中編3
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夢で逢いましょう(5部)

流石に当日キャンセルは気が引けた。皆社会人だから、集まれる機会もそう多くないので尚更だ。

( どうやって乗り切るか…いっそ本人に覚えてないって正直に言うか? )私はT君に対してどう接するべきか、頭を抱えながら悩む。

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だが、何故か言うべきではない…と強く感じた。理由は解らない…しかし、私の勘は昔から悪い事にだけ鋭くなる節がある。だから【正直に言わない選択】をした…

この時にもう少し、自分の直感を…Tという存在を疑うべきだったのかもしれない…

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時間が経ち、片付けも料理の仕込みも大方済んだ頃、タイミング良く恋人が帰宅する。

『ただいま。準備任せっきりでごめんね。何から手伝えばイイ?』恋人は荷物を置くなり、準備に取り掛かろうとしてくれた。

「一旦休みwまだ時間に余裕あるから、ゆっくりで大丈夫やし。」慌てる恋人に一息入れる様に促す。

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恋人は頷いてソファーに座り、コップに注いだお茶を一気に流し込むと話し出した。『T君について思い出せた?』私に向けられた恋人の表情は珍しく曇っている。多分、心配してくれているのだろう…

「それが全く…色々あって本人にLINEしてんけど、サッパリやわ…」溜息混じりにそう伝えた。

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『あれから俺も考えてんけど、もしかして最後に会った時に何かあった?』恋人が尋ねる。

「……」私は何も言えずにいた。

『…まぁ、存在を覚えてないから何があったかも解らんよね…』恋人が苦笑する。

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『もしもの話だけどね、最後に会った時にトラウマになる位の事があったなら…自己防衛本能が機能して、忘れた事も説明がつくかなって思ってさ…』恋人はこちらの様子を伺いながら、ゆっくりと話す。

『ただ、T君がそんな原因になる様な事をする人じゃないって解ってるよ?でも他に理由になる事ってあるのかな…って思ってさ…』気まずい空気が部屋に蔓延る。

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私はどう答えるべきか解らず、ただただ黙っていた。

『でもさ、あれだけ仲良かったのに忘れるって普通じゃないでしょ?【私】はどれだけ覚えてるの?』恋人のやるせない気持ちが、言葉にのせられて伝わってくる…

「ちょっと面倒臭い事だけど、付き合って貰ってもイイかな…?」

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私は時間の許す限り恋人と、過去についての問答を交わした。

私とTがいつ何処で知り合ったのか、どういう経緯で恋人に紹介したのか…

話していく内に、複数人で遠方にドライブに行った話が出てきた。それは覚えている。だが、私の記憶にはTを含んでいない…

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恋人から沢山の情報を貰う事で徐々に理解してきた。私の記憶はT以外の事は人並みに把握出来ている。だが恋人の記憶には、所々に Tが居るのだ…

私は【Tが存在する過去】に強い違和感を覚えているが、恋人は平気らしい…何故こんなにも私の中からTという人物が抜け落ちているのだろうか?

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嫌な考えが再び私の肩を悪戯に叩く。

( 私から抜け落ちているんじゃなくて、無理矢理私以外の記憶に入り込んでる可能性は…? )

そこに至った決定的な理由などない。だが、それしか私は思いつかなかった…

その考え方のほうが腑に落ちる…

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しかし、そんな非現実的な事が可能なのだろうか?出来たとして何か、誰かに利益を生む行為なのか?全く無意味な事でしかない様に思えた。

( こんな事を他人に話せば、漫画の読み過ぎと馬鹿にされる事確実だな。 )と呆れる…世界は私を中心に回っている訳ではない。

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でも、だからこそ謎でしかない。

Tは本当に存在してきた人間なのだろうか…?

話せば話す程、Tという存在が解からなくなってゆく。

そして、私とTの関係はどんなだったのだろうか…?

…それは恋人に話せる関係だったのか?

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私の悪い癖がTとの関係に及んでない事を、ただただ願う…

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