暴走族のSさん前編 ~稲川淳二風怪談~

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暴走族のSさん前編 ~稲川淳二風怪談~

むかーしむかし、若かりし頃に暴走族をやっていたSさん、という方のお話なんですが。

そのSさん、若い頃にはケンカに明け暮れて、地域でもフダ付きの不良だったらしいんです。

今ではすっかり普通のサラリーマンやってるんですがね。

当時は相当やんちゃだった。

 

ケンカが強くて、地域の不良達をまとめていい気になっていたSさんは、旅行先の九州でもって1人でいる時に、地元のヤンキーとケンカになって大負けしちゃった。

いわゆるボコボコにされた、ってやつですね。

地元じゃ調子に乗ってたSさんだったんですが、まあ上には上がいるもんで、やられちゃった。

 

旅行から帰ってもそんなこと言えませんよ。

格好悪くてね。

そんなこんなで地元じゃ相変わらずのケンカ番長で、周りには仲間というか子分もいっぱいいてね、ケンカに負けたことなんて誰も知らない。

今までどおりだった。

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それでもSさん、なんだかケンカが面白くなくなっちゃって、暴走族もなんだかなあって思い始めて、しばらくは何にもしないで仲間達とたむろったりして、無気力な感じで過ごしてたんだそうです。

そんなことしてても面白くないってんで、仲間達と「何か面白いことねえかなあ」なんて相談してたら仲間の1人が、心霊スポットに行かないかって言うんですよ。

季節はちょうど夏になりはじめの頃だったそうですよ。

そりゃいいやってなもんで、早速行ってみることにした。

深夜に集まって、バイクに乗ってね。

 

着いた先は地元から少し離れた所にある廃工場だった。

薄暗~い建物の中に昔の機械やなんかがそのまま残されてる。

おお雰囲気あるじゃねえかって言ってズカズカ進んでいくSさん。

内心は結構ビビってたそうですよ。

でも自分は親分で、周りには子分がいっぱいいますから、格好悪いところは見せらんない。

へっちゃらな顔してどんどん奥へと入っていった。

後ろから皆ついてくる。

 

しばらくして建物の中をあらかた見終えた頃、子分の1人がスプレーでもって壁に落書きを始めた。

Sさんが当時総長をやっていた暴走族のチームの名前を書いて、◯◯参上!みたいなね。

よくあるやつですよ。

 

それを見たSさん、俺にも貸せと言ってスプレーを取り上げて、同じように壁に大きく落書きをした。

「ここにユウレイはいません」てね。

それを見て皆大笑い。

何が楽しいんだかゲラゲラ笑って喜んでる。

親分のすることですからねえ、子分達は必要以上にそれをもてはやすんだ。

 

だもんで久しぶりに楽しくなったSさん、心霊スポットでオバケを相手にケンカしてる気分だったそうですよ。

ケンカに勝ったら仲間達が手を叩いて喜んでくれる。

人間相手のケンカはやらなくなっても、やっぱりそういったことには心が弾むんだ。

ようしそれじゃあ、ここらの心霊スポット全部回って制覇してやろうじゃねえかってね。

それからほぼ毎日のように、心霊スポット巡りをしたそうですよ。

なんせバイクですからねえ、1、2時間も飛ばせばかなりの距離を行けるわけですから、隣の県の有名な心霊スポットなんかにも足を運んで、その度に「ここにユウレイはいません」て落書きをして帰ってきた。

そんな様子でもって一ヶ月もかけずに20件近く回ったそうですよ。

おかしくなりだしたのはその頃からだった。

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いつものようにSさんが壁に落書きをして、おーしそれじゃ帰るぞーって言ってバイクに乗る。

ブルーンとエンジンをかけるんだけど、何かがおかしい。

あれー?と思って首をひねる。

何かがおかしいんだけど、どこがおかしいのかわからない。

周りを見ても仲間達はいつも通りにしてる。

妙な違和感を感じてるのはどうも自分だけらしい。

 

バイクの調子でも悪いのかなーなんて思いながらギアをローに入れて発進させる。

ブゥゥーン!! ドッドッドッドドドド!!

いつも通りうるさい音を立てながらバイクが走り出す。

まあいいか明日にでも整備に出すか、そう思うことにしてその日は解散になった。

 

仲間達が1人ずつ自分の家に向かって別れていって、Sさんも自分の家に向かう道を飛ばしていく。

コーナーに差し掛かってバイクを傾けた時に、あれ?っと思った。

やっぱりおかしい。

いつものコーナリングじゃない。

どうにも車体が重い気がする。

こりゃエンジンかなー、勘弁してくれよー、なんて独り言を呟きながら走っていく。

 

家に着いてエンジンを止めてバイクから降りる。

その時にまたあれ?っと思った。

違和感が消えてる。

さっきまで感じてた変な様子が全くない。

おかしいなーと首をひねってその日は終わり。

その後、何事もなく風呂に入ってビールを飲んで、そのまま寝ちゃった。

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翌日になって馴染みの整備工場にバイクを預けて、徒歩になっちゃったもんだから町をなんとはなしにぶーらぶーら歩いてたんだそうです。

そしたら昔の同級生とばったり出会って、「おお久しぶりー!」なんて声をかけて、その場で話しはじめた。

その彼、仮にA君としましょうか。

そのA君は暴走族には入ってなくて、昼間は大学に通って、夜はガソリンスタンドでバイトしてる学生さんだったそうです。

高校生だった頃にはSさんと一緒に学校をサボるような悪友だったらしいんですがね。

そのA君が挨拶もそこそこにこう言ったそうです。

「おいS、お前暴走族の総長になって随分と派手に走ってるじゃねえか。昨日◯◯って交差点のガソリンスタンドを通っただろ?俺そこでバイトしてるんだよ。昨日もお前が彼女を乗っけて走ってくところを見たよ」ってね。

Sさんは最初A君が何を言ってるのかわからなかった。

「いやお前、それは見間違いだよ。俺は彼女なんていないもん」

そう言った。

するとA君がまた、

「照れるなって。お前のバイクってあれだろ?赤いラインが入って、ヘルメットにオバQの目玉みたいなシール貼って。どう見てもお前だったよ。可愛い彼女じゃねえか。お前にしがみついちゃってさ」

と笑ったんだ。

Sさん、なんとも嫌〜な感じがして、背筋がスーッと寒くなったそうですよ。

ようやくわかった。

昨日、バイクにまたがって感じていた違和感、あれ、人を後ろに乗せてる時の感覚だったんだって。

 

それきりA君との会話も上の空で、よく覚えてないそうなんですが、バイクの整備が終わる時間になって整備工場に行った。

整備工の兄ちゃんに「どこも悪くない」って言われてSさん、すっかり怖くなっちゃって、バイクに乗る気がしない。

でも押していく訳にもいかないし、乗らなきゃ帰れないもんだから、バイクにまたがった。

違和感ない。

ブルーンとエンジンをかける。

違和感ない。

左右のミラーを確認して、クラッチを握ってギアをローに入れて、アクセルを開ける。

ドッドッドッドッドッ。

バイクが走り出す。

まったく違和感がない。

ひょっとすると気のせいだったんじゃないか。

そんな風に思えてきた。

Aの奴も適当なこと言うよな。

俺を担ぎやがって。

後で仕返ししてやるか。

なーんて考えてたら段々気持ちが大きくなってきた。

いつも仲間達とたむろしてるコンビニに行って、その場にいるメンバーでもって今日も心霊スポットに突撃しようか。

そんなことを考えてた。

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コンビニに着くと、案の定いつものメンバーが駐車場の隅で集まってた。

突っ立ってたり地べたにあぐらをかいたり、それぞれの格好でもっていつも通りに輪を作っている。

ドッドッドッドッドッ。

威勢良くエンジンを鳴らしながら仲間達の近くまで行ってバイクを停める。

おーしお前ら今日もいっちょ突撃しようぜって言おうと思ってたんだけど、はて、何かいつもと雰囲気が違う。

皆黙って下を向いてる。

自分と目を合わせようとしないんだ。

おう、どうした?って聞いてみた。

そしたら仲間の1人が恐る恐るこっちを見て、変なことになったんだと言ってきた。

変なこと?

思わず聞き返したら、仲間達がポツリポツリと話し始めた。

 

そこにはついさっきまで仲間の1人がいたらしいんです。

その彼をB君としましょうか。

そのB君、今日は最初からどうにも元気が無くて、真っ青な顔してた。

調子でも悪いんじゃないか、悪いもんでも食べたのかって仲間達で笑ってたんだけど、どうにも様子が普通じゃない。

真っ青な顔をして、しきりに耳のあたりを払うような仕草をしてたそうです。

寝てる時なんかにプーンと蚊が耳の周りを飛んで嫌なことがありますよねえ。

その蚊を追い払う時のような感じで耳のあたりを手で払うんだ。

 

おいさっきから何やってんだって聞いてみたらB君、男の声がするって言う。

そりゃここには男しかいないよって笑ったら、そうじゃない、知らない男の声が聞こえるって言うんだ。

B君が言うには、耳の後ろあたりでボソボソ言う声が何かを言ってくる。

手で払うといなくなるんだけど、しばらくするとまた戻ってきてボソボソ言ってくる。

昨日の夜から気になって寝れやしねえんだって、そう言ったんだそうです。

 

おいやめろよ気持ち悪い、変なこと言うなよ、なんて感じで流そうとしたんですが、B君が耳を払うのをやめないもんで、みんな気持ち悪くなってきた。

しばらくしたらB君が「うぅっ」と声をあげた。

みんなの視線がB君に集まる。

そしたらB君が震える声で「これ……お経なんじゃねえか?」って言った。

誰にも聞こえてやしないんだけど、B君にはずっと聞こえてるその声は、どうやら男が念仏を唱えているような感じらしいんです。

 

シーンと静まり返った。

みんな黙っちゃって誰も声をかけられない。

夕方とはいえまだ明るい時間帯で、周りにはコンビニの客が喋る声や車が通り過ぎる音が聞こえていて、その音に混じってB君がボソボソ言う声が聞こえてきた。

「………。……………………。………」

なんと言ってるのかまでは聞き取れない。

口を小刻みに震わせながら、ボソボソ、ボソボソと呟いてる。

しまいにはB君、手を合わせて拝むような姿勢でもってボソボソ言いはじめた。

あぐらをかいた状態でもって手を擦り合わせながら、小さく前後に体を揺すって、ブツブツブツブツ何かを言ってる。

よく聞くとたしかにお経に聞こえたんだそうですよ。

おかしい。

こんな、まだ明るいコンビニの駐車場で、周りには他の客がいっぱいいる中で、普段から不良ぶってカッコつけてるB君が、両手を擦り合わせながらブツブツお経を唱えてる。

どう考えても異常ですよねえ。

「おい…何してんだよBおい……」

誰かが言った。

B君は構わずお経を唱えてる。

「おい、おいB!よせって…やめろ!」

そう言って強く肩を揺すったそうです。

そしたらB君、ふら〜と立ち上がって、そのままバイクに乗って帰ってったそうですよ。

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そんなことがあってから、Sさんがやってきた。

みんな気持ち悪くて黙ってる。

Sさん、自分のこともあるもんだからB君のことが気になってしょうがない。

これからB君の家に行ってみようってことになった。

黙って下を向いてた皆も、やっぱり気になるんでしょうね、Sさんの言葉に従って、皆でB君の家に行くことにした。

 

B君の家は木造二階建てのアパートで、まあ当時は珍しくなかったんですが、その1階の角部屋だったそうです。

1階2階それぞれ4部屋ずつの、若い1人暮らし向けの小さなアパート。

表札なんて掛かってませんが、B君の部屋は皆よく知ってたんで、迷わずB君の部屋の入り口に立ってドアを叩いた。

ドンドンドン!

「おーいB!いるかー?」

返事がない。

ドンドンドン!ドンドンドン!

「Bー!いるんだろー?」

アパートの駐輪場にはB君のバイクが停まってますからね、いるのは間違いないんだ。

 

呼べど叩けど返事はない。

ドアを開けようにも鍵が掛かってる。

どうしたもんか考えてたらアパートの裏手の方から「うわっ!」って声が聞こえてきた。

裏手に回り込んでた仲間の1人が叫んだんだ。

Sさんも急いでアパートの裏手に回った。

そしたら仲間がB君の部屋の方を向いて腰を抜かしてるのが見えた。

裏手に回るとそれぞれの部屋のベランダがあって、一階なもんだからカーテンが開いてれば部屋の中がよく見える。

B君の部屋の窓にもカーテンが引かれていたんですが、わずかばかり開いていて、隙間から中が少しだけ覗けたそうですよ。

暗い部屋の中で、何か人影のようなものが揺れている。

おそらくB君だろうと思われるその人影が、座った姿勢でもって前後に体を揺すってる。

こちらから見るとB君は右向きに座っていて、振り子のように左右に揺れて見える。

B君が体を前に倒すと、こちらからは右側に傾いて見えるんだ。

時折大きく体を揺するもんだから、その時に両手を合わせてるのが見えたそうですよ。

 

「なんだおい気持ち悪いなあ、あれBだよな?」

って仲間に聞いたら頷いた。

しばらく中の様子を眺めていたら段々と暗闇に目が慣れてきた。

よーくよく見てみると、Sさん、ある事に気付いて「うわああ!!」って叫んだ。

体を前後に揺すりながら拝んでるB君、その頭の後ろから、土気色した手がニュッと伸びてB君の後頭部をガシッと掴んでるんだ。

カーテンが邪魔で窓の外から中はよく見えないんだけど、明らかに誰かが後ろからB君の頭をつかんで前後に揺すっている。

その手に無理矢理動かされるような形でもってB君は前後に揺れているんだ。

 

拝んでる、というより、拝まされてる、そういう状況ですよね。

それを見て皆怖じ気付いちゃって、親分のSさんも何も言えない。

皆でソーっと玄関の方まで戻っていって、あれはなんだって話になった。

「Sさん、あれヤバいですよね?あれ、なんなんすかねえ?」

「どうします?警察か救急車呼びますか?」

「俺達もヤバいですかねえ?Sさん、これ、祟りですかねえ?」

「ヤバいっすよ……これ絶対おかしいですよ……」

もう皆すっかり舞い上がっちゃってる。

Sさんだって気が気じゃないんだ。

明らかにおかしい様子のB君に加えて、自分自身もおかしな体験してるんだから。

震えるのを必死に堪えながら「皆落ち着け!」って怒鳴った。

自分で自分の声が震えてるのがわかる。

「とりあえず今日のところは様子を見ようや。Bはノイローゼになってるのかも知れんし、鍵をこじ開けて乗り込むわけにもいかないだろ?」

そう言った。

皆も頷く。

「明日になってもBがあのままだったら、救急車を呼ぶか、坊さんにでも相談するかしようや。今日はもう解散して大人しくしてようや」

そんな感じで、その日はその場で解散する事になったそうですよ。

 

続きます。

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@はな-2 様
たしかに。。。
その日に助けておけば。。。

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@バジルくん 様
お待たせしちゃいまして申し訳ありません。
ようやく投稿できました。

返信

@NIGHTMARE 様
ようやく投稿できました。
お待たせして申し訳ありません。

返信

いやいやその日に助けろや〜〜い( ̄□ ̄;)!!💦💦

返信

あぁ~待ち遠しい~。
続きが楽しみですっ♪(≧∇≦)

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早めに続きを~お願いします!

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