中編4
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くさい女の人

職場の先輩の話です。

先輩が大学生の頃、彼女と冬の夜中に中国地方の山道を車で走っていたところ

道の真ん中をおじいさんが歩いていました。

あたりは1m近く雪が積もっていましたが、車道だけはある程度除雪されていて、かろうじて歩ける状態でした。

ほぼ街灯もない真っ暗な山道だったので、先輩は

認知症の老人が徘徊している、と判断し、車の窓を開けておじいさんに話しかけました。

「じいさん、じいさん、何してんのん?家どこ?こんなとこおったら凍え死んでまうで?」

おじいさんはぼんやりとしていて何も答えません。

耳が遠いのだ、と思い大きな声でもう一度言いましたが、やはり何も答えず、ぼうっとしています。

「とりあえず車に乗り。交番かどっかまで連れてったるわ」

すると助手席の彼女が言います。

彼女「やめて。車を出して、進んで」

先輩「薄情な奴やな、じいさん絶対死んでまうやん」

彼女「えぇから出して!!」

先輩「・・・ごめんな、じいさん。とりあえず警察呼んだるからそこでおってな」

先輩はしぶしぶ車を発進させました。

・・・

彼女にはそのおじいさんが見えていなかったのです。

暗闇の空中に話しかける彼氏にゾッとしたことでしょう。

それを先輩に伝えると

「あぁ、そういえば笠とか蓑(みの)とか時代外れな格好してはったなぁ。」

と後から幽霊だと気がついたそうです。

先輩はそのようにはっきりと霊が見える人です。

ある意味鈍感というか天然というか霊を霊だと気がつかないこともよくあります。

そんな先輩が教えてくれた幽霊の知識は

「悪い奴はくさい」

です。

害のない幽霊は無臭で、害のある幽霊は独特のくさいにおいがするそうです。

ヤギとか羊とかくさい系の肉をさらに腐らせたような嫌なにおいがする、と。

「大丈夫な奴(幽霊)は無臭やから生きてるんかオバケなんかようわからへん」

と言っておられたのが衝撃的でした。

・・・

先輩がはじめて悪い奴(幽霊)に出くわしたのは小学校の時でした。

学校の多目的室という畳の部屋にいつもくさい女の人がいました。

ほぼいつもいて、特に何もしていないので、

先生ではないな、と思っていましたが、くさかったので先輩は近づきませんでした。

その女の人のことを話題にしても誰も知らないので、

変だなぁと思っていましたが、たいして興味をもっていなかったのでスルーしていました。

くさい女の人は基本的には多目的室にいましたが、時々そこから出てきてウロウロすることがあり、

においで存在がすぐにわかりました。

たまに休憩時間の教室にもスッと入ってくることがあり、

毎回T君のところに行ってT君の耳をペロっと舐め、くさい女の人は教室から出て行き、

しばらくするとT君が痙攣を起こして保健室に運ばれる、

というのがいつものパターンでした。

T君以外に耳を舐められる子供はいませんでしたし、

くさい女の人はT君しか見ていない感じがしていました。

みんな特に疑問を持たず、T君は痙攣もちの子、としてそのことは処理されていました。

他の日にはE君のお父さんがくさい女の人と手を繋いで廊下を歩いているのを見て、

参観日でもないのに変だなぁと思いましたが、自然な感じだったのでスルーしました。

その日にE君のお父さんは電車に飛び込み自殺されたそうで、翌日からE君はしばらく学校にきませんでした。

(時系列的に手つなぎの件の後に亡くなったのか、亡くなってから手つなぎがあったのかはよくわからないそうです。)

それくらいから先輩はくさい女の人を悪い幽霊だ、と認識しました。

くさい女の人は基本的に無表情でしたが、たまに笑っている日があり、

そんな日はかなりの高確率で児童の誰かがひどいケガをしたそうです。

一応これらのことを担任の先生に報告したところ、それ以前に他の児童からも校内に変な女性がいる、という報告が何度かあったそうで、先生たちで相談して

お札、お守り、清め塩、般若心経など考えられるいろんな方法で多目的室を浄化してみましたが、

どれも全く効果がなく、その後もくさい女の人は平常運転を続けていました。

先生たちは除霊を試みるたびに先輩に

「どうや?」

と効果の確認を求めましたが、毎回答えは

「全然あかんわ」

でした。

除霊行動に怒ってくさい女の人が何かしてくる、ということはなかったそうです。

小学校卒業後はどうなったのかわからないそうですが、先輩は

「まだおるんちゃうかな」と言っておられます。

そのくさい女の人について、先輩は

くさい、と思っていましたが特に怖いとは感じていなかったそうで、

「けっこうブスやった」と評価されていたのが印象的です。

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