チカラの使い方【A子シリーズ】

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チカラの使い方【A子シリーズ】

 今から十数年前──。

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 とある田舎に、ある一家が引っ越して来ました。

 優しいパパ、美人なママ、お人形みたいな娘の三人家族です。

 その家族は、A子の家の山の傍に古民家カフェ的な店を開きました。

 落ち着いた雰囲気の趣のある店内で、和洋様々なお茶やお菓子を嗜める都会に欲しい店です。

 そこの娘さんはA子の通う小学校に転校生として紹介されました。

 担任は若い女性教諭で、子供達の母親に年が近いのもあり、かぁちゃん先生として人気がありました。

 「皆さん!今日から新しいお友達が仲間入りします!仲良くしましょうね」

 紹介された娘さんは、緊張しながら挨拶しました。

 「静岡県から来ました……宇佐木です。よろしくお願いします」

 THE女の子な服に身を包んだ宇佐木さんは、クラスの女子達からキラキラの目で見蕩れられながら、空いている後ろの席に座りました。

 転校初日ということもあり、教科書などが間に合ってなかった宇佐木さんは、ノートを出してオロオロしてしまいます。

 「これ、使いなよ」

 隣の席でグッタリしていた黒目の小さな女の子が、一度も開いた形跡がない教科書を宇佐木さんに差し出しています。

 「え……でも、あなたも使わなきゃいけないのに」

 「アタシはいいんだよ……いつも寝てるから」

 宇佐木さんは女の子の教科書が新品同様な理由はわかりましたが、それとこれとは話が違います。

 「じゃあ、一緒に使おう♪ね?」

 「それは困るよ。勉強しなきゃいけなくなるじゃん」

 「いや、勉強はしようよ」

 女の子の謎の理屈にすかさずツッコんだ宇佐木さんは、モジモジしながら訊きました。

 「あの……あなたのお名前は?」

 「アタシ、A子……アンタは?」

 今さっき名乗ったばかりの宇佐木さんに、A子は安定の質問返しです。

 「あたしは宇佐木……宇佐木りかって言います」

 「ふーん……んじゃ、ぴょんぴょんだね」

 「は?」

 「ウサギはぴょんぴょんするから、ぴょんぴょんだよ」

 唐突にダサいあだ名をつけられた宇佐木さんは困惑しながらも、早く皆に馴染むためにガマンすることにしました。

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 休み時間になると、宇佐木さんの周りには田舎の女子達が集まり、いろいろ質問攻めにあいました。

 転校生の洗礼です。

 ワキャワキャする女子達を遠巻きに見るダンスィ達の視線を気にしながら、宇佐木さんは見た目の可愛さも手伝って、すぐに人気者になりました。

 そんなある日──。

 宇佐木さんは放課後に体育館裏の松林に呼び出され、嫌々ながらも行ってみると、そこにはクラスでイキッたクソガキ…じゃなかった、村議会議員の孫の葛山くんがいました。

 「おい、宇佐木!これからお前は俺のオンナになれ」

 イキッてる上にサカリまでついたクズ中のクズからのお誘いを、宇佐木さんは丁重にお断り申し上げました。

 「いや、無理です……生理的に」

 そんな素直な宇佐木さんに逆上した葛山くんは、宇佐木さんに詰め寄ると、何処からともなく声がしました。

 「嫌がってんだからやめなよ」

 姿なき声に二人が辺りを見渡すと、松の木の上から女の子が降ってきました。

 「A子ちゃん!」

 葛山くんは宇佐木さんに組み付いたまま固まっていると、A子は小指で鼻の穴をいじりながら二人に近寄って行きます。

 「ぴょんぴょん、嫌がってんじゃん……話してあげなよ、出歯山くん」

 「出歯山じゃねぇよ!クズヤマだ!」

 ルックスをいじられた葛山くんが憤っているのを無視して、A子は宇佐木さんに言いました。

 「ぴょんぴょん、今度の連休の最終日にアタシの誕生会するから来てね」

 「えっ?!このタイミングで?」

 それどころではない宇佐木さんが返事に困っていると、A子は重ねて言いました。

 「実は、かあちゃんに1ヶ月前から来る人の人数教えとけって言われてたんだけど、今日中に返事しないと怒られるんだ」

 「そんな前から言われてたんだ……えっ?今日が最終日?!A子ちゃん、1ヶ月何してたの?」

 呑気すぎるA子のせいで、ついピンチを忘れてツッコんでしまった宇佐木さんに、葛山くんが抱きつかんばかりにグイグイいきます。

 「やめて!A子ちゃん!助けて!!」

 宇佐木さんの悲痛な叫びに、A子は鼻から摘出したアレを葛山くんのほっぺたに塗りつけました。

 「うわっ!きったねぇ!!」

 とれたての汚物を擦り付けられて怯んだ葛山くんの隙を突き、宇佐木さんは葛山くんから離れてA子の後ろに隠れます。

 「ほら、アンタだって汚いモノにくっつかれたら嫌でしょ?」

 人間と分泌物を同じ天秤に乗せていいのかは置いておくとして、言いたいことは概ね合っています。

 「ふざけやがって!このヤロウ!!」

 いきり立った葛山くんがA子に向かって来ましたが、A子は慌てることなく足で地面に線を書いて爪先でトンとすると、上から松の枝が落下し、葛山くんに命中しました。

 顔はまぁまぁ、力はゴリラ、頭の中身はチンパンジーのA子とケンカしたら、こんな軽傷では済まなかったでしょうから、葛山くんはある意味ラッキーでした。

 虚を突かれ、戦意をなくした葛山くんは「覚えてろ!」というベタな捨て台詞を吐きながら何処かへ去って行きました。

 「ぴょんぴょん、手ぶらでいいからね」

 「あ…もう行く流れなんだ……うん!楽しみにしてるよ♪」

 お誘いという行為のなんたるかを知らないA子に、嫌な顔も見せないピュアな宇佐木さんには、本当に感心します。

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 そして、A子の誕生会当日──。

 A子のお屋敷には、クラスの女子達が続々と集まりました。

 招待客から贈られた牛、豚、鶏の肉のパックという、小学生女子への誕プレでは決してお目にかからない代物に、A子もご満悦です。

 パーティー会場の大座敷はド派手に飾りつけられ、主役であるA子の頭にはケーキ型の冠が乗っかり、ゾウも引くほどの量の料理が所狭しと並びました。

 そんな異様なだだっ広い和室の中で、たくさんの小学生女子達がA子を囲んで楽しげに歓談します。

 パーティー開始から30分くらいすると、A子は母に呼ばれました。

 「アンタが言ってた人数に一人足りてないんだけど、数え間違えてんじゃないだろうね?」

 「ち、ちがうよ!!」

 「もし、数え間違えてたら、今夜から無限算数ドリル地獄だよ!」

 「まちがえてない!たぶん絶対!!」

 たぶん絶対というパラドックスを胸に秘め、A子はパーティー会場に戻ると、招待客に点呼を呼びかけました。

 すると、宇佐木さんが来ていないことがわかり、A子はすぐに家から飛び出しますが、宇佐木さんはすぐに見つかりました。

 「ぴょんぴょん!!」

 近所の道で座り込んだまま泣いている宇佐木さんにA子が駆け寄ると、宇佐木さんはA子に力なく笑って言います。

 「転んじゃった……プレゼント………ぐちゃぐちゃになっちゃったよ」

 気丈に振る舞う宇佐木さんでしたが、悲しさと悔しさと不甲斐なさに堪えきれなくなったのか、A子にしがみついて堰を切ったように泣き出しました。

 「ひざから血が出てるよ……家で手当てしよう」

 宇佐木さんを立たせようと肩を貸したA子は、傍らに転がった男物の靴跡がついたプレゼントの箱を見つけ、無言でそれを拾って抱えると、宇佐木さんを家に連れて帰りました。

 A子の母は、怪我をしている宇佐木さんを見て驚き、パンパンと手を叩いてからA子に言いました。

 「アンタ、宇佐木ちゃんに風呂の場所教えてやんな」

 「わかった」

 「権七ィ!!お客様の服をお帰りまでにキレイにして差し上げな!!大至急だよ!!」

 「へい!奥様!!」

 テキパキと指示を出すA子母に恐縮しながら、宇佐木さんはA子の家のお風呂を借りて、A子母に応急処置を受けた後は帰りまでA子の服を借りました。

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 A子の誕生会がつつがなく終わり、みんながポツポツと帰る中、宇佐木さんはA子に訊きました。

 「プレゼントのつもりだったアレは何処にあるの?あたし、作り直して持ってくるよ」

 「アレはね……」

 A子が答えようとすると、A子母がニッコリと微笑みながら言いました。

 「すまないねぇ……アレはアタシが食べちゃったのよ。とっても美味しい富士山クッキーでした」

 「食べちゃったんですか?!」

 「もちろんだよ。宇佐木ちゃんが丹精込めて作ってくれたんだもの……捨てるなんてバチが当たるよ」

 A子母の優しい微笑みに、宇佐木さんも嬉しくなりました。

 「かあちゃん、アレはアタシがもらったんだから、アタシの分も残してるよね?」

 「あぁ、箱のふちにちゃんと粉が残ってるよ」

 「カケラすらないのかよ!ぴょんぴょんのクッキーはウマイって評判なのに!!」

 「その評判は間違いなかったよ……よかったねぇ」

 この母にして、この子あり……。

 これがA子の原点のようです。

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 誕生会翌日、クラスの女子達の間ではA子の誕生会の話で持ちきりになりました。

 後れ馳せながらの宇佐木さんも楽しかったようで、みんなの思い出話は満開の八分咲きです。

 そんな中、宇佐木さんは昨日渡せなかったプレゼントをA子に渡そうと待っていました。

 宇佐木さんが机の中にプレゼントをしまおうとしていると、突然葛山くんがプレゼントを取り上げ、壁に投げつけてから踏みつけました。

 「あ……」

 その瞬間、賑やかだった教室中の時が止まり、みんなが潰れた箱に視線を向けていると、少し遅れたA子がチベットスナギツネみたいな顔で教室に入って来ました。

 イマイチ状況がわかっていないA子も何となく察したのか、席に近づきながらランドセルを下ろして潰れた箱を拾い上げます。

 「これ、アタシに?」

 A子が宇佐木さんに訊くと、宇佐木さんは俯きながら頷きました。

 「そのはずだったんだけど……」

 「ありがと」

 A子は薄気味悪い笑顔で潰れた箱を開け、中のクッキーをムシャムシャと食べ始めます。

 「うん!どちゃクソうめぇ!!」

 「A子ちゃん!それはまた作り直すから!!」

 宇佐木さんの制止も聞かず、すっかり食べたA子に、葛山くんが侮蔑の表情で言い放ちました。

 「きったねぇなぁ!落ちて踏まれたもん食ってやがるぞ!コイツ」

 自分のしたことを棚に上げる葛山くんに、A子は真顔で言い返します。

 「落ちてるものでも5秒以内ならセーフだよ」

 「A子ちゃん、5秒どころか5分は経ってたよ……」

 クラスメイトのモブ美が言いましたが、A子は顔色ひとつ変えずに返します。

 「アタシが5秒数えてないからセーフ!」

 超理論を繰り出すA子に唖然とするクラスメイトの一人の女子が、葛山くんに言いました。

 「葛山くんがやったんじゃん!!宇佐木ちゃんに謝りなよ!」

 学園ドラマに一人は派遣されているような正義感強めの女子の言葉に逆ギレした葛山くんが、その子に詰め寄ろうとするのを、A子が奥襟をつかんで止めました。

 「ねぇ、昨日のもアンタの仕業だよね?」

 「は?知らねぇよ!お前の誕プレなんか……」

 イキッてサカリがついている上に頭まで悪いという、ガンで例えるならステージ4な葛山くんは、あっさりと語るに堕ちました。

 A子は無言で奥襟を引き寄せながら、葛山くんに年末のプロレスラーばりのビンタを食らわせます。

 鮮やかなシングルアクセルを決めながら崩れ落ちる葛山くんを見て、教室にいる誰もが、葛山くんが死んだ!……そう思いました。

 A子は倒れた葛山くんのマウントを取り、葛山くんの両頬をギュッと片手で挟んで、小さな黒目で睨みつけます。

 「食べ物を粗末にするアンタは……二度とお菓子が食えなくしてやるよ」

 「じ、じいちゃんに言いつけてやるからな」

 涙目でそう言う葛山くんに、A子は悪魔みたいな笑みで言いました。

 「じゃあ、その前にふざけた出っ歯から叩き直してやらなきゃね」

 出っ歯は叩いても治りませんが、滅多に怒りを見せないA子の姿に、誰一人動けませんでした。

 「ほら!止めなさい!あんた達!!」

 そこに誰かが呼んだ担任の先生が入ってきたお陰で、教室に血の雨が降るという惨劇は無事回避されました。

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 放課後、当然ながら朝の騒ぎの件で親が呼び出されました。

 宇佐木さんのママと葛山くんのママ、そして、A子の母が相談室で我が子の到着を待っています。

 親が呼ばれたことに誰よりもビビっていたのは、他ならぬA子でした。

 担任から子供達の目撃証言が説明され、事実確認した上で、原因になった葛山くんのママが高らかに笑いながら口火を切ります。

 「まぁ、子供のしたことですから、その辺は水に流しましょうよ」

 「でも、りかにしたことはキチンと謝ってください!!」

 納得のいかない宇佐木さんママが言うと、葛山くんのママがギラリと睨みを効かせて言いました。

 「あら?あなたは確か、最近越してきた方でしたねぇ……都会の人はこういう小さなことにイチイチ過敏というか、寛大さがないんですよねぇ……そんなことより、うちの子に暴力を振るったA子ちゃんの方ですよ!」

 親が親なら子も子です。

 まだ解決していない件を無視して、今度はA子に怒りを向けました。

 「女の子が暴力を振るうなんて、しつけがなってないんじゃありませんか?家が裕福だからと言って、そういう大事なことがおろそかになってはいけないんじゃありません?」

 葛山くんのママの意見を黙って聞いていたA子の母が、フムフムと頷いてから答えます。

 「確かに、うちの子も悪かったと思います。でも、子供のしたことですから水に流そうじゃありませんか」

 「ンマー!我が子のことを棚に上げて、なんて言い草なの!」

 おま言う?の葛山くんのママとA子の母の間に、見かねた担任が割って入って言いました。

 「元の原因は葛山くんですし、その葛山くんのお母さんが子供のしたことは水に流せとおっしゃってるんですから、それでいいのではないですか?それとも、宇佐木さんにキチンと謝罪していただけるんですか?」

 担任の大岡裁きに、壮大なブーメランが突き刺さった形の葛山くんママが口ごもっていると、部屋の外で待機していたクラスの女子達から、葛山くんの悪行が次々とリークされた。

 「葛山は宇佐木ちゃんにした暴力も謝れ!」

 「A子ちゃんは全然悪くない!」

 「葛山くんママの化粧が厚くてキモい!!」

 矢継ぎ早に投げつけられる女子達の口撃に、葛山くんママがキレました。

 「あんた達!言わせておけば……あんた達も親も覚悟しとくんだね!」

 子供相手に大人げなく毒づく葛山くんママに、眠れる獅子がついに牙を剥きます。

 「あらあら葛山さん……子供のケンカに親がしゃしゃり出るんですか?……でしたら、アタシも遠慮なく参戦致しますわね?オホホホホ」

 A子母のエレガントの宣戦布告に、葛山くんママは戦々恐々しましたが、時すでに遅しです。

 代々数百年続く村の名家の当主vsポッと出の小さな村の議員では、勝負は見るまでもありませんでした。

 葛山くんの祖父は次の村議会議員選で村史上最低の6票という歴史的得票数で見事に落選し失職。

 それに次いで、議員時代の悪事が明るみになり、そのまま御用となりました。

 その権力を笠に、好き放題していた葛山くん一族は村八分状態に追い込まれ、夜逃げするように村から出ていきました。

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 そして、元凶の葛山くんはと言えば、口にしたお菓子がおびただしい数のムカデに変わる原因不明の幻覚に悩まされ、本当に二度とお菓子が食べられなくなったのは、また別の話です。

Concrete
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