斎場の斉場(シーズンⅡ) その3

中編4
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斎場の斉場(シーズンⅡ) その3

「今日、電話した者だが、悪いが今から一仕事、お願いしたいのだが」

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そう言って黒いスーツの男は、ジロリと俺の方を見るんだ。

男は色白でまあまあ整った顔立ちをしているのだが、一つ一つのパーツは妙に小さくまとまっていて、ほとんど表情というものがなく、まるで『能面』のような感じだったな。

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「一仕事、、、?」

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そのとき俺はまだ、男の言った言葉の意味が分からなかった。

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男は今度は横に並ぶスーツの男たちの方を、ジロリと睨んだ。

そしたらスーツの男の一人が、横でぶるぶる震えている初老の男の目隠しを取り去ったんだ。

途端に男は、ダムが決壊するかのように泣き叫びだしたよ

「うわあああ!こ、こ、ここはどこなんだ!

どこなんだあああ、、、

今から何が始まるんだ!?

頼む!!頼むから

後生だから、お願いだから許してくれ!

見逃してくれよお、、、」

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男は叫びながらその場に膝まずくと、能面の男に向かって、必死に手をこすり合わせ始めたよ。

その時初めて気がついたんだが、男の背中には、黒マジックで大きく『人非人』と、書かれていた。

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そしたら能面の男は、必死に拝む男の正面までゆっくりと歩き正面に立つと、一つ大きくため息をついてから、また淡々としゃべりだしたんだ

「あなたは組織の大事な金を何の許可もなく、使い込んだ。その額は幾らだったか分かるか?」

男は下を向き、黙りこんだ

「ふふ、、、都合が悪くなると、そういうことか。

じゃあ、教えてやろう

12億とんで813万2113円

この金を集めるのに、どれだけの時間と労力が掛かったか、、、あなたに分かるか?

ふふ、分かるまいな。分かるはずがない。

分からない人間には分からせるために、それなりの罰を受けてもらう。

それが、この世の中の理だ」

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初老の男は子供のように「ごめんなさい、ごめんなさい」とだけ何度も唱えていたよ。

能面の男がやはり無表情のまま、続ける。

「ただ、無情な私にも情けというものがある。

だから今からあなたに、特別に二つの選択肢を与えてあげよう。

まず一つは、、、」

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能面の男は上着の胸ポケットに右手を差し込んでから、ゆっくり何かを取り出してきたんだ」

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それはな、傭兵が戦場で使うようなでっかい『サバイバルナイフ』だったよ。

能面の男は最初、さもいとおしそうにそれを眺めた後、その刃先の辺りを一回ペロリと舐めやがった。それからそれを男に手渡すと、再び話を続けるんだ。

「喜べ。あなたに『名誉の死』を遂げるチャンスを与えよう。だからそれで、首を切るなり、胸を刺すなり、また切腹するなり、自由に選んでくれ

ただ、、、一つだけ約束して欲しい、、、」

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「確実に逝ってくれ」

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初老の男は両手でナイフを受け取ると、真剣な眼差しでしばらく見つめていたな

そして最後には正面に立つ男を見上げて、仔犬のような目をしながら、大きく首を振ったんだ。

そしたら能面の男は深くため息をつき、

「人がせっかく情けを与えてやったというのに、失望した、実に失望したよ」と呟くと、スーツ姿の二人に目配せをしたんだ。

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すると男たちは両側から脇に腕を通して、がっちりと初老の男の自由を奪った。

男はまるで、サーカスのチンパンジーのように暴れだした。

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「くそ!放せ!放せ!放してくれよお!」

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それから能面の男は、唖然としながら見ている俺のそばまで来ると、『じゃあ、頼む』と一言呟きやがった。

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「頼む、、、とは、何を?」

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尋ねると男は俺の顔をまじまじと覗きこんで、はっきり言った。

「決まっているだろう あんたの仕事を、だ」

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俺は男の黒目がちな二つの目をしばらく見ていて、やっとその真意に気づいた。

「冗談じゃない!そんなこと、できる分けないだろう!?」

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男は如何にも意外そうな顔をして尋ねた。

「出来ない?それは、なぜだ?」

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「だって、あの人は、まだ生きてるだろ」

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男は初老の男の方をチラリと見てから、再び俺の顔を見て肩に手を乗せると、こう言い放った。

「あれは生きている価値のない男だ。つまりは、死んだ者と同じだ。だから安心しろ、大丈夫だ」

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「やってくれ」

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「大丈夫と言われても、ダメなものは、ダメなんだ

俺はそう言って、何度となく首を振ったよ」

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そしたら、能面の男はしばらく考えるように顎に手を当てると、とんでもないことを言い出した。

「しょうがない。そしたら、あんたも奴と一緒に、あの世に行ってもらおうか」

男の言葉が終わるとともに、二人の男が同時に俺の顔を睨んだ。

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「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

そう言って俺は頭を抱えて、その場にしゃがみこんだ。

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俺が断ると間違いなく、この男は口に出したことを実行するだろう。こいつはそんな男だ。

俺はまだ40代。まだ、やりたいこともいっぱいある。だから、こんなところで死ぬ訳にはいかない。

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聞いていたら、この初老の男は人の金を勝手にくすんだらしい。しかも、半端ない金額を。

だったら、この男の言う通り、それなりの罰を与えても、バチは当たらないのではないか。

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俺は死にたくない一心で、無理やり理屈をつけて、今から行う自分の非人道的な行為を正当化しよう、としていた。

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俺はゆっくり立ち上がると、能面の男の顔を見て、静かに頷き、こう言った。

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「分かった。じゃあ、棺を準備してくれ」

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そしてそれに対して能面の男が言った言葉に、俺は

息を飲んだ。

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「棺?そんなものはない。

この男には出来る限り金を使いたくない。

分かるだろう?

だから、そのままやってくれ」

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「そのまま、、、」

地面がぐらりと傾き、目の前が真っ暗になった

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「じゃあ、頼む」

そう言って、男は、俺の肩に手を乗せた。

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斎場の斉場(シーズンⅡ)その4に続きます、、、

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