中編4
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生まれた少女

友人の元奥さんの話

元奥さんのAは、友達のBと一緒に高校を卒業してすぐ、この町へ引っ越してきた。

お互いまずはお金を貯めようと、同じアパートで同居をし、昼も夜もバイトに励んでいた。

それから数年がたち、Aには彼氏ができた。

そしてそれからまた数カ月後、その彼氏との同棲話が持ち上っていた。

Aは今まで共同生活で助け合ってきたBのことを考え、しばらく悩んでいたが

この頃にはお互い経済的に余裕も出来ており

Bも"私1人でも大丈夫だよ"と、快くAを送り出してくれたそうだ。

それからまたいくつかの月日は流れ、いつしかBと会うことも少なくなっていた。

しかしある時期から急に、Bから頻繁に連絡がくるようになった。

「彼氏ができても長続きしない」

「最近ダルくてなんにもやる気しない」

など、普段弱音を吐かないBが珍しく愚痴をこぼしてきた。

この頃Aは、Bと共に勤めていた夜の仕事を既に辞めていたが、Bはずっと続けていたそうだ。

Aは"もう夜のバイトは辞めたら?もう昼間の仕事一本でもやっていけるでしょ?"と投げ掛けてはみるものの、"どちらも責任ある立場になったからそんな簡単には辞められない"と聞く耳を持たなかった。

Aは心配に思いつつも、何も出来ずに日々の生活に追われていた。

ある夜

携帯に見覚えのある番号からの着信があった。

以前勤めていたバイト先だ。

「Aちゃん久しぶり、元気だった?」

元バイト先の先輩だ。

唐突の電話に戸惑い、曖昧に返事をしていると

「そうそう、Bちゃんなんだけど、今日はまだ出勤してないんだよね、電話も出ないし…Aちゃんなんか知らない?」

知らないです、と答えたが最近のBの連絡が頭をよぎる。

「そっかー、急にごめんね、もしBちゃんと連絡取れたらこっちにも連絡するように伝えてね」

そう言って電話は切れ、Aは立ち竦んだ。

Bはそうとう無理をしていたのかもしれない、もっと強く言っておけば良かった、そう悔やみ

とにかくBに連絡することにした。

プルルル…

プルルル…

プツ

「…もしもし、もしもしB?」

何も返事がない、ただ電話口の向こうから軽快なメロディが流れていた。

「もしもしB!どうしたの?なにかあったの!?」

やはり返事はない。ただこの聞こえてくるメロディ、あれは某テーマパークでBが買った目覚まし時計のアラーム音だ。

恐らくアパートにいる、動けないほど体調を悪くしているのかもしれない。

Aは着の身着のまま車を走らせBのアパートへと向かった。

アパートの前に車を停め、Bが居るであろう二階の部屋を見上げた。灯りはついていない。

階段を駆け上がりドアをノックする

ドンドンドン❗

「B!いるの!?」

ドアノブをガチャガチャと回してみるが当然のように鍵が掛かっている。

ふとドアに耳を当てる

あのメロディが微かに聴こえてきた。

再度声をかけ、ノックをするが応答がない。

しばらしてハッと思いつき、財布をあさる。そして見つけた、いつか返そう返そうと、そのままにしていたこの部屋の鍵だ。

カチャリと鍵をあけ、ドアを開くと

薄暗い部屋の中、ただあのメロディが鳴り響いていた。

先ほどまでの勢いはなく、恐る恐るドアを閉める。

今になって彼氏を連れて来なかったことを後悔した。

灯りをつけようとスイッチに手を掛けようしたその時

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「Aちゃん…」

奥からBの声がした。

急いでBのもとへ駆け寄ると

Bはベッドの上で縮こまっていた。

「B‼️大丈夫!?具合悪いの!?」

手のひらをBの額に当てるがよくわからない。

だがBは小さく小刻みに息を吐き、苦悶の表情を浮かべていた。

「こんなになるまでなにしてんの‼️」

そう言って再度灯りを着けようと立ち上った時

天井の角が視線に入った

そして、そこから目線を動かすことができなかった

そこには

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顔だけの、日本人形のような青白いおかっぱの少女が

切れ長の目でこちらに眼光を飛ばしていた。

そして赤く開いた口元は

今にも笑いだすかのように口角を上げていた。

叫ぶこともできず、一瞬固まっていたが

今も流れる不釣り合いなメロディが正気を保たせてくれた。

ここにいちゃいけない!

Bの肩を担ぎ、引きづるようにドアへと向かう

何度も振り向きたい衝動にかられる

でも振り向いた先に"あれ"がいたら、もう歩ける自信がない。

なんとかドアノブに手を掛けようと腕を伸ばす

すると自然にドアが開いた。

ギョッとして開いたドアの先に目を向けると

「A!Bちゃん!」

目の前には置いてきた彼氏が立っていた。

込み上げる気持ちをなんとか抑え

「Bをお願い!」

そう言って彼氏にBを背負わせ車へと急いだ。

車の後部座席にBを乗せ、ふと部屋の方を見上げると

開いているドアの隙間から

あの少女がこちらを見つめていた。

その視線の矛先は

明らかにBへと向けられていた。

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急いで車を出し、賑わう通りへとたどり着くと、張り詰めていた感情が一気に解放され、声を上げながら泣き続けた。

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BはしばらくAの住むマンションで養生していたが

"迷惑はかけられない"と

アパートを引き払い、全ての仕事を辞め、地元へと帰っていった。

養生中、それとなくあの時のことを聞いてはいたが、Bの口から何一つ語ることはなかった。

それからBは地元で就職し、最近では同級生の彼氏も出来たらしく、幸せな生活を送っているようだ。

…あの出来事はお互い禁句となっている

ただあれがなんなのか、なぜ現れたのか、Bはそれを知っているのではないか…そうAは疑念を抱きつつも

二度とあんなことに巻き込まれたくない

そう思い、再びあの出来事を振り返ることはなかった。

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