中編5
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夢で逢いましょう(9部)

まだ身体が熱い。私はTを警戒し、コタツに脚は入れずにいた。冬の室内は暖房を入れていてもヒンヤリとした冷気を帯びている。なのに身体は火照っていた…

Tはというと一旦満足したようで、あれ以降何もしてこない。

その間、私は自身が反応した事を否定しようと葛藤していた。だが…私が焦燥すればするほど思い知らされるのだ。肉体がTに気を許した事を…

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( 兎に角、今は忘れよう… )いつもの悪い癖が出る。私はグラスに半分程残った洋酒を、一気に呑み干す。それを見たTが、〖そんなペースで呑んでたら、後で楽しめないんとちゃう?w〗と目じりを下げながら言う。

私は無視した。すると〖そっか、【酔ってたから不可抗力です~】って言い訳にしたいん? 相変わらずあざといよな~〗ケタケタ笑いをしながらTがこれ見よがしに放つ。私は口に含んだ酒を噴き出しそうになった。

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「そんなつもりちゃうしっ!」苛立ちが私の口調を強める。しかし、図星なのかもしれない…私は自分を見失っていた。だから心の底から、Tの言葉を切り捨てる事が出来ずにいたのだ…

〖イイよ、イイよ。俺が責任持って介抱したげるから、いっぱい呑みwww〗グラスを片手にTが高笑いする。

( ホンマこいつ何なん… )焦慮に駆られ、不貞腐れる事しか私には出来ない…

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上機嫌のTが続けて何か言おうと口を開いた。それと同時に脱衣所の扉の開く音がする。するとTは黙り込み、恋人が戻って来るのを待っていた。

『お先です。お2人は明日の朝の方がイイかな?俺先に寝るんで、一旦布団敷きましょうか。』戻ってきた恋人が頭をバスタオルで拭きながら話し掛ける。

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〖気遣わせて悪いな。ほな、手伝うわ。【私】は隅っこに寄って呑んどきw〗先程、呑み切った私のグラスを酒で満たし、Tが手渡す。

そしてシッシッと、追い払う様な手つきで私を端に行くように指示した。

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立ち上がった際に視界の片隅に映り込んだ。Tのニヤりと嗤っている顔が…

認識するなり、私の身体が疼く。私はいつの間にか【パブロフの犬】になっていた。それはTに躾けられた様に感じ、悍ましさが芽生える…

( 元々のTと私の関係って…私、Tと何してたんやろ… )そう考えると鳥肌が全身に湧き出た。

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( 私は恋人を裏切った事はない。私の意識が行き渡っている中では…せやけど、この状況を踏まえると裏切っていたんか?いや、そんなはずは…ない…よね…? )

私は自信を失くしている。だから、悲しくも自分を信じれない。部屋の隅に腰を下ろし、布団を敷く2人を見つめながら私は自己嫌悪に酔いしれていた。

ゆっくりと深呼吸をして、冷静になれる様に努める。息を吐き出す流れでTを凝視した。

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( 外見は好みのタイプ。顔も体型も…多分普通に話せば会話も楽しい人なんやろう。それに強引なトコも嫌いじゃない…男性的で性的魅力も醸し出している感じ…そんなとこに惹かれたんか…?

それに対して恋人はどうやろ?外見は好みとまでは言えない…やけど、中身が凄く好き。価値観を共有出来るから居心地が良い。他にも好きなトコはいっぱいある。

でも、男性としての魅力は… )

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2人を並べて比較してみると何から何まで正反対のように思えてきた。元々、好みの男性像が存在しない私だが、ここまで真逆だと不思議になってくる。

この2人の共通点は…模索した。とにかく考えた。結果、導き出された答えは【どういう意味であれ、私に対して好意を向けてきている】だった…

それくらいしか思いつかない。

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普段あまり使わない頭をめいいっぱい使ったものだから、私の眉間に深いシワが寄る。すると〖え?何でそんな怖い顔してこっち睨んでるん?w〗と、気づいたTが茶化す。

「うっさい。そんなんどうでもエエからはよ布団引きいな。」恋人の前ではキツい方言は使わない様にしていた。だが自分のペースを崩された事と、酒が入っている事により自然と引き出される。〖こわ~w〗Tがワザとらしく笑う。

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〖【恋人】君、よぉあんな気ー強いんとおれるな~w 君やったらもっと優しい女の子、幾らでもついて来るやろにwww〗Tが恋人を巻き込む。『そんな事ないですよw それに、【私】も女の人らしいトコもあるんでw』と恋人が庇ってくれた。〖ふ~ん、そうなんや…想像つかんけどね…w〗視線をこちらに流しTが意味深に嗤った…

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私はTの艶めいた表情に弱い。慌てて目を背けた。そしてまた自分の世界に逃げ込む。

( 夢に出てきた【彼】と酷似するT…【彼】がTの姿を借りてたんか? それとも、Tが生き霊みたいな感じで夢に出てきた…?でも引っかかるんが、声が違うんよな…近いんだけど、どこか違う…トーン…? )

僅かな自尊心を保つ為に、私は自問自答を繰り返す。そして【夢の彼】の事を今更だが、思い悩む。

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( 声以外はだいたい同じはず…顔の全体が見れてないから100%じゃないけど、肌の感触とか触り方…それにあの口元…そこは全部一致する… )と【彼】が私を魅する口元が脳裏に浮かんだ途端、やはり身体が反応を示す。そしてすぐに押し寄せる罪悪感と惨めさ…

( 私の身体、どないしてもうたんやろ…ホンマ情けない… )自分が女としての醜態を晒す事に虫唾が走る。

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グラスを片手に項垂れていると、何も知らない恋人が肩を叩く。私は驚いて顔を上げた。『布団、敷き終わったよ。俺いつも通りベッドで寝かせて貰うけど、本当に大丈夫…?』

恋人の言葉が胸を締め付ける。正直、大丈夫ではない。しかし、それを言おうとするが、もう一人の自分にねじ伏せられた。【もう一人の私】…ソイツはTと、これから起こるであろう事を待望している。ソイツに逆らわなくては危険だ。解かっている…

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だが私の口はソイツに負け、偽りの言葉を垂れ流した。「大丈夫やから、ゆっくり休み?明日も仕事やねんから、こっちで寝たら疲れ取れへんやろ。」私はその言葉を放った時、どんな表情をしていたのか解からない…

しかし、物心ついた頃からの付き合いである自分の事だ。至って普通の笑顔を作って恋人に向けていたのだろう…悪い癖だ…辞めたいのに辞めれない。

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そして今、そんな自分と決別しない事にはこれからずっと…私は恋人にこの笑顔を向けなくてはいけなくなるのだろう…そこまで把握している。なのにもどかしくも、言葉に出来ない…唇が微かに震えた。せめて恋人の手を掴むだけでも、この子は察知してくれるだろう。それ程に勘の良い子だから…

しかし、私の体は動かなかった。隣の部屋に恋人を見送るまで、私は【笑顔という仮面】を被り続けた…

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もうこの仮面は脱ぐ事を許されない…私が恋人と寄り添い続けたいと願う内は永遠に…仮面に【義務】という枷がついて私に絡みつく。

その仮面越しに視線を動かすと、万遍の笑みを浮かべたTが待ち構えて居た…

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今夜は人生で3度目の永い夜になりそうだ…

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