長編8
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SNS少女

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当時、私は少し心を病み、逃げ場を求めるようにとあるSNSを始めたのでした。

そのSNSは100いくらかの文字と画像を投稿できるもので、現在も多くのユーザーがいますが、当時はとても画期的なもので流行りに乗った側面もありました。

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趣味や主義などを公開して、同じものを持つ人と繋がれるそのSNS。

私はその時とても病んでいたので、そのような心の闇を発信していると、自ずとそのような人々と交流するようになっていきました。

そこでとある一人の少女と、出会ったのです。

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私が彼女を見つけたのは本当に偶然でした。

SNS内での友人が激しく誰かと口論しており、どうしたのかと会話を辿っていくと、A子がいたのです。

A子は誰がどう見ても気が小さく、人のことを言える立場ではありませんでしたが、非常にネガティブな少女でした。

そしてそこに目をつけられたのか、何気ないA子の投稿に対して非常に攻撃的な人が噛み付いていたのです。

根拠のない暴言を吐かれる彼女に自分を重ねた私は、日頃のストレスが噴出し、友人に加勢する形でその口論に加わりました。

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『ありがとうございました。

フォローしてもいいですか?』

口論が終わったあと、A子からそんなメッセージが来て、勿論と私は快諾し、私も彼女をフォローしました。

これが悪夢の始まりとも知らずに。

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それから私とA子は他愛のないやりとりを重ね、同性であることや年齢もさほど離れていないこともあり、直ぐに仲良くなりました。

そして話をすればするほど、A子の抱える問題がだんだん良く分かっていきました。

A子の家庭は一見普通のようでした。

しかし実際は横暴な父親、無関心の母親、A子と比べられて持て囃される兄……。

世間体を気にしてか両親の外面は良いようで、A子はどこにも相談するところがなく、匿名のSNSならとここにやってきたようでした。

私も似たようなことで悩んでおり、それを打ち明けると即意気投合しました。

相談したりされたり、愚痴を言ったり聞いたりしていると、次第にDMでやり取りするようになりました。

あとから思い返すと、それが大きな間違いだったと思います。

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A子と知り合い3ヶ月ほど経つと、私はだんだん彼女とのやり取りに疲れてくるようになりました。

『ねえ、起きてる?』

『寝てるの?』

『もしかして私のこと嫌いになった?』

『どうして?』

『どうして?』

『どうして?』

少しばかりSNSから目を離すと大量に送られてくるA子からのメッセージ。

『ごめん!ちょっと用事があって』

と返すと、

『そんな長い用事ある?

私のこと嫌いになったんでしょ!?』

そんなことないと必死に弁明しましたが、A子の怒りはなかなか治まらず、毎回やっとのことで許してもらう始末。

そしてA子の怒りが治まると、今度は延々愚痴ばかり。

その頃には私の方の問題は落ち着いてきており、心の不調も回復してきていたので、正直そのテンションに付き合うのが億劫になってきていました。

それに勘づいたのかA子は

『最近投稿も減ってるしDMもなかなか返してくれないけどどうしたの?』

『うーん、ちょっと飽きてきたかも』

つい私がそう返し、ちょっと間違った返し方をしたかな?と、少し身構えていた時でした。

『は?』

『は?』

shake

『は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?は?』

延々とそして淡々と、たった一文字に対して、怒り、憎しみ、悲しみ、ありとあらゆる感情が見て取れました。

それが数分続き、私は咄嗟にSNSを閉じようとしたその瞬間……

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赤い血飛沫が目に飛び込んできたのです。

ほっそりしていて病的に白い手首、そこに横一文字に走る赤黒い線。

床か机か、その手の下には夥しい量の血が滴っていました。

A子から送られてきたその画像に声にならない悲鳴をあげた私は携帯を取り落としつつ、何とかその画像を目の前から消しました。

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DMの画面を消した後、SNS自体を消せばいいものを、私は日頃の癖でタイムラインに目をやりました。

『〇〇(私)酷い』

『〇〇も私のこといらないんだ』

『酷い酷い酷い』

『しんじてたのに』

『のろってやる』

『し ね』

『し ね』

『ころ す』

そこには私に対するA子からの呪詛で埋め尽くされていました。

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私は直ぐにアカウントを消し、アプリも削除しました。

ベッドに丸まり布団を被りましたが、その日は全く寝付けませんでした。

所詮SNS。

アカウントも消したし、アプリも消したから、これで大丈夫。

私はそう自分に言い聞かせ、現実の世界に戻っていきました。

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A子のことはとてもショッキングでしたが、現実世界が上手く行き始めたこともあり、私は割と早くその存在を忘れていきました。

そんなある日のこと。

私はなんだか最近携帯の調子が悪いな、とスマホを弄っていました。

いらないアプリを消したり、キャッシュを削除していると、普段使用しないメールアプリが目に留まりました。

通販やSNSのアカウント作成、同期のために使用しているメールアドレスだったので、どうせろくなものは来ていないだろうと思いながら開けてみると、やはり企業からの広告が沢山来ていました。

暇つぶしにそれらを眺めていると、ぽつんとひとつだけ個人のアドレスからのものがありました。

題名は無題。

間違いかな? と思いつつ中を見てみると、本文にも何も書いてありませんでした。

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空メールかつまらないな、と思い特に迷惑メール設定などにもせずに私はアプリを閉じました。

いや、何かがおかしい。

何故かそう思った私は再びアプリを立ち上げ、そのメールをまた開きました。

そこにはやはり何も書かれていないように見えました。

ですが私はそこで気づきました。

下に、何かある。

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下へ下へスクロールしていくと、それはただの空メールではなく、意図的な改行がされているのがわかりました。

少し不気味に思いながら下へ下へと行くと、ある時横のスクロールバーがピタリと止まりました。

そしてそこには

『る』

とだけ書いてあったのです。

結局いたずらかと思いましたが、何故か嫌な感じがした私はメール一覧に戻りました。

一日十件以上届くメール。

その多くは企業からのものでしたが、遡っていくと何件か空メール? イタズラメール? と同じアドレスから同じく件名無題のメールが届いていました。

まさか、

私は直ぐに一つ一つ開けて、何が書かれているのか確認しました。

日付の新しいものから、

先程の『る』

次は『や』

その次は『て』

『し』

『ろ』

『こ』

『い』

『ろ』

ひとつずつ手元にあったメモに書き写していきました。

そして最後の文字は

『の』

それを書き込んだ途端、私はぞっと全身総毛立ちました。

『るやてしろこいろの』

届いた順番に並べ替えると

『のろいころしてやる』

『呪い殺してやる』

その文字が頭の中に浮かんだ途端、全身を寒気が襲いました。

そしてA子の最後のメッセージが頭を過りました。

もしかしてA子? いやまさか、ただのイタズラだ。

冷や汗をかきながら、迷惑メール設定をしようと再びメールを見ました。

そしてまた、ぞっとしました。

そのメールのアドレスに見覚えがあったからです。

それはA子のSNSのアカウントでした。

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〇〇〇〇@………

この〇〇の部分が記憶が正しければA子のSNSのアカウントと同じでした。

私は震えながらメールアプリを閉じました。

何故A子が私のアドレスを知っているか。

それは私もA子と同じく、SNSのアカウントとメールアドレスを同じにしていたからだとすぐに思い当たりました。

自分のズボラさに落胆しつつ、まあでもこの程度の嫌がらせなら大丈夫、実害はない、と自分に言い聞かせ、その日は少し怯えつつも眠りにつきました。

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ピロリン♪

真夜中に響く大きな携帯の着信音。

私は寝ぼけながら、なんだろう? と携帯を覗きました。

『新着1件』

あれ? と少し疑問が過りましたが、寝ぼてけていた私はそれを躊躇い無く開けました。

それはあのメールアプリでした。

気づいた時はもう遅く、私はそのメールを見てしまいました。

無題

あのA子と思われる差出人からでした。

みたね……見たね……?

一気に覚醒した私は、慌ててそのアドレスを着信拒否設定しようとしました。

ピロリン♪

再び携帯が大きな音をたてました。

驚いた私は携帯を取り落としてしまいました。

その時指が触れてしまったのか、新しいメール画面が開いてしまったのです。

無題

直ぐに携帯の電源を落とし、私は毛布を被りました。

体はガタガタと震え、荒い呼吸が止まりませんでした。

それでも着信拒否設定をしなければ、またあのメールは届きます。

それに気づいて震えながら毛布から顔を出した時、

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shake

ほとんど真っ暗なはずの視界に、なにか白いものがありました。

それは人の手でした。

私は当時一人暮らしで、この家には私しかいません。

ではこの手は?

驚きに硬直しながら、その腕の持ち主を暗闇の中から探しました。

暗くてよくわかりませんでしたが、その人物は私の上に覆いかぶさっているようでした。

ヒッと悲鳴のようなものが漏れた瞬間、ぬっとその手は私へと伸びてきました。

そして動けずにいる私の喉へ触れ、次の瞬間ギュッと締め付けてきたのです。

声どころか息すら出来なくなった私は懸命にもがこうとしました。

しかし何故か体は思うように動いてくれず、辛うじて動く腕でその得体の知れない手を振りほどこうともがきましたが、振りほどくどころか何故か私の腕は空を切り、そうこうしている間に私の意識は遠のいてしまったのでした。

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翌朝、私は携帯のアラームで目が覚めました。

昨夜の出来事が夢だったのか現実だったのか、わかりませんでした。

起きて直ぐ、メールをアプリごと全て消しました。

朝早くでしたが、母親に泣きながら電話もしました。

それから携帯を機種変更したり、友人の家に泊めてもらったりしました。

しかしあの日以降、あの手が現れることはありませんでした。

オカルト好きの友人に相談すると、曰く

・その手はA子の生霊ではないか。

・届いたメールは呪詛が込められた言霊ではないか。

との事でした。

更に、

「死んだ幽霊より、生霊の方がタチ悪いらしいよ。

良くも悪くも、生きてる分エネルギーが強いから。

でも良かったね、SNSだけの関係で。

これで実際会ってたりしたら……」

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皆さんも、SNSにはご用心ください。

匿名だから、ネット上のことだから、と安易な考えでいると私のように予想もつかない形で怨みを買うかも知れませんから。

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