中編3
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雨の日の踏切

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 「日本海で発生した寒冷低気圧の影響で、関東地方から北信越にかけて明日の朝まで大雨となる予報です。極力無用の外出は控え、外出中の方は川などには近寄らないでください」

 

 関東地方には大規模な大雨が降っていた。女子高生ハルはバス亭のベンチで、雨風が少しでも収まるのを待っていた。

 「ダメだ、繋がんない・・・バイト中かな」

 塾から帰る途中、バス停から降りたところで、あまりの強風に傘が壊れてしまい、帰る手段を失ってしまったのだ。

 バス停から家までは結構な距離があり、歩いていくにはかなり危険が伴うことから、家族や彼氏に助けを求め連絡してみたが、まったく不通だった。

 「もー、どーすりゃいいんだよー」

このままひたすら少しでも雨が収まるのを待つしかないのかと、彼女は途方に暮れていた。

 「それにしても、ひどい雨ですねえ」

 「え?」

どこからかした野太い声に、ハルは声の方を見た。

傘を刺した大柄な男性が、バス停の外に立っていた。

大き目の傘をしており、顔は全く見えない。

(何このオッサン・・・キモいんだけど)

「は、はい・・・」

心配してくれているのもかもしれないが、思春期の少女にとって見知らぬ中年男性から話しかられることは、「怖い」「気持ち悪い」という感情が先行してしまう。

しかし、ハルは奇妙なことに気が付いた。

男性は嵐の中にいるにもかかわらず、全く風の影響を受けていない。

まるで小雨でも受けるかのように、直立不動で立っている。

徐々にハルは、背筋が寒くなってきた。

カン、カン、カン、カン・・・

踏切の音が聞こえてきた。

このバス停の近くには、道路に面した踏み切りがあった。

数年前、その踏切では凄惨な事故があったらしく、踏切の前には花が供えられていた。

「雨の日になると思い出してしまうんですよ、あの日のことを」

「あの日、現場にいたんですか?」

「ええ、居合わせていました」

ハルは少し落ち着いたのか、言葉を交わした。

「あの・・・もし良かったらでいいんですけど、どんな事故だったのか、教えてもらえませんか?」

男性はうなずいた。

「あの日もこんな激しい、雨の夜でした。被害者の男性は泥酔しており、正常な判断が出来なくなっていました」

ハルは唾を飲み込んだ。

「自殺とかじゃなかったんですか?」

「いいえ。あれは事故です。男性は踏切を普通の通路と見間違え、踏切の中に入ってしまい、疲れ果ててそこで倒れてしまいました」

風と雨の音に混じってなにやら人の声が聞こえた気がしたが、聞き取れなかった。

「そこに電車が通りかかりました。晴天の日ならブレーキを架けて緊急停止することが出来たかもしれない。しかしあの悪天候の中で、彼の姿をはっきり認識できなかった。

 おびただしい血しぶきが車体を染めた時、初めて分かったんですよ。人をはねてしまったという事がね」

「その人は助かる可能性はなかったんですか?」

「無理ですよ、だって首が飛んでしまったんだもの」

「ひいっ!」

「現場は血みどろの、文字通り地獄絵図でした」

「ひ・・・人が轢かれたぞ!」

「く・・・首が吹っ飛んだぞ!」

「おい!誰か救急車呼べよ!」

「えっ?」

彼女は耳を疑った。

今の野次馬の声は、その男から聞こえてくるものではなかった。

明らかに近くから、それもはっきりと聞こえてきた。

ふと踏切の方をみやったが、電車など通っていない。

何より、踏切の周りには人っ子ひとりいなかった。

「どうしました?」

「すみません、何か聞こえたんですけど空耳だと思います」

「そうですか」

ふと、彼女が足元を見やったときだった。

赤色のものが滴り落ちていた。

(血?まさか・・・?)

「ひ・・・人が轢かれたぞ!」

「く・・・首が吹っ飛んだぞ!」

「おい!誰か救急車呼べよ!」

またはっきりと声が聞こえてきた。

どんどん声は大きくなっていた。

「な・・・なにこれ・・・」

思わず、ハルは耳を塞いだ。

徐々に男が傘を持ち上げ始めた。

彼の頭がある部分・・・いや、あるはずの部分が空洞になっているのが徐々に見え始めた・・・

「こういう雨の日はここに来てしまうんですよ。いつまで経ってもしんでも死に切れなくてね」

「いやああああああああああ!!!!!!」

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