場から下の階の方へ進み始めました。

闇の中で全く見えないのですが、一度死体が敷き詰められていると感じてしまった私の足にはもはや人の足、腕、頭を踏みしめているとしか思えない感触が伝わってきました。

それだけではありません、かすかに足元と周りからは人のうめき声ともとれる濁った音が響いてきました。

「……いや、もう、たすけて」

怪異の核心である十三段目は単に階段の段数が増えるということではなく、その十三段目そのものが人の肉と骨によってできたものなのかもしれないと吐き気を催しながらも意識を何とかつなぎ留めました。

とにかく早くここから抜け出したいという思いから下に向かう階段に歩を進めました。

一つ下の十二段目に足をかけた時、その階段の上に細くて硬いものが乗っていることに気が付きました。

人骨かもしれないと感じた時にはもう遅すぎました。

私が体重を乗せたそれは靴の下で折れ砕け、その衝撃で私はバランスを崩してしまいました。

スローモーションのように自分の体が階段の下に向かってバランスを崩すのを感じていました。

「あっ、そんな」

どうにか命だけでも守ろうとは頭の中では思うのですが、恐怖で固まった体は全く言うことを聞いてくれませんでした。

体が水平に倒れていき、顔面が階段の角に打ち付けられそうになるそのときでした。

突然私の右手が誰かの手に強く掴まれました。

「えっ、なに!」

突然の衝撃に驚きながらも私は左手でも手すりを掴み何とか体勢を立て直しました。

何かに右手を捕まれたのは一瞬で、私が起き上がったときには私の手を掴んだ何かは消えていました。

違和感はありましたが、私はとにかく急いで階段の下まで降りることに専念しました。

一階の廊下まで降りきったとき、私はゆっくりと自分がいま抜け出した階段の上を見やりました。

そこには一人の女子生徒が佇んでいました。

漆黒の暗闇の中なのになぜかその姿ははっきりと見ることが出来ました。

その女生徒は私に向かってかすかに微笑みましたが、その直後背後から無数の手が伸びてきて彼女を階段の踊り場の奥に引きずり込んでいきました。

私はその光景に呆然としながらもあの女生徒もこの世の人ではないと直感的にわかりました。

「……ありがとう」

はっきりと意図したわけではありませんでした。

しかし、無意識のうちに感謝の言葉が漏れ出ていました。

私はゆっくりと振り返るとそのまま夜の学校を後にしました。

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この学校は昔墓地でした。

そんなどこでも聞かれる噂がこの学校でも語られていました。

根も葉もない噂ではなく、学校を新設するときに街の中でそれなりの広さの土地を用意するとなるといわゆる曰くつきの土地が候補になりやすいということは普通にあることだったようです。

後になって思うと、たぶんあの階段自体はたまたまそこにあっただけなのだと感じました。

おそらくあの階段の下には人の死にまつわるとんでもないものが埋まっているのだと思いました。

その証拠に西階段の下には小さな用具倉庫らしきものがあるのですが、確認するとその入り口の扉は鍵だけでなく鎖と南京錠で閉ざされていました。

その封印とも思える固定は間違っても誰かが入らないようにするという意思が感じられました。

階段の踊り場のその下、埋まっている何かに近い分、そこにはやはり忌まわしいものが出るのでしょう。

私を助けてくれた女子生徒は私達の一つ前のデザインの制服を着ていました。

彼女があの階段で死んだという女子生徒かどうかは分かりません。

しかし、あの女子生徒がいまでもあの場所にいる亡者達によって縛られているのは間違いありませんでした。

私は拘束された彼女の魂がいつか解放されて成仏できますようにと願わざるを得ませんでした。

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@夜行列車 様
初めまして、週末、実家に帰っておりまして返信遅れまして申し訳ありません。
私のお話に怖いポチとご感想頂いただいただけでも感謝ですのに過分なお褒めの言葉ありがとうございます。
夜行列車さんの好みに合いまして嬉しいです、私はどちらかと言うとおこがましいようですが、新しいと感じるお話に胸ときめくので、自分のお話もそういうことを目指そうと頑張りがちです。

このサイトは本当に多彩な怖いお話が投稿されますので、私自身も大いに刺激を受けております。

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序盤はよくある怪談話。。。
かと思いきや中盤からオリジナルな展開が進み終盤は映画かドラマかという超展開!
一つの読み物として素晴らしいです。
こんな作品に出合えることがこのサイトの面白さですね!

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