となりのしげこ【絵のない絵本】

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となりのしげこ【絵のない絵本】

 少し昔のお話です──。

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 本州の北の外れのとある町に、小さな天使のような女の子が住んでいました。

 その子の名前は『あき』と言い、モーニング娘。が大好きなおしゃまな女の子でした。

 あきの一挙手一投足すべてに「カワイイねぇ」とテンションを上げる優しい家族の下で、あきはすくすくとワンパクに育っていきました。

 そんなあきが5歳の春、いつものように庭で家族が観客のリサイタルを開いていると、あきの目線の外に小さな女の子の影が一瞬チラ見えしました。

 「ん~?」

 あきがそちらへ視線を向けると、人影はサッと家の陰に隠れてしまいました。

 「にがすかぁ!」

 あきはリンゴの収穫カゴをひっくり返したステージを飛び降り、人影がいた方へと駆け出します。

 「あぁぁきちゃぁああん!」

 まるで、迷子になった女の子を村人総出で探しているかのようなテンションで、あきの祖母が呼び止めますが、あきは走り出したら止まりません。

 家のコーナーを華麗に曲がると、その先に謎の女の子のスカートがひらめくのが見えて、あきはさらにスピードを上げました。

 「むぁぁああてぇぇえええぃ!!」

 ほぼリンゴ泥棒を追いかけるトーンでしたが、カワイイので問題はありません。

 しかし、相手も瞬足を履いている運動会のヒーローのようにすばしっこく、あきもなかなか追いつけませんでした。

 「ちっ!しかたない……ふうじられしカゼのチカラをつかうトキがきたよぅだな!」

 5歳にして中二病の片鱗を見せるあたり、将来有望です。

 この町はあきの庭のようなもの。

 あきに知らない道はありませんでしたので、あきはカゼのチカラと称した近道作戦を決行しました。

 小さな女の子があきを振り切り、とある山へ入ろうとしたその時です。

 「とーぅ!!」

 近道を通って来たあきが、山道の陰からナンチャラ大学のアメフト部のようなタックルで女の子を捕まえ、落ち葉の上をゴロゴロと転がりました。

 落ち葉を全身にまとわりつかせながら、結構な距離を転がって、やっと止まったあきたちは、ムクリと体を起こし、互いに顔を見合わせました。

 捕まえた女の子は、おかっぱ頭で日本一有名な妖怪マンガの妖怪にそっくりな顔立ちでした。

 「ぷっ!」

 あきは女の子の顔を見て噴き出し、指を差して笑います。

 「はなにおちばがひっついてるよ?」

 そんなことよりも抜群のインパクトがある女の子の顔より、あきには落ち葉の方がツボだったようです。

 「あたし、あき!あなたはだぁれ?」

 女の子はうつ向きながら何か言ったようですが、小さすぎて聞こえませんでした。

 「ん?たかはし・めありー・じゅん?」

 あきは、なかなかの長さの空耳がイカつめでした。

 あきが今度は聞き逃さないように耳をすませると、女の子は顔を上げて吠えました。

 「しぃぃ…げぇぇええ……ごぉおおおお!!!!」

 至近距離の大声の勢いで、あきのサラサラの髪がぶぁっと舞い上がりました。

 「しげこ?!あなた、しげこっていうのね♪」

 あきは純真無垢な瞳を瞬かせて、しげこを見ました。

 あきのあまりにも澄んだ瞳で見つめられたしげこは、思わず顔を伏せました。

 「こんなとき、どんなかおをすればいいか、わからないの」

 「わらえばいいとおもうよ?」

 まるで人類の危機を救った後のようなやり取りをした二人は、すっかり友達になりました。

 二人は『となりの山田さん』の家に何度もピンポンダッシュをかましたり、山の崖ギリギリにトランポリンを置いた度胸試し『崖のギリでポヨン』をしたりと、カワイイおてんば全開で遊んでいました。

 そして、優しいお母さんが持たせてくれた『柿だらけのスパゲッティ』のお弁当を、二人で分け分けして食べた味は今でも忘れられません。

 そんな楽しいメモリーを二人で作っていきました。

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 ある夏の日、あきの妹が夏風邪をこじらせてしまいました。

 妹が心配ながらも、あきがいつものように遊びに出かけようとすると、お母さんが言いました。

 「あきちゃん、今日はゆいちゃんの側にいてあげてくれない?ゆいちゃん、お姉ちゃんがいないと寂しいんだって」

 「きょうは、しげことやくそくが……」

 「今日はって、いつもしげこちゃんと遊んでるじゃない!しげこちゃんって何処の子なの?お母さんが電話して謝ってあげるから」

 お母さんに言われて、あきはしげこが何処に住んでいるか知らないことに気づきました。

 カワイイうっかりさんです。

 お母さんに返す言葉が見つからず、あきは仕方なく妹の部屋に向かいました。

 「ぶぅーーーーぅん♪」

 あきはお父さんが作ってくれた模型飛行機を持って、妹の周りを元気に飛び回りました。

 そんなあきの姿を見て、妹のゆいも苦しそうですがご満悦です。

 「つぎは、いすたんぶーる、いすたんぶーるにとまりまーす♪」

 飛行機なのに路線バスシステムなのは謎です。

 あきが模型飛行機をゆいの側に着陸させると、熱っぽい赤ら顔を緩めながら、ゆいがあきに手を伸ばしました。

 「おねぇ…たん」

 ゆいの小さな手をキュッと握り、あきはゆいに笑いかけました。

 「だいじょーぶ!すぐにげんきになるから!そしたら、ゆいもいっしょにあそぼう!しげこといっしょにね♪」

 あきの言葉を聞いて、ゆいは微笑んでうなずくと、安心したかのように静かに目を閉じました。

 眠ってしまったようです。

 あきはゆいを起こさないように手を布団に戻し、ゆいの寝顔を見守っていると、しげこが庭からひょっこり顔を出しました。

 「あきちゃん」

 「しげこ!」

 あきは庭にいるしげこを見て、縁側に飛び出しました。

 「しげこ、ごめんね。いもうとが、おねつだしちゃったんだ」

 あきが素直に謝ると、しげこはゆいに目をやり、首を横に振りました。

 「いいの、ゆいちゃんのとこにいてあげて?」

 そう言って、しげこは寂しそうに帰って行きました。

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 その夜のことです。

 降りだした夕立が激しくなり、まるで台風のように家を揺らしました。

 そんな急に荒れてしまった空のように、ゆいの病状も悪化し、まさに青天の霹靂です。

 お母さんはお医者さんに電話しますが、この天気ではとても往診には来られないそうで、それはこちらからも同じでした。

 ゆいの体温はみるみる上がり、苦しそうなゆいがいたたまれず、あきは小さな胸を痛めて泣きました。

 夜もふけた丑三つ時──。

 泣きつかれて眠っていたあきが、ふと目を覚ましました。

 あんなに荒れ狂っていた空はすっかりと晴れ、月明かりが窓から射し込んでいます。

 ぼーっと見ていると、庭から小さな光が入ってきました。

 ホタルです。

 ホタルは淡い光を瞬かせながら、あきとゆいの上をゆっくりと回り、すぅっと、ゆいのふとんの胸辺りに留まりました。

 柔らかで優しい光でした。

 その光の美しさに目を奪われていると、あきもいつの間にか眠ってしまいました。

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 翌朝、あきはゆいに起こされました。

 あんなに具合が悪かったのがウソのように、ゆいは元気そうです。

 「ゆい!」

 目を覚ましたあきは、思わずゆいを抱きしめました。

 「おねぇたん……おはよう」

 ゆいに安心して、泣きそうになったあきがふとんに目を落とすと、ふとんの上には一匹のホタルが死んでいます。

 その小さな死骸を拾い上げると、ゆいが不思議そうに言いました。

 「おねぇたん……なんでホタル、すぐしんでしまうん?」

 ゆいの問いに、あきは答えられませんでした。

 ゆいが奇跡の回復をみせたことで、あきの家は渋谷のハロウィンのように沸き立ちました。

 「今夜はご馳走だ!」

 お父さんもお母さんも、もう一人妹か弟を作りそうな勢いの喜びようです。

 そんな大人たちのスーパーハイテンションについていけなくなった子供たちは、家をこっそり抜け出しました。

 向かうは、しげこと待ち合わせている山の入口です。

 あきはゆいの手を引いて、山の入口でいつものように大きな声で呼びました。

 「しーげこちゃーん!!」

 いつもなら「はーあーいー!」と元気な返事がくるのに、今日はしません。

 何度も何度も呼びましたが、一向にしげこの声は返ってきませんでした。

 約束を破ったから嫌われちゃったのかな?

 そんなことが、あきの頭をよぎりましたが、ゆいがあきを見上げて言いました。

 「おねぇたん、しげこたん……きのう、うちにきてたねぇ」

 「え?……うん」

 あきは、しげこが訪ねてきていたあの時、ゆいが起きていたのだと思いました。

 「しげこたん、ずっと、ゆいをイイコイイコしてくれてたねぇ」

 あきにはゆいの言葉の意味が、わかりませんでした。

 「しげこたんがイイコイイコしてくれたら、ゆい、げんきになったんだよ?ホントよ?」

 それを聞いて、あきは全てを悟りました。

 あのホタルは、しげこだったんだ……。

 あきはゆいと家に帰り、庭の涼しい場所に二人でホタルのお墓を作りました。

 ありがとう……。

 そんな気持ちを込めて、一生懸命作りました。

 今でも、あきの実家の庭のホタルのお墓があった辺りには、誰が植えた訳でもないのに、毎年季節外れの勿忘草(わすれなぐさ)が咲くそうです。

 その花言葉は『真実の友情』……。

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 そして、『私を忘れないで』──。

Concrete
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ジブリ満載(拍手)

特に「崖のギリのポヨン」「柿だらけのスパゲッティ」には爆笑しましたヾ(≧∀≦*)ノ〃

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お話の表現がとても面白く
テンポよく読めました。
怖くもあり、最後はとても心にくるお話でした。

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