中編4
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いつかの男の子

当方40代の男です。

自分が17才の頃に不思議な体験をしたのですが、その出来事を今でもたまに思い出しモヤモヤしているのでお二人の見解を聞きたいです。

当時は毎週末友人と明け方まで屋外の溜まり場で遊ぶことが恒例でした。

その日もいつものように土曜の夜に仲間と集まり、特にやることもなく他愛もない会話で盛り上がっていました。

そして時刻が午前3時を過ぎたころ、突然大粒の雨が降り始めてきました。普段は天候が怪しい時は最初からいずれかの友人の家に集まるようにしていたのですが、その日はそういった予報もなく、またゆっくり雨宿りする場所もなかったので、いつもなら帰るのにはまだ早い時間でしたが仕方なくその日はそのまま解散するこになりました。

多少小振りになった雨の中、小走りで家路へと急いでいました。そしてようやく自宅の目の前まで差し掛かったとき、自宅から数メートル先の外灯の下に2つの人影があることに気づきました。

一人は傘を差した女性で、おそらく30代前後といった印象でした。そしてその女性の傍らには黄色いレインコートを着た男の子が佇んでおり、見たところ幼稚園児か小学校低学年かといった風貌でした。

この親子と思われる二人は外灯の下、手を繋いで目の前にある民家をただじっと眺めているようでした。

私は「こんな時間になにしてんだ?」と思い、しばし目を凝らして観察していたのですが、ふとその男の子がこちらの方に顔を向けてきたのです。その子は笑うでもなく、睨むでもなく、ただただあどけない表情で私を見つめていました。

私には外灯の灯りに照らされたその無垢な顔にどことなく見覚えがあり、どこの誰かまではわかりませんが、見たことがあるということは近所の子供なんだろうと早々に納得することにしました。

そして母親と思われる女性の方は相変わらず外灯前の家を微動だにせずじっと見つめているだけで、その異様さにようやく気味が悪いという感情がふつふつと湧き上がってきました。

ちょっとおかしい人だったらどうしようと考え始めたそのとき、ふとある違和感が頭の中に浮かんできました。

「この親子、雨が降るってわかってたのか?」そんなことを考え始めるとこの親子の存在全てがおかしく思えてきました。

そうすると急に言いようのない恐怖が込み上げてきて居ても立っても居られなくなった私はその親子を横目に素早く自宅の鍵を取り出し急いで鍵穴に鍵を通そうと一瞬目をそらしたその時、突然真後ろから「けんちゃん」と私の名前を呼びかける声が聞こえました。

私は一気に背筋が凍りそれと同時に反射的に後ろに振り返りました。そこにはついさっきまでの外灯の下に居たレインコートの男の子が目の前に立っていました。男の子はやはり無垢な表情でこちらを見つめていました。

私は声にならない悲鳴をあげ、後ろ手でガチャガチャとドアノブを回しそのままなだれ込むように家の中に入りました。反動でドアが閉まるその瞬間まで男の子から目をそらすことが出来ず、しばし玄関でへたり込んだまま閉まったドアを見つめていました。

少しの間、雨音しか聞こえない空間にようやく落ち着きを取り戻し室内の灯りを付けて、ゆっくりと音がならないように玄関のドアの鍵を閉めました。それから私は家中の電気をつけて周り、両親が寝ている部屋の前で座り込み、そこで夜が明ける残り数時間を過ごすことにしました。さすがに両親を起こして一緒に寝ることはあまりにも情けなくて出来ませんでしたが、あの外灯が見える2階の自分の部屋で1人で眠る勇気もありませんでした。

いくらか時間が過ぎてようやくうつらうつらとしてきたころ、目の前のドアがガチャッと開き、「あんた何してんの⁉」という母親の声でようやく心底安堵することができました。

やっと心細さから開放された私は恐怖を紛らわすかのように朝食の準備をする母親に絶え間なく話し掛けていました。

何気ない会話を繰り返したのち、私は数時間前に起こった出来事を話すことにしました。

「昨日の夜中にあそこの外灯の下に母親と男の子の親子っぽい二人が目の前の家をずっと見てたんだよね、めちゃくちゃ気味が悪かった。」

そう言うと母親は怪訝な表情で

「ほんとうに?うーん、でもねぇ…」

となにか考えこんでいました。

「なにか知ってるの?」

そう問いかけると母親は

「いや、あそこの家の奥さんはユウ君って子供と2人で蒸発したのよ、父親を残して。もしかして帰ってきたのかしら…。」

私はそれを聞いて安心しました。なんだそんなことかと、もちろんただ事ではないことは確かだけど少なくとも恐怖する対象じゃなかったことに。しかし次の母親の言葉で愕然としました。

「でもあの親子が蒸発してからもう10年くらいたつんだけどねぇ‥」

そして母親はさらに追い打ちをかけてきました。

「そうだ、アンタも小さい頃そのユウ君とよく遊んでたじゃない。」

その言葉を聞いて忘れていた記憶が微かに蘇りました。確かに自分はあの子とよく遊んでいた記憶があるのです。この近所の周りでかくれんぼしたり鬼ごっこしたりしていたことを。

私が昨夜見たあの男の子は10年前とそのままのユウ君でした。

今となっては真相はわかりませんが、あの時、ユウ君に声をかけられたとき、私はどうすれば良かったのか、20数年たった今でも答えはわかりません。

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