中編6
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夢で逢いましょう(1部)

【1日目…】

彼は私をソファーの背もたれへと強引に追いやった。

そして、のし掛かる様に私に被さり、頬に自身の頬をあてがう。彼の少し伸びた髭が肌に擦れ、痛みとも心地好さとも言えぬ淫靡な感触が私の全身を駆け巡る。

彼は耳元で囁いた。しかし、私はその言葉が聞き取れなかった…

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驚きのあまり、私はベッドから勢い良く起き上った。呼吸は乱れ、心臓が高鳴る。あまりにも現実味を帯びた感覚が頬に残る…

( 夢…やんな? )

彼と触れ合った自分の頬を撫で、私は考えた。( 顔はボヤけてた…知らない人…な、はず… )思い返す内に恥じらいを覚え、私は頭を掻き毟る。( 何ちゅ~夢見るねん… )と、罪悪感にも似た思いが込み上げ溜息をつく。

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私は憂鬱さを抱えながら、身支度を行う。ふとした瞬間に夢を思い出し、我に返る。( 欲求不満か…? )そんな事を自問自答し、またその姿を客観視する事で情けない感情が芽生え、落ち込んだ。

何故なら、私が夢見た隣には長年寄り添っている恋人が寝ていたのだから…浮気をした訳ではない。だが、私は恋人に申し訳ない気持ちを抱いた…

その日、私は上の空で日常を送った。

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【2日目…】

また彼が現れた。昨日と同じソファーの上…やはり顔はボヤけているが、触れ合う肌の感触で同一人物だと解かる。

彼はまた私を強引に追いやった。そして頬を重ね、耳元で囁く。

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そう思っていたが、彼は言葉は発さず、粘り気のある生々しい音を自身の口から奏でた。私の脳がその音に痺れる。抗えない…多分、拒むべきだと頭では解かっている。しかし、身体はその音に支配されたかの様に動かない…

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今朝も私は飛び起きる事となった。動悸にも似た強い衝撃が私の平常心を脅かす。

恋人はそんな私には気付かず、気持ち良さそうに寝息をたてていた。《 ズキッ… 》私はまた違った痛みを胸に感じる。痛みを耐える為か、自責の念からかは解からないが、私は無意識にシーツを強く掴んでいた。

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洗面所へ私は向かう。冷静になれる様、勢い良く自分の顔を洗った。まさか2日連続、しかも内容が続いている事に驚いていたのだ。( 別に満足してない訳じゃない…でも、こんな夢を見るって事はやっぱり… )自問自答を今日も行うが、誘導尋問の様で嫌気がさす。

( 男が夢精した時もこんな気持ちなんだろうか…? )素朴な疑問だった。

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【3日目…】

彼は今日も耳元で猥雑な音をかき鳴らす。そこには、抗えない状態を諦めている私が居た…すると突如、彼の舌が首筋に絡みつき、強烈な刺激に襲われる。自分でも驚く程の感覚だった。彼は執拗に首筋に舌を這わす。私の身体はその感覚を味わう為か、ただただ受け入れていた。

声が漏れそうになった。その瞬間、激しい痛みが与えられた。

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激痛により覚醒した私は反射的に首筋を押さえた。眉間にシワを寄せながら首筋を庇い、洗面所に向かった。鏡にその姿を映し、私は驚愕した。( 夢のはずだよね…? )私の首筋には夢で噛まれた場所に、ハッキリと歯型がついていたのだ…

昨日寝る時には無かった。それは確実だ。

( 夢とリンクした?んな、馬鹿な話…ある訳… )と、笑い飛ばしたかったが、自身の首の痣が物語る。そして、初めて【ヤバい夢を見続けている】と気付いたのだ。

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私は焦っていた。こんな馬鹿げた事をどう対処出来ようか?幾ら悩めど、答えなどは無く、夢を現実と認めるしか無い恐怖がつき纏う。

独りではどうする術も無い私は、恋人に相談するしかなかった…

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恋人は叩き起こされた事により、まだ思考が定まらずにいた。私はコップ1杯の水を飲む様に促す。恋人はそれを一気に呑み干し『どしたん?何事?』と眠たそうに尋ねた。

私は先に謝り、今日までの夢の内容を伝える。恋人は徐々に意識を鮮明にさせ、私の話を最後まで聴いてくれた。

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『まず、その話が事実だとしよっか。その前提で、否定と肯定の可能性の話をするね。』彼は冷静に語る。

『その話の否定で有り得るのは、寝惚けて俺が噛んだ。無いと思うけど、まだこれが可能性が高いと思うんよ…』恋人は寝ている時に私に強く抱き着いたり、たまに寝返りついでに裏拳をかましてくる事があった。極稀に恋人自身は寝ていたらしいが、会話が成立したり、性行為に及ぼうとした前科もあった。

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「ん~…有り得ないって完全否定は確かに出来ないね…」と私は苦笑した。恋人は少し申し訳なさそうに頬を掻き、続きを話す。

『肯定の話は、1つ目がプラシーボ効果。思い込みで火傷するって実験の話知ってるよね?あれだと思う。君が【首を噛まれた!】と強く思い込んだから、実際に首に噛み痕が現れた。』恋人の考える話を私は論破出来ずにいた。この会話が【本当に起こっている話】という前提の上だが…私は自分に降りかかっている事柄に、不気味さを覚えていたからだ…

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『2つ目はオカルト的な事になる。また何かに憑かれたか、夢魔の仕業じゃないかな?』

以前、恋人と出会う前に私は憑き物を経験しているらしい。この話についてはまた別の機会にでも…

だからこそ、今回の様な事が起こっても完全に否定する事が出来なかったのだ。自分だけの思い込み・幻覚だったら鼻で笑える。しかし、今回の出来事も以前の事も他人に指摘されて・見られて、といった形で共有している。なので、私だけの勝手な思い込みや、自演ではないのだと思えた…

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「ごめん、ムマって何だったっけ?」私はその言葉の漢字が思いつかず、恋人に尋ねた。『夢魔、夢に悪魔の魔で夢魔だね。淫魔とも言って、一般的にはサキュバスが有名かな?でもこの場合は君が女だからインキュバスになるね。』恋人は持っている知識をゆっくりと述べた。

夢魔は男性の夢に出る時はサキュバス(女の容姿)、女性の夢にはインキュバス(男の容姿)で現れるらしい。その際に性行為を求め、男性は精子を搾取され、女性は妊娠させられるといった神話に出て来る悪魔の話である。

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『俺的には肯定の内容の方が興味は湧くけど、出来れば俺が噛みついたって方が良いよね?』っと曇った表情で笑いかける。私は何とも言えず、乾いた笑いで返す。

彼が噛みついたかどうかは、同じ場所を噛んで貰い、歯型が一致するか確認すれば済んだ。しかし一致しなかった時のリスクを考え、私は敢えてその事に触れずにいた…

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あれから時間は経ち、互いに仕事へ行く準備をしなくてはならなかった。恋人に「朝から変な話に付き合わせてごめん。」と軽く謝り、2人して急いで支度をした。

解かってはいたが、やはり今日も私は上の空で過ごす事となった。

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帰宅後、私達は夕食を共にし、一息ついたところで今朝の話を恋人が気に掛ける。『やっぱり痕、消えないね…』私の首筋に目をやり、恋人が呟く。

「どうしようもないね…」と私は苦笑いしか出来ずにいた。恋人と共有した事により、現実味を帯びた傷痕のお蔭で私は今夜寝る事が怖かった…またあの夢の続きを見そうで…

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【4日目…】

彼は自身が噛みついた場所に、再び舌を這わせる。耐えがたい痛みの上から、生暖かい舌をゆっくりと…優しく当てられる事により、得も知れない感覚に私は身を捩じらせた。彼はそんな私を見て、ニヤッ…と嗤う。その時初めて、彼の鼻から下を認識出来た。意識を集中し、顔全体を見ようと試みるが、淫楽を覚えた体が意識を遮る…

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冷や汗で寝間着が肌に引っ付く。気持ちが悪い…『大丈夫?また夢見た?』恋人が薄らと目を開け、私の手を握る。「ごめんね、でも大丈夫やし…」私は嘘をついた。それは恋人に心配をかけまいとしての思いなのか、背徳感からかは不明である…ただ、永らく感じる事がなかった感覚に嫌でも体が反応していた事が不快でしかなかった。

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私が夢で彼を一瞬でも受け入れた事により、私は恋人に相談し辛くなってしまった。( 夢だから、人間だから仕方ない。ただの生理現象… )と言い聞かせるが、やるせない気持ちでいっぱいだった…

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@夜行列車 さん

コメントありがとうございます。
ご期待に添える作品が書ける様に頑張ってみます♪
良ければまた読んでやって下さいm(__)m

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