中編3
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時期外れではありますが、投稿させていただきます。

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夏休みが始まると、私はよく父に頼んで車を出してもらい、山奥へクワガタ捕りに出かけていた。

クワガタ捕りといっても、森の中に分け入ってクヌギの木から探したりするのではなく、深夜を過ぎた頃に山奥の街灯に集まってくるクワガタを捕まえにいくものだ。

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その日もいつものように、街から車で1時間ほどの山奥へ父と弟と私とでクワガタ採集に来ていた。

昼間のうだるような暑さは身を潜め、むわっとした湿気とほんの気持ちばかりのささやかな風が、湿気った森と土のにおいを運んでくる。

クワガタがよく出るポイントがあって、そこは山と山をつなぐ橋の上だったり、小さな川にかかった橋の上、とにかく何故だか橋の上の街灯に集まりやすいようだった。

ある川にかかった橋の上は、よくわからない大小様々で雑多な種類のガや、カ、ガガンボ、ガムシ 、オケラ、コガネムシ、バッタなどいろいろな種類の虫がそれはもう、気持ち悪いくらいに集まっている。

そんな虫たちをご馳走にしているカエルも、手すりや道路、街灯の柱などに張り付いている。

正直言って、車から降りるのがいやになるくらいの有様だ。

リーリーリーやらジジジジジと何かの鳴き声が聞こえるし、なんなら羽音もすごい。

だが、ここはカブトやミヤマ、ノコギリ、コクワ、アカアシがよく見つかるポイントだった。

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虫が首から入ってこないようにパーカーのフードをかぶり、懐中電灯と虫かごを持って車から降りる。弟は虫が苦手(実はクワガタも苦手)なため、車で留守番だ。ならなぜ来た?とは言わないでおく。

フード越しにガがぶつかってくる音が聞こえる。パーカーやジーンズにもガがとまる。鱗粉でパーカーに粉っぽい汚れが付いていた。きもちわるいが、クワガタにはかえられない、さっさと探そう。

そう思って目をぎらりと光らせあたりを見渡す。と、バシッとガが右手に直撃してきた。

うへぁっ!といいながら手をブン回す。

触ると手がかぶれるがもいる、気をつけなければ。

そうこうしているうちに、一本目の街灯の直ぐ下までたどり着いた。この橋には街灯が三本立っている。

やはり、よく出るポイントであるだけあってアカアシのメスがいた。ゴツゴツとした石にとまって、街灯へ今にも飛び立とうと薄い羽の膜を広げている。とっさに手をかざし、無事捕獲。1匹目はアカアシのメスとなった。

その後も順調にコクワ、ミヤマ、アカアシ、それとカブトのメスを捕まえられホクホクと橋を往復した。初めに気持ち悪がってたのはなんのやら、現金なやつであると自覚している。

しばらくし、満足したので車に戻った。

しっかりフードや肩、背中、足についた虫たちを払い落とし、車に虫が入らないよう細心の注意を払って乗り込む。戦果を見せようとカゴを持ち自慢げに話しかけると、弟の顔が青かった。

カゴはクワガタで一杯、しかも外は虫が多い。流石に今日はきつかったらしい。

それとなく急かされながら車を出してもらい、家へ帰宅。シャワーを浴びて就寝した。

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それから3年後。

帰り道、アカアシを拾ってテンションの高めだった私は、弟と話している時、ふとあの時のことを話題に出した。

すると、予想外のことを聞かされることになった。

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弟曰く、あの日山奥の橋のそばに車を止め、私たちがカブト狩りをしていた時。

どこからか、低い男の声で、でていけ、でていけ、と聞こえ続けていたらしい。

…背筋が凍った。

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