【新元号】令和【決定!】

19年04月怖話アワード受賞作品
中編3
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【新元号】令和【決定!】

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昭和六四年一月七日、昭和天皇が崩御され、

翌日に平成元年が始まった。

それは私が産まれた日。

私が零歳の時、もう平成は一歳で、

平成が二歳になる元日、私はまだ七日だけ待たないと一歳になれなかった。

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数字の理解が早かった私は幼い頃すでに、

母にカレンダーで元号の意味を教わっていた。

産まれた日が同じなのに年上なんて、

全然納得できなかった。

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しばらくは、

背が伸びるのと同じように、駆けっこで勝つみたいに、

なぜだろう、

いつか“へいせい”より年上になれるのだと信じていた。

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小学生の頃、子供達で遊んでいるとミルク味の飴を配ってくれる、

ミルクじじいのことが仲間みんなで大好きだった。

背の高い、笑顔の優しいおじいさんで、

ただ飴を配るだけで、あとは携帯ラジオを聴きながらベンチで小鳥なんかを眺め、

そうしてふいに居なくなる。

どこに住んでいるのか誰も知らなかったけれど、

私だけは知っている。

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今度の体育のサッカー対決で「相手チームに勝とう」とみんなで決意して、

酷く冷える早朝、公園に集合し、けれど私は仲間達がサッカーに夢中になっている時、

小鳥が飛んで、それを眼で追い、

そうして空を眺めたら、

ミルクじじいが泣いていた。

誰より何かを哀しむ顔で、

宙を浮きながら泣いていた。

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大きな声で呼んでみる。

「おっちゃん、おおきに。また来てやー!

悩みあんなら聞いたるでー!」

ミルクじじいは聞こえないのか、泣きながら雲へ埋まって消えた。

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直後に大きな地震が起きた。

のちに阪神淡路大震災と呼称されるあの地震だった。

その公園で、ミルク味の飴をもらった子供達は無傷だった。

飴を拒否した男の子の一人は、電柱に頭を潰され脳が飛び散っていた。

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ミルクじじいは事ある毎に、私の前に現れた。

事故や喧嘩の現場の近く、

火事や通り魔事件の直前、

いつでも私の前に現れ、いつでも飴を渡してくれた。

いつでも私の前に現れ、いつでも哀しい顔をしていた。

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ミルクじじいが飴をくれずに、

ただ泣いているだけだったことが二度ある。

ひとつは、私がとても悪いことをして恋人に振られた日の夜。

私のことが可哀想だったのかもしれない。

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もう一つは、東日本のあの大きな地震の直後。

ミルクじじいはいつまでも、私と一緒に泣いていた。

配れるだけの飴をすべて配っても、

とても足りなかったんだ。

それからもう、ミルクじじいには会えなくなった。

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とっても色んなことがあって、

ただなんとなく働いていたら、

いつの間にか二十代が終わっていた。

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あの野球部のエースが白血病で亡くなったとか、

噂になってた不良が案の定ナイフで刺されて死んだとか、

知り合いの友達が飛び降りて死んだとか、

祖父や祖母も亡くなって、

驚きそして悼んできた。

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有名な人達もたくさん居なくなってしまった。

さくらももこさんの訃報に、

とても寂しく涙が落ちた。

寂しくて寂しくて仕方なかった。

楽しい漫画を描く人だった。

愛しい漫画を描く人だった。

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平成三一年四月三十日まで含めると、

この元号の日数はだいたい11000日ほど。

さっき、川沿いを歩きながら、

嘘みたいな晴れ空と、奇跡みたいに咲き乱れる桜を眺めて、

少し不思議な気がしていた。

いつの間にか私は、一万日以上も生きていたのだ。

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春の陽に煌めく

川には鯉が泳いでいて、

そういえば恋をしていることを思い出した。

89年のベルリンのように、

私は私の壁をまた新しく崩すのだ。

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どんな時でも時は消え去り、

どんな時でも時は産まれる。

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私達はどんな姿になろうともきっと同じ時代を生きていて、

そうして人を救おうという遺志はいつまでも残っていく。

どんな想いも決して消え去ることはなく、

何もかもが次の時代へと継続する。

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あらゆる刹那の全ての命に。

ようこそ令和へ!

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肩こり酷太郎様
アワード受賞おめでとうございます。
ほんとうにお久しぶりにこちらに参りました。
時代は変わっても、永遠に変わらないもの
大切にしたい
そんな思いでいっぱいになりました。
あらためて、「怖話」の奥深さを感じさせられました。
平成から令和へ
日日、感謝と希望を 失わずに生きていきたく存じます。
素晴らしい作品をありがとうございました。

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怖い話ではないのですが
いい話なので多くの人の目に止まるよう
怖ポチさせていただきます!

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@いも 様
ほんとうに芸術や芸能関係でも色んな方が逝去されました。
美輪明宏は200歳まで生きると言ってたのでまだまだ全然大丈夫w

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良い人は長生きして欲しいものです。真面目か!

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平成元年のお生まれだったとは、感慨もひとしおでしょう。昭和の約半分にして、大正の約二倍。三十年という時間は、還暦の丁度半分にあたり、人間の一生の中での大きなマイルストーンとして丁度良いくらいの長さかもしれません。人生の次のステージが新時代と共に始まるようで、羨ましいですね。
昭和オヤジとしては、これで元号三つ目かぁという感慨を覚えております。"降る雨や、昭和も遠くなりにけり"……あまり上手くないですねf^_^;。

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