「おっちー」シリーズ外伝 その2 Y君との別れ

長編23
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「おっちー」シリーズ外伝 その2 Y君との別れ

Y君、安らかに眠ってくれ・・・

永遠に俺たちは友達だよ

短い付き合いだったけど・・・

決して君のことを忘れない

さて・・・たしかあれは私が小五の5月の連休だったかな・・・

隣の県にある神社の撮影をしようと4月の終わりころに学校でS君と相談していた

S君は地図を見て

「ここへ行ってみたいな」と私に話しかけてきた

距離的にそんなに遠くないしいいように思えた

「いい感じでいいと思う、ゴールデンウィークの初日に行ってみようよ」

「いいね!!距離的には1時間ほどだな・・・朝6時ごろに出発すれば朝の風景が撮れそうだ」

「だな・・フィルムをあと3つほど買ってこよう・・・」

「俺もあと3個くらい買ってくるよ」

などと話していると突然Y君という転校生が割り込んできた

「お!どこ行くのさ?」

「いや・・・その・・・」

「あのさ・・・俺も行きたいんだな・・・」

「え・・・でも・・」

「俺もさ、趣味のカメラであちこち撮影してるんだよ

俺んちは旅芸人一座だから日本中、旅してるんだよ

だから、俺さ、なかなか友達ができないんだよな

お友達ができてもすぐにほかの土地へ行くんでなかなか長く付き合える友達がいないんだ・・・

ここも夏休みまでしかいられないんだよ

だから短い間でもいろいろな思い出を作りたいと思ってあちこち撮影してるんだ」

「そっか!!同じ趣味じゃん

俺たちも休みになるとあちこち行って撮影してるよ

あのさ、暇ならついて来いよ」

「やったーー、ついていくさ」

「一応な、ゴールデンウィークの初日に予定してるんだよ」

「初日だな、OKOK」

「あとは放課後、俺ん家で打ち合わせしようぜ」

授業が終わって私たち3人はそのままS君の家へ行った

Y君は新学期に転校生としてやってきた

性格はS君とよく似ていた

ハキハキとしてなかなかのイケメン

将来は役者になれるんじゃないかと思うくらい顔が整っていた

F子とほぼ同じくらいの顔レベル

S君の家へ着くと妹たちが玄関先でおしゃべりをしていた

「おっちーーー、お兄ちゃんたち!お帰り!!テーブルにおやつがあるよ」

「おう!!S子!F子来てたのか!」

「うん・・Sお兄ちゃん・・・」

「相変わらず、声が小さいな・・・まぁいいや」

「うん・・・」

「おっちーー!!あれ?誰なの?」

「お!転校生のY君だよ」

「よぉ!〇〇(Y君)と言うんだ、よろしくな!」

「おっちーー、よろしく!!」

「よろしく・・・」

F子が小さな声で挨拶をした

「声が小さいなぁ・・・返事は大きい声で言わないとな」

「うん・・・」

「あちゃちゃ・・・」

「おっちーー、この子はいつも声が小さいんだよ」

「そっか!」

もうすぐに溶け込んでしまったY君

妹たちも威勢のいいY君に好意を持ったようだ

私たちはおやつを食べながら撮影旅行の準備の話をした

「Y君、俺たちは主に神社や寺や遺跡などの撮影してるんだよ

普通の場所での撮影じゃないんで、大丈夫かな?」

「え・・・また地味な場所だな・・・遊園地とか有名観光地とかじゃないんだな・・・

そっかぁ・・・」

「まぁ・・・地味といえば地味だな・・・確かにな・・・でもな、そういう場所はなんというか落ち着くんだよな、だから撮影の場所にしてるんだよ」

「いや・・・あのさ・・俺はどの場所でもいいんだよ

要は「思い出」を作りたいのさ

学校でも話だけど俺んちは旅芸人だからいつも同じ場所にいられるわけじゃないんだ

ここも夏休み前にほかの場所へ行くことになってるし・・・

場所は特にこだわってないよ」

「夏休み前に・・・せっかく同じ趣味だからこれからも一緒に行きたいと思ってたけど・・残念・・・」

「まぁ・・毎度のことだからさ・・・」

「おっちーーー、お兄ちゃんたちまたどこかへ撮影しに行くんだ、私たちも行きたいんだぞ」

「そうよ!S子!おまえらもついて来い、ちょっと遠いぞ!」

「行く!行くんだぞ、ね!F子ちゃん」

「うん・・・私も行くよ・・・S子お姉ちゃん」

「F子は俺の後ろに乗ればいいさ、F子に合わせてたら時間かかるからな」

「うん、Fお兄ちゃん」

「お!S子ちゃん、F子ちゃんと言うんだな、こんな小さな妹たちを連れて行くんだ」

「そうだよ、俺たち4人はいつも一緒だよ

妹たちといると落ち着くんだよ、Y君」

「へぇーーそんなもんかな・・・俺、兄弟いないからわからないけどな」

「一人っ子かぁ・・・」

などと話が弾みもう夕食の時間になってしまった

「お、いけね!俺、帰るわ!」

「ちょ!ちょいまち、夕食を食べて行けよ」

「え!でも・・もうそろそろ帰らないと・・・」

するとS子ママが

「いいじゃないの、ここで夕食を食べていきなさい

あとで私がY君の家族に電話で断っておくからね」

「でも・・・おばさん・・迷惑じゃないの?」

「何言ってるの!子供が遠慮してたらダメ」

「はい!夕食を食べます!!」

S子ママもどうやらY君を気に入ったようだ

S子ママがヒソヒソ声で

「あの子、F子ちゃんタイプで顔がきれいよね

将来きっと女子にモテモテになるわよ」

「たしかに・・・」

Y君はF子の横に座った

何気なしかF子の頬が赤くなったような気がした

夕食時、例のごとくS君兄妹の漫才で大いに盛り上がった

Y君も大笑いしていた

「おもしろいなぁ・・久しぶりに大笑いしたよ

あ!!そうだ、今度、うちの一座で前座をしてほしいな、絶対に受けると思うよ」

「冗談はやめてくれーーー、人前に出るのは無理だよ」

「おっちーー、私はしてみたいんだぞ、お兄ちゃん、一緒にやってみようよ」

「おいおい、やめてくれ、うちの家族の恥さらしを世間にまき散らすようなもんだよ」

「S子!!!お兄ちゃんの言う通り!我が家の恥さらしですよ!!ましてや

大事なお仕事の邪魔をしてはダメ、もし受けなかったら大変なことになるんですよ」

「おっちーー、分かったんだぞ、ママ・・・」

「ほんと、ありがとな、久しぶりに笑ったしご飯もおいしかったよ

明日また学校で会おうぜ!!」

夕食が終わりY君は帰っていった

「いい奴だよな、ハキハキして友達にしたいよな、F!」

「もちろんさ、趣味合うし話も合う」

「おっちーー、わたしもYお兄ちゃん、すごくいいとおもう」

「お兄ちゃんたち・・・わたし・・そのぉ・・・」

「なんだよ!F子!どうした?」

「そのぉ・・・あの人・・・あんまし・・・」

F子の第6感が働いたようだ

私の妹は霊感が強いのかたまに摩訶不思議なことを言い出す

でもこの第6感で私たちは助かってきたのも事実

F子の予感は絶対に当たる

今回も何かを感じたようだ

「なに、どうした?F子」

「おっちーー。気になるんだぞ」

「うん・・あのYお兄ちゃんの後ろになにか黒い影が見えたよ

なにか不気味な影・・・その影がなんとなく顔が薄笑いをしてる感じがしたの

気になってしかたないよ、お兄ちゃんたち」

「なに・・・黒い影・・・F子の第6感が働いたか・・・こりゃ何か起きそうだな、F!!」

「だよな・・何か起きるんだろう・・・F子、何か起きるか分かるか?」

「そこまではわからない・・けど・・・なにか大事なものが消えていくような気がするよ」

「大事なもの?なんだそれ・・・もっと具体的にわからない?」

「うん・・わからないよ」

一体何が起きるのだろう

4月も単調な生活で終わり5月の連休に入った

朝5時ごろに私の家にY君が来た

「お!おはよっ!」

「おはよ!Y君早いね!!」

「うん、もうね、興奮して夜も寝れなかったよ

久しぶりに大勢で外出するからね

いつもは一人であちこち撮影してたからさ」

「そうなんだ、一人だと寂しいけど自由がきくからね」

「まぁね、時間や人に縛られずに自由に動けるけれどね」

「お・・・おはよ・・」

「お!F子ちゃん、おはよ、いつもかわいいよね、今日はちょっと遠くへ行くみたい

怖くないかい?」

「うん、お兄ちゃんたちがいるから怖くないよ

いつもお兄ちゃんたちが守ってくれてるから

今日はFお兄ちゃんの自転車の後ろに乗るんだよ」

「お!そっか、落ちないようにちゃんとつかまってるんだぞ」

「うん!遠くへ行くときはいつも後ろに乗せてもらってるから平気だよ」

「慣れてるんだ、良かった」

などと少し立ち話をした

「さて・・と、S君の家へ行こう」

「そうだね、行こう」

「F子、ほら後ろに乗れよ」

「うん、お兄ちゃん」

F子を後ろに乗せていざS君の家へ

まだ少し暗めの道をゆっくりと走った

朝は少しひんやりしてたな

もうすぐS君の家だ

「う・・・なんだ・・・いつもよりこの自転車重いな・・・気のせいかな・・」

「どうした?Y君!」

「いや・・あのさ・・君の家から出たときにいきなり自転車が重くなったような気がしたんだよ、なんか・・・後ろに人を乗せた感じ・・・気のせいかな・・・」

「え?・・・うしろ?いや・・・誰も乗ってないけどな・・・」

「だろ、誰もいないよな・・・でもなんか重いんだよ、ペダルが重い・・・」

「ちょっと待って、一度降りようよ」

S君の家から300メートルほどで自転車から降りた

「別にバンクしてるわけじゃないよな・・・空気もちゃんと入ってるし・・・」

「だろう!昨日の夜にちゃんと点検したんだよ」

「ちょっと自転車に乗っていい?」

「うん、いいよ」

私はY君の自転車に乗ってみた

別に重いという感じはなかった

「重いという感じはないけどな・・・Y君、F子を後ろに乗せて俺の自転車に乗ってみなよ」

Y君はF子を後ろに乗せて私の自転車を少し走らせた

「う・・・ん、これだ!この感触!後ろに人を乗せた感じだよ」

「え!・・・でも俺はそう感じなかったけれどな」

「そっか・・・気のせいかな・・・」

「とりあえずもう少しでS君の家だから、S君の家へ行こう」

「おっ!ごめんな、行こうか」

再びS君の家へ走り出した

「お兄ちゃん・・・気のせいじゃないと思うよ・・・後ろにもしかしたら黒い影が乗ったのかも」と小さな声でF子がつぶやいた

「え・・・やはりな・・俺もそう思ったよ・・・明らかにY君の背中に憑いているんじゃないかな・・・」

「うん・・・そのとおりだよ、お兄ちゃん・・・」

「でも・・・どうしようもないよ、このままY君の行動に気を付けような」

「うん・・・」

Y子の言う通りに黒い影がY君の背中にしがみついているのかも

「おっし、着いたぜ」

S君の家に着いた

私は玄関のチャイムを鳴らした

S君とS子が出てきた

「おっす!おはよ」

「おっちーー、F子ちゃんおはよ!!、わっ!Y君も一緒だ!!」

「おはよ・・S子お姉ちゃん、Sお兄ちゃん」

いつもながらF子は小さな声で返事をした

「F子、声が小さいぞ!!」

「うん・・・Sお兄ちゃん・・えへへへ」

(今じゃF子の方が声もでかいし態度もでかくなってる・・・S君・・・もう完全にF子の言いなりになってしまってるよ)

S子ママが出てきた

「みんな、朝早いね、これおにぎりだよ、みんなの分をつくっておいたからね

途中の休憩時間に食べるといいよ」

S子ママが全員の分のおにぎりを作ってくれていた

「ありがとう!!おばさん!!」

「ありがと・・おばさま・・・」とF子も小さな声でお礼を言った

「あら!!F子ちゃん、かわいい服を着てるのね

うちのS子にもこういうかわいい服を買ってあげないとね

F子ちゃん、お兄ちゃんたちの言うことをちゃんと守るんだよ

危ないことはしちゃだめだよ」

「うん!!わかった」と小さな声で返事をした

「おっちーーー、かわいい服を買ってくれるの?ママ!!」

「そうするつもりだけど・・・でもちゃんとお手伝いをしてからね」

「え・・・お手伝い・・・おっちーー・・・わかったんだぞ」

全員大笑いをした

お手伝い・・・せめて料理を教えてほしかったな・・・

「さてと、そろそろ出発しようぜ!!」

「おう!!」

S君の合図で自転車を漕ぎだした

5月はまだ少し肌寒かった

やっと少し空が明るくなってきた

休みなのか車の往来は少なかった

およそ30分ほどして小さな公園を見つけた

「おっし!ここで少し休憩しようぜ」

「おばさんが作ってくれたおにぎりここで食べようよ」

「おっちーー、そうしようそうしよう!!」

ここで少し休憩タイムにした

トイレ付の小さな公園

朝早いから周囲には誰もいない

「お茶とおにぎり!相性抜群だよな!!」

「おっちーーーお兄ちゃんたち、おやつも持ってきたよ、食べようよ」

「おおお、気が利くね!S子!!えらい!!」

「S子おねえちゃん!!ありがと」

「F子ちゃんもたくさん食べるんだぞ」

「うん!!」

S子が持ってきたお菓子をみんなで食べた

もう完全にピクニックだな

S君が公園を写し出した

Y君もカメラを持ってあちこち撮影していた

「すこしここでテスト撮影だな」

「でも・・・あんまし写すとフィルムあっという間に無くなるよ」

「そうだよな・・・」

これがフィルムカメラの悪いところ

夢中で写していくとあっという間にフィルムが無くなる

「ああ・・・無尽蔵にフィルムがあればな・・・」

「だよね・・・」

(無尽蔵ではないが将来ほぼ無尽蔵に撮れるカメラが出てくるぞ!!しばし待て!!)

「え?なに?誰?」

「どうしたF君!!」

「いや・・空耳かな・・・「無尽蔵に撮れるカメラが・・・」と聞こえたような気がした」

「へ?無尽蔵?なにそれ?そんなもん作れるもんか!!24枚撮りが50枚撮りになるのか?値段も2倍になるじゃん!!いらねーよそんなもん」

「それは困る・・・ただでさえお小遣い少ないのに・・・」

「だろ!24枚って十分だよ」

などと話し込んでるうちに30分もたってしまった

「おっし!ここで集合写真撮るぞ!!」

S君はカメラのタイマーを使って集合写真を撮った

「イェイ!!」

「ハイ!ポーズ!」

「どうだ!!」

「おっちーー、かわいく写るんだぞ!!」

「わたしも・・・」

5人がそれぞれのポーズをとった

「うまく撮れてればいいけどな!!」

「ピンぼけしてたりして!!」

「おっちーー、お兄ちゃんの腕だとありえるんだぞ」

「おい!!S子!!!」

「えへへへ!!」

これが・・・Y君の最後の笑顔の写真になるとは・・・・

人の運命とはわからないものだ

「だいぶ休憩しちゃったよ、そろそろ行こう」

「うん」

目的地までまだ半分はある

おしゃべりをしながら私たちは目的地まで走った

ようやく目的地までついた

もう朝の7時過ぎになってしまった

S子のペースで走っていたのでだいぶ遅くなってしまった

神社の近くの空き地に自転車を置いた

周囲には誰もいなかった

鳥のさえずりが聞こえていた

S君、大はしゃぎでパシャパシャと撮りまくっていた

Y君も負けじとS君と競い合うように撮っていた

空は快晴

絶好のカメラ日和

妹たちは私たちを見ながらおしゃべりをしていた

私たちは無我夢中でシャッターを押しまくっていた

気づいた時にはもうお昼

「おお!ここ!この角度ならいい感じ!!」

「狛犬の表情がたまらんわ」

「本当にいいロケ地だよ」

もうお祭り騒ぎだ

「もうそろそろお昼だな・・・・」

「え!もうそんな時間かぁ・・・」

「もうそろそろお昼にしようぜ!!」

妹たちを呼んで昼食にした

サンドウィッチやおにぎり・弁当など各自それぞれが持ってきたものを食べた

「おいしい!!青空の元、静かな空間!!サイコーー!!」

「だよな・・・ホント、静か・・・これが神社のいい所だよな」

「そうそう!やはり聖域だよな、この静寂さがいい!!」

「おっちーー!!おやつもあるんだぞ、お兄ちゃんたちも食べるんだぞ!!」

「本当に君ら4人は仲がいいよね、まるで本当の4兄妹みたいだ

俺は一人っ子だからよくわからないけど・・・兄弟がいたらなぁと今そう思ったよ」

「Y君!!俺らもそうおもうよ、俺らって他人じゃなく兄妹じゃないかと思う時がある

なんというか・・・空気・・いや・・・わからんけど・・・」

「S君の言う通り!俺たち4人は間違いなく前世は4兄妹だったに違いない

そう感じるんだよ、Y君!!」

「俺も肌から見てそう感じたよ、あんたら間違いなく前世では兄妹だ、うらやましい」

「おっちーー!!それが本当ならすごい!!F子ちゃんが妹なのかな?私が妹だったのかな?」

「うん・・・よくわかんない・・・でも私はお兄ちゃんたちがいつもそばにいてくれるからうれしいよ」

などとおしゃべりをしながらのランチは一層おいしく感じだ

「あ・・・あかんわ・・・夢中で写してたらもうフィルムすべて使っちゃったよ・・・」

「俺もだ、S君」

「俺も・・・・もうフィルムがない・・・」

帰るまでには時間があったので5人で鬼ごっこやかくれんぼをした

本当に今日は最高の一日だ

おチビのF子がやはり「鬼」になるね

どうしても足が遅い

夢中で遊んでいたので時間がたつのが早かった

「ううう・・・・イタァ!!!」

突然、Y君が体を丸めてしゃがみこんでしまった

「大丈夫?Y君」

「イタタタ・・・なんか急に背中に痛みを感じたんだよ、こんなのはじめて・・・」

「背中に?何か持病でもあるの?」

「全然、持病なんかひとつもないよ、ここに引っ越してからたびたび背中が痛くなったことがあったけどね。しばらくすると痛みが消えるんだよ」

「そっか・・・しばらく休憩しよう」

おそらく激しく動いたから背中が痛くなったんだと思っていた

だが・・・実は・・・・

「お兄ちゃん・・・Yお兄ちゃんの背中に黒い影がまとわりついているのが見えたよ」と

F子が私に小さな声で話しかけてきた

「F子、ホントか?」

「うん・・・今も背中についてるよ・・・」

F子には見えてるらしいのだが私は全然見えない

「そっか・・・その黒い影が背中の痛みの原因なのかな・・・」

「うん、お兄ちゃんの言う通りだよ、その黒い影が憑いてるから背中が痛いんだと思う」

「しかし・・・どうしようもないよな・・・」

「うん・・・」

「イタタタ・・・・」

「大丈夫かい!!!Y君!!」

「いや・・・息ができない・・・イテェーー!!!」

「おっちーー、どうしよう、どうしよう!!!」

「落ち着けよ!!S子!!!」

「でもさ・・・」

しばらくうずくまっていたが・・・

「あれ???背中の痛みが消えたぞ!!!え???」

なんと!あれほど痛くてうずくまっていたのに急に立ち上がって周りをキョロキョロと見まわしていた

「あれ???・・・ここはどこ?」

「ええ?ここって・・・Y君今まで背中が痛くてうずくまってたんだよ」

「うそぉーー、記憶がないぞ・・・そっか・・・しばらく痛みで意識が飛んでいたのかな・・・」

「え?意識が飛んだって・・・マジで大丈夫なのかい?」

「あーーもちろん大丈夫さ!!!」

信じられない、あれほど「イタイーー」と叫んでいたのに・・・

「お兄ちゃん・・・今もYお兄ちゃんの背中に黒い影が憑いてる・・」とF子が小さな声でつぶやいた

「まだ憑いているのか・・・でも本人はもう痛くないと言ってるよ」

「うん・・・今はね・・・」

だいぶ空が暗くなってきた

公園の時計を見た

もう夕方の6時になっていた

「いけねーーー、おいおい、もう6時過ぎてるじゃん、やばいぜ、みんな帰ろう」

「おっちーーー、いつの間に時間が過ぎたんだろ・・・早く帰ろうよ、お兄ちゃんたち」

「そうだな・・またお説教される!!!」

不思議だ・・・あのY君の痛みが消えてからそんなに時間はたっていないはずだ

背中の痛みが始まったのが15時過ぎだ

30分ほどY君はうずくまっていた

それからしばらくおしゃべりをしていただけだ

私たちは慌てて帰路についた

「おっちーー、お兄ちゃんたち、早いよ!!!私、追いつけないんだぞ」

「ああ・・・S子がいたんだ・・・ベースダウン!!!」

「あ、ごめんな、S子!!」

私たちはS子のベースで家に急いだ

やはり1時間半ほどかかってしまった

もう周りは真っ暗になっていた

「あちゃちゃ・・・もう夜になっちゃったよ・・・あともう少しだ」

「うん・・・おっちーー、わたしのせいでお兄ちゃんたちごめんね」

「気にすんなよ!S子!!!」

やっとS君の家に着いた

S子ママが心配そうな顔をして出てきた

「遅かったね・・・心配してたのよ、あんたたち!!今からF君の家に電話するからね

さぁ、上がって、夕食の時間にしましょうね」

私たちはS子ママの言うとおりに席に着いた

S君パパは新聞を読んでいた、別に怒ってるような顔でもなかった

「おっちーー、パパ、遅くなっちゃったよ、ごめんね」

「確かに遅かったね、でもお兄ちゃんたちが付いてるから私は心配はしてなかったよ、S子」

「うん・・・」

夕食時に昼間に起こったことを話をした

「そっかぁ・・・不思議な体験をしたね、Y君、今は背中の痛みはないのかい?」とS君パパはY君に質問をした

「はい!今は痛みはないです!帰りが遅くなったのは僕のせいです、ほんとうにすいませんでした」とY君はS君両親に頭を下げて謝っていた

「いやいや・・Y君、謝る必要はないよ、もしよかったら今夜はここで泊っていってもいいんだよ」

「いえ・・ありがとうございます・・・でも僕は帰ります・・明日は公演のお手伝いをしなくちゃいけないんです、すいません」

「そっか・・偉いよな・・家のお手伝いをしているのか・・・気を付けて帰るんだよ」

「はい、今日はいろいろとありがとうございました、僕はこれで帰ります」

Y君はお礼を言って帰っていった

「本当に礼儀正しい子だよ、S!!、少しは見習ったらどうだ!!」

とS君パパがS君にむかって激を飛ばした

「あははは!!俺だって礼儀正しい子だよ、パパ」

「どこがだよ、おまえ、この前、隣の家に置いてあった植木鉢をさわって落として壊しただろ、ママが謝ってきたんだぞ」

「ああ!!!ばれてたか・・・あははは!!!」

「おっちーー、お兄ちゃんらしいんだぞ・・・恥ずかしいんだぞ」

「うるせーー、S子!!」

「おっちーー、どこが礼儀正しいんだろうね、F子ちゃん!!」

「うん・・・」と小さな声でF子は返事をした

全員大爆笑になった

私とF子はS君の家に泊まることにした

別に家は遠い距離じゃないけどS子ママが泊っていけばいいと言ってくれた

S子パパはF子にやさしい言葉をかけていた

S子も喜んでいた

しばらくリビングにいたがS君の部屋でおしゃべりをした

「今日は絶好のカメラ日和だったよな」

「うん!!もう夢中でシャッターを押しまくったよ」

「おっちーー、お兄ちゃんたち、あちこちチョロチョロと動きまくってたもんね」

「鬼ごっこやかくれんぼも面白かったな」

などと昼間の回想録を話し込んでいた

「ところでな・・・S君、Y君のことだけどな・・・」

「お?なんだ?」

「あのさ・・・昼間言いにくかったんだけどな・・・」

「なに?Y君がどうした?」

「Y君、背中痛くてうずくまってたよな」

「うん、それがどうしたんだよ?」

「あれな・・・背中の痛みの原因はY君の背中に黒い影が憑いていたんだよ」

「はぁ?黒い影、今さっきF子が話してたよな・・・」

「俺も半信半疑だけど、F子がはっきりと「背中に黒い影が憑いてる」と俺に話してくれたんだよ、そうだよなF子」

「うん、お兄ちゃん・・・私ははっきりと見えたんだよ、背中に黒い影が憑いていたんだよ・・・怖かったよ」

「まじかよ・・・Y君大丈夫かな・・・」

「心配だよな・・・」

それが現実となってしまった・・・・

「さて・・・そろそろ寝ようぜ!!」

「今日はなんかよく動いたからよく寝れそうだよ」

「おっちーー、私たちは部屋に戻るね、F子ちゃん行こう、お休み、兄ちゃんたち」

S子はF子を連れて自分の部屋へ行ってしまった

「マジで眠くなってきた・・・明日は散歩しながら写真を撮るかな」

「いいね!!明日も天気予報だと快晴だってさ、俺もついていくよ」

S子ママが布団一式を持ってきてくれた

「あらあら・・・まだ起きてたの?ここに布団を敷いておくからね

F君、ここで寝てね」

「はい、おばさん、ありがとう!!」

「あとはおチビちゃんたちだね・・・まぁあの2人は小さいから一緒に寝てもらいましょう」と隣のS子の部屋へ行ってしまった

「ううう、眠い、先に寝るよ、お休みF!!!」

「おう、俺も眠るよ」

もう夜の11時は過ぎていた

隣からはS子とF子のおしゃべりが聞こえていた

時折車の通る音がするだけだ

いつの間にか隣から話す声が聞こえなくなった

妹たちはもう寝たんだろう

私はウトウトしていた

布団の中に潜ればすぐに眠れるだろうと思っていた

階段をのぼってくる足音が聞こえた

S君パパかS君ママが上がってきたんだろうと思っていた

何か用事でもあるんだろうと思ってしばらく様子を見た

ところが足音はちょうど部屋の入口あたりで止まった

「F君、起きてる?」

もしかして・・・Y君?

なんで今頃ここにいるんだよ

「F君、起きてる?」

たしかにY君の声だ

「今日は本当に楽しかったよ

ありがとな

鬼ごっこやかくれんぼ、写真撮りなど久しぶりに大勢でワイワイと騒いだよ

でも・・・もう僕は旅立たないと・・・

せっかくお友達になれたのに残念・・・・

君たち4人に出会えて本当に良かった

短い間だったけど本当にありがとな・・・・

もうそろそろ・・・いかなく・・・」

え?何今の?

旅立つって何のことだ?

もう引越しをするのか・・・夏休みになってからだろ・・・

私はハッと思い飛び起きた

部屋の電気を点けた

恐る恐るドアを開けた

廊下には誰もいなかった

え?誰もいない・・・嘘だろ・・・

たしかにY君の声だった

私は目が点になっていた

「おい・・・F・・・いまさっきの声はおまえかよ」

「え??S君にも聞こえたのか・・・いや・・・俺じゃないよ

Y君が家に来たみたいだよ・・・Y君の声だったよ

でも廊下には誰もいないよ」

「うそだろ・・・俺もはっきりと聞こえたぞ」

すると・・・下のほうで電話が鳴り響いた

私たちはびっくりして飛び上がってしまった

S子ママが対応した

S君ママの声が段々と震える声に変っていった

いや悲痛な声

受話器を置いてあわてて階段をのぼってきた

「あんたたち、起きて、大変なことになったよ

Y君が・・・Y君が・・・・」

もう声にならないくらいパニックになっていた

「落ち着いて、ママ、どうしたの?Y君がどうしたのさ」

「今さっきY君のお母さんから電話があって

Y君、交通事故にあったらしいのよ

それで・・・病院に運ばれて・・・・」

S子ママは声を詰まらせて目から涙が出ていた

「どうしたの?ママ、大丈夫?」

「お医者さんが懸命な処置をしたんだけど・・・」

さらにS子ママは目から涙を流していた

「Y君ね・・・病院で死んだって・・・今さっき・・・「死んだ」とお母さんから・・・」

もうS子ママはしゃがみこんで泣いていた

「えええ・・・そんな・・・うそだ!!!今さっきね、おばさん、Y君が廊下にいたよ・・・」

「え・・?Y君、廊下にいたの?」

「うん、いたよ、おばさん」

「おかしいわね、戸締りしたのよ・・・どうやって家に入ったのかしらね・・・」

「ええ?・・でも・・・声はしたよ・・・たしかにY君の声だったよ、そうだよなS君」

「確かにY君の声だったよ、ママ、おかしいよ・・・」

隣からS子とY子が部屋をのぞいていた

「どうしたの?お兄ちゃんたち」

「いや・・・そのぉ・・」

「私が説明するからね、S子、F子ちゃん、気を確かにして聞いてね」

「おっちーー、どうしたの?ママ」

「Y君ね、今さっき病院で亡くなったのよ」

「え?Yお兄ちゃんが亡くなったの?うそでしょ・・・」

「え?Yお兄ちゃん・・・」

「だってさ・・・今さっき廊下でYお兄ちゃんの声がしたよ

F子ちゃんも聞こえたでしょ?」

「うん、聞こえたよ、Yお兄ちゃんが来てたよ」

妹たちも聞こえていた

空耳ではなかったんだ

「えええ・・・あなたたちも聞こえてたの・・・じゃあ・・どういうこと・・」

S子ママは理解できない顔をした

「S子たちも聞こえていたんだ・・・どういうことだよ・・・あの声は確かにY君の声だった、でもその頃には病院で死んでいたんだ・・・」

「まさか・・・私たちに別れの挨拶しに来たのかな・・・」

「ありえるかもな・・・Y君「もう僕は旅立たないと・・・」と聞こえた

じゃあ・・・旅たちって・・・そんな・・・その意味だったのか・・・」

私たちはしばらく声が出なかった

突然すぎる

信じられない

チリーン、チリーーン

「え?鈴の音・・・どこからだ?」

「おっちーー、鈴の音が聞こえたんだぞ・・・・」

「背中に寒気が走ったぜ・・・・」

「とりあえず、みんなリビングへ来てちょうだい」

S子ママの言うとおりに私たちはリビングへ行った

S子パパが新聞を読んでいた

「大変なことになったね・・・今日の夜にY君の葬儀になると思う

全員葬儀には出てもらうからね」

とS子パパがみんなに葬儀に出るようにと言ってきた

「はい、おじさん、もちろん出ます、朝にいったん家に帰ります

夕方に来ますね」

「そうしてくれるかな、F君、F子ちゃん・・・」

もう夜中の3時過ぎになっていた

とてもじゃないが眠気が一気に飛んだ

怖いというよりかわいそうという気持ちが強くY君の短い人生に誰もが泣いた

せっかく友人が一人出来たと思ったのに・・・神様はむごいことをする

「せっかく・・・友達が出来たのに・・・むごいよ」

「うん・・・まだ死んだなんで信じられないよ・・・なんかひょっこと顔を出して声をかけてくれそうな気がするんだよな」

「おっちーー、たしかに・・・Yお兄ちゃん・・・カッコよかったのに・・ね!F子ちゃん」

「うん・・・カッコよかった・・・」

もうY君の話題で朝まで語りつくした

午前5時ごろに

チリーン、チリーーンとまた鈴の音が聞こえてきた

なにか寂しげな鈴の音

「また、聞こえたよな・・・Y君が最後のお別れのあいさつに来たのかな・・・」

「そうだと思う・・・まだまだやりたいことたくさんあったのに・・・無念だと思う」

「おっちーーー、無念なんだぞ、かわいそうなんだぞ」

チリーーン、チリーーーーン

「Y君、さようなら」

「Y君、天国でおもっきし遊ぶんだぞ」

「Yお兄ちゃん、さようならなんだぞ」

チリーーン

朝7時ごろに私とF子はS君の家を出て自宅へ帰った

「パパ、ママ、大変なことになったよ

クラスメートのY君が交通事故で昨日の夜に病院で死んだよ

今夜、お通夜だよ、葬儀にはパパとママも出てほしい」

「なにーーー、お通夜だと!!!わかったぜ、俺は出るぜ、S君の家へ集まるんだな

よっしーー」

「そうかい・・・かわいそうに・・・私も参加するよ」

夕方になりオヤジの車に乗ってS君の家へ行った

「おつかれさま・・みんな集まってくれたね」

「はい、おじさん・・・」

「それじゃ、Y君の葬儀会場へ行きましょう」

車でおよそ30分のところにあるお寺でY君のお通夜の会場になっていた

ほかのクラスメートもほぼ全員が来ていた

全員が未だに信じられないという顔をしていた

お寺の中に私たちは入った

Y君の父親が椅子に座ってうなだれていた

Y君の母親は棺にもたれて大声で泣いていた

お寺の中は異様な雰囲気に包まれていた

大人たちのヒソヒソ声が聞こえてきた

「Yちゃん・・・ひき逃げにあったみたいだよ・・・犯人はいまだに見つかってないという話だよ

むごいよね・・・かわいそうに・・・」

「ここのところ・・・ここの劇団は不幸が続いてたよね・・・ここの土地へ来て早々に公演中に劇団の人が舞台から落ちて大けがしたし2週間前は練習中に屋根に付いていたライトが落ちてきたらしいのよ・・・なにか呪われてるんじゃない・・・」

「まさか・・・ね・・・でも・・・最後には息子さんを亡くすとは・・・呪われてるのかもね」

大人たちの話を聞いていて「あり得るな」と思った

これは間違いなくあの黒い影の仕業だと思う

Y君、成仏できるのだろうかと心配になってきた

お坊さんがお経を唱え始めた

参列者は順に線香をあげた

すすり泣く声が会場に響いていた

もちろん私たちも泣いた

Y君と出会ってたった1か月でもうお別れって・・・こんなのありなのか・・・

それも突然の別れ・・・ほかの土地へ行くのではない・・・もうこの世に存在しない

もう2度と会うことができない

悲しいというより悔しいという気持ちが沸き上がっていた

5月になるとふとY君のことを思い出す・・・

もうあれから数十年たった・・・今でもあの日のことは鮮明に覚えてる

唯一無二の親友・・・Y君・・・・

いま私は家族が出来て貧しいながらも幸せな日々を送っている

しかし・・・なかなかY君のお墓参りが出来なかった・・・

今年はどうにかして時間を作ってY君のお墓参りをしよう

安らかに眠っててほしい・・・

Concrete
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