YouTubeにアップした第三回体験談の原稿です。怖くはないです。

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YouTubeにアップした第三回体験談の原稿です。怖くはないです。

 こんにちはこんばんは、

 呪いでも恐怖でもなく不思議な感覚を、

 吉野貴博です。

 私がその女の子に会ったのは、就職して配属されたお店でして、その子は三年くらい働いていたのかな、私は新人で、その子に仕事のやり方を教わるのでした。まぁ他にもバイトさんは何人もいましたけどね。

 スポーツ少女で格好良いいなぁと思って話していて、その子はとある神様ととても仲良しだと聞きました。

 別に何かの宗教に入っていて信心しているわけではありません。お祖母さんがその神様ととても親しくしていて、幼少期から仲良しだったということです。

 それを聞きまして、よし、この子と距離を縮めるためには、この神様がいいのか、旅行に行ったとき、この神様をモチーフにしたグッズをお土産に買えばいいのかと思いましてね、大量生産品ではなく一品物のぐい飲みとか杯とかイメージしました。

 で場面が変わりまして、

 その子は大学四年生でして、卒業論文とか就職活動とか駆けずり回っていたんですけど、時代は新卒にとても厳しいときで、なかなか就職が決まりません。そして卒業論文もグループ作成で、組まされたうちの一人が全くやる気が無く、期限も守らない、担当もやらないで、みんなで「あんたのせいで私たち卒業できないかもしれないのよ!」と怒ってもどこ吹く風で、とてつもなく神経をすり減らしておりました。

 でまた場面が変わりまして、

 私は高校大学と部活をやってまして、社会人になってからも社会人サークルで続けておりまして、夏に合宿をやることになりました。

 高校や大学ならバスをチャーターしてみんなで一緒に出発するのですが、なにせみな社会人ですので、遅れていく人もいれば途中で帰る人もいるわけでして、私は途中参加でした。

 合宿担当者からプリントをもらったのですが、宿泊地の住所は書かれているのに地図が描かれていない。

 しかしその宿は、そのサークルをやってる人なら、少なくとも関東圏なら知ってる人が多いはずで、私の高校大学時代の合宿は毎年その宿に行ってたんですよ。サークルの設備を完備しているところってそんなに数がないもんで、あ、またここかと。

 だから地図がなくても(行けば解るだろ)てもんです。

 仕事が夏休みになりまして、始発くらいの電車に乗って、駅に付きまして、バスに乗って降りると。

 方角は覚えてますんで(歩いてりゃ着くだろ)と歩き始めたんですが、着かない。

 確かこの辺に…と行っても見つからない。

 歩いて歩いて、三時間くらい歩いても、全然見つからない。

 道は解るんですよ、こっちの方だって。でも見つからないし、地元の人に聞くのもなんかなぁと思って聞かず、ひたすら歩くのですが見つからない。

 で歩いているうちに、美術館の前を通ったんですよ。

 そしたら結構有名な人形作家さんの個展をやってまして、テーマがその神様だったんですね。

 それを見ながら(よし、合宿所が見つかったら、門をくぐらずここに来て、作品を見てから合宿に合流しよう)とまた歩くのですが、見つからない。

 もう嫌になりまして、いいやってその美術館の中に入ったんです。

 実力のある作家さんの作品を堪能し、女の子にお土産を買おうと絵はがきとか買って、受付の人に

「すいません、この宿、どこでしょう?」と聞いたら

「この宿ですか?ここの裏ですよ」って。

 いやまぁ、脱力しましたね。

 考えたんですけど、卒業論文も就職活動も上手くいかずキリキリしていて、女の子は神様と会うチャンネルが閉じていたんではないかと。で神様たち、複数形ですが、困っちゃって、

「そういえば最近この子の周りにウロウロしているこいつの所に出れば、連れてってくれるんじゃないか」

 と思ったと思うのですよ。

 お土産持ってったら喜んでくれまして、就職活動はどうにもならないけど、卒業論文の方は教授に談判して問題の学生を排除することになったそうです。そのぶん他の学生が来るわけではなく、みんなの負担が増えたのですが、それは仕方がないと。で書いていて思ったんですが、その学生は卒業できたんでしょうかね?

 で私も神様に気に入られたようでして、女の子との距離も縮まりましたし、御利益も出てきました。

 私は所属しているサークルの文化で、実力は大したことがありません。将棋の歩のようなものです。中心人物に私の腕前をどう思っているか聞いたところ、

「面白くはないが安心していられる」と言われました。

 自分の実力を向上させる手立てが解らないのですが、その文化の歴史に興味を持ちまして、いろいろ調べていたんですよ。

 でも学生の時分は本も研究者もいないというか、見つけることがとても難しくて、東京のその文化の中心地にある書籍売り場に通って

「本は無いか、本は出ていないか」と探しに行って

「無いか-」と疲れて帰る繰り返しだったのですが、神様に会ってから本も資料もどんどん見つかり始めまして、結構困ったことになるくらい見つかるようになったんです。

 何が困るかと言うと、代金です。

 まぁ私もお給料をもらう身になりましたから、頑張って買いましたけどね、

 世の中には資料というものは、書籍以外にも、ビデオとかレコードとかあるのですね。

 一枚三千円くらいのレコードが一ダース一セットとか、買えませんよ。数万円する書籍がボロボロ見つかりますからね、そこまで高給取りではありません。

 将来的には「資料が読める喫茶店」なんてやってみたいなぁと思っているのですが、文字と映像音声とどちらを取るべきか考え、結局書籍にしました。

 今振り返っても後悔はしてませんが、ずいぶん貴重なCDやビデオ、レコードを諦めましたよ。

 まぁ神様にしてみれば、

「こいつはこれがあれば幸せみたいだ、これをやっとけば女の子に酷いことせんだろ」と思ったようで、日本全国に張り巡らされているその神様のネットワークがフルに使われ、かなり貴重な書籍や資料が私の手元に来ました。

 どれだけ貴重かといいますと、日本が戦争に負けて、焼け跡から、一からその文化を再興しようと立ち上がった人たちって、まだ生きてる人多いんですよ、その人たちの号令の元、戦後その文化を創ってきた人たちが第一線を退きまして、OB会のようなものを立ち上げまして、その人たちから

「ほう、君は若いのにずいぶん勉強しているんだね」と褒められて、その会に入れてもらえました。

 これが、書籍が一冊や二冊や、まぁ二桁冊数だったらただの偶然なんでしょうけど、三桁冊数の後半に行きますとね、さすがに偶然とは思えなくなりますよ。

 それに古書業界の常識というのがありまして、古本屋って基本的に、売り上げの半分以上って、古本屋同士の売買なんですよ。

 一般のお客さんが「これ買ってください」と箱に入れた本を持ってきまして、それがその古本屋の得意分野ばかりだったら世話はありません、でもそんな幸運って滅多になくて、

「この本はあの店が詳しいな、この本はあの店が高く売れるな」と他の店の状況を思い出して、そっちに売るんです。考えて見てください、たとえば絵画彫刻の本だったら一般的に美大の近くにある店が、クラシック音楽の本だったら音大、スポーツの本だったら体育大学のそばにある店の方が買う人多いですよね。

 あとそのお店というか店主を信頼しているひいきの客、太い客がついていたら、

「こんな本が入ったら、教えてよ」なんて依頼もあるんです。荒俣宏さんが有名ですね。

 で、一般的な本とか、セット物なんかは、古書組合の競りとかまとめ売りに出すんです。

 そういう中で、私がふらっと入った町の古本屋さんで、稀少なフォーカス(焦点)の狭い本が見つかるというのは、一冊十冊、まぁ五十冊くらいだったら偶然の範疇ですよ、それが何百冊って、絶対偶然じゃないでしょ。

 さらに、本が集まるようになってから知ったんですが、'90年代って自費出版ブームってのがあったんですね。

 バブルははじけたけど仕事を引退して使える小金があって、自分の歴史を本にしようって人が多くて、自費出版が流行ったみたいなんです。

 もちろん書いた人は自分の記憶とか日記とかを頼りに書くので資料的正確性は割り引かないといけないでしょうが、それでも昭和初期とか戦後すぐに、その文化を扱っていたお店で働いていた人の話が読めるというのは、貴重なんですよ。普通の本屋さんでも出会うの大変でしょうし、よほど売れないと再版はないわけですし、これはもう出会いが奇跡のレベルです。

 であまり良くないことに、自費出版は一過性のブームでして、専門にできた出版社が酷いところが多かったようなんで、原稿とか預かった資料を返してくれないとか、無くすことがよくあったようで、巻末に書かれた住所を頼りに会えた数人の人、みんな怒ってました。

 で自費出版ブームも終わり、今では真っ当な出版社が続けているようなんですが、当時の自費出版ラッシュはもう終息しているわけでして、私は運がいいなぁというより神様に助けてもらったんだなぁと。

 でもさすがに二十年三十年経ちますと、あらかた買ってしまったようで、もう滅多に見つからなくなりました。

 それに手に取った本の中からキーワードを見つけ、もっと深く掘り下げたいと思っても、他の本には載っていなかったり、OB会の人に聞いても「いやぁ、それは知らない」と、フォーカス(焦点)が本当に狭いんだなと困ってしまうことばかりで、そうそう「解らないこと」が見つかっても困るなぁと。

 現役の人も、私がネットに「不思議だ!解らない!」と書き始めた頃は、そんなことを書く人が他にいないので、興味を示してくれる人もそれなりにいたんですよ、でもその人たちだって不思議の真相を知っているわけでもありませんし、私が真相を掘り当てるわけでもありませんし、私の実力も大したことがなくてそれらの人に遠く及ばないこととかあって、結局みんな離れてしまうんですよね。

 結局私のそばにいてくれるのは、神様と女の子だけです。

 でその神様、今では神通力でもって、私が旅行に出たときに酷いことにならないよう守ってくれておりまして、次回はその「旅の話」をしたいと思っております。

 創作朗読は何を話しましょうか、小説投稿サイト「小説家になろう」に書いた、「まな板」の前日談にしようかなと思っております。この話の続きを書くと、どう書いても蛇足になってしまうのですが、前日談だったらやりようがあるかなと。

 あと小説投稿サイト「怖話」にも、ショートショートとこの体験談朗読の原稿をアップしておりますので、興味がある方は「怖話」あるいは「小説家になろう」で“吉野貴博”を検索してみてください。

 それではまた次回にお会いしましょう。

 吉野貴博でした。

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gatari Hayate さん、ありがとうございます。
神様の話をしようと決めたとき女の子のことも言わないといけなくて、許可をもらいにいったら
「個人情報が出なければいいよ」と言ってくれまして、アップしたのを聞いてもらったら
「もっとすごいことを言うのかと思った」と肩すかしだったようです。

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