短編1
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近所の家族

 俺の住んでるアパートには、人形をベビーカーに置いて散歩してるばあさんがいる。

 近所のガキどもはいろいろ言っているが、大人たちは一致団結して「何が悪いんだ!」とちょっかいを出すガキどもを叱っている。

 その晩、ばあさんの部屋の扉の前に、人形が転がっていた。

 なんだ、ばあさんと喧嘩でもしたのか?と拾ってばあさんの部屋をノックし、

「この子が泣いてるよ!」

と言うと、扉が開いてばあさんが

「あらあらあら、どうもありがとう」

とにっこり笑って引き取った。

 俺は固まってしまった。

 扉の隙間から、部屋一杯にぎっしり詰まった、膨大な数の、同じ人形が見えてしまったのだ。

 その晩夢の中に人形が出てきた。

 声は発しないが、俺がばあさんに届けたことをとても感謝しているようだ。

 別にいいよ、と言ったら、あと五体人形がやって来て、器械体操とか演舞とか始めた。お礼のようだ。

 これがまた実にキマっていて、感嘆の声が出てしまうほどだった。

 しかしなにやら向こうで衝撃が起こり、人形たちは驚いてパッと散って、どこかに行ってしまった。

 ついでに俺も目が覚めた。時計を見ると深夜だ。

 寝ぼけた頭で、衝撃は通路で起こったことに気がついた。

 少し扉を開けて通路を覗いてみると、一人暮らしのOLの部屋の前に、背広を着たマネキン人形が倒れていた。

Concrete
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