中編3
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通夜の帰り道。

これは、私が高校生の頃に体験したお話です。

バイト先にA子さんという気の良いおばさんがいたのですが、ある日、いつものようにバイトに行く準備をしていると、店長から連絡があり、A子さんが交通事故に巻き込まれ、運ばれた病院先で亡くなったと聞かされました。

日頃から部活の相談や、料理の作り方など色々とお世話になっていた事もあり、その日バイトが終わると、真っ直ぐA子さんの通夜に店長と一緒に行く事にしました。

A子さんの自宅前に着くと、もうたくさんの方達が来られており、周辺では故人を偲んですすり泣く人が大勢いました。

ですがまだ子供だった私は、故人を偲ぶ気持ちよりも、慣れないこの状況に早く帰りたいという気持ちのほうが勝っていました

焼香を済ませた私は、遺族の人とまだ話していた店長とはそこで別れる事にし、一人で帰る事にしました。

住宅街を抜けて二十分ほど歩けば駅です。

私はぼおっとA子さんの事を考えながら駅に向かって歩いていました。

夕日が沈みかけ、街灯の明かりがちらほらと点灯し始めた時でした。

「あらあら、Yちゃん」

突然、私の名前を呼ぶ声に振り返りました。

その瞬間、私の心臓が激しく、ドクンと音を立てました。

「お、おば……さん?」

そう、私を呼んだ声の主は、先ほど通夜に行った、A子さんだったのです。

「どうしたのそんな顔して、何驚いてるの?」

バイト先で見慣れた、人当たりの良い、何時もニコニコしていた笑顔で、A子さんは言いました。

何?どうして?何で!?

余りの事に考えがまとまらず、私の頭の中はパニック状態でした。

A子さんの服装は、何時ものダウンジャケットとデニムのパンツ姿、そして娘のお下がりだと言っていたロゴ入りの肩掛けバッグです。

私がよく知っているA子さんの姿が、そこにありました。

「大丈夫Yちゃん?何だか顔色が悪いわよ?」

とても死んだ人間とは思えません。ひょっとしてあれはイタズラか何かで……。

そんな風にも思いましたが、通夜で見た、遺族の方達のあの涙が、とてもではありませんが演技とは思えず、私は思い切ってA子さんに尋ねようとしました。

するとA子さんは私が口を開こうとした瞬間、

「ねえY子ちゃん、ちょっと行きたい所があるんだけど、一緒について来てくれない?」

と、私に言ってきたんです。

「すぐそこなの、ね?いいでしょ?」

何時ものようにあの人当たりの良い笑顔。

私は思わず頷きそうになりましたが、寸前のとこで我に返り、

「お、おばさん、し、死んだはずじゃなかったの?交通……事故で……!」

搾り出すような勢いで、私はようやくその事をA子さんに話しました。

するとA子さんは、

「あらやだ、何だ……知ってたのね」

そう言って満面の笑みを浮かべると、バッグを肩に掛けなおすような仕草をし、その場できびすを返し歩いて行ってしまいました。

私は思わずその場に崩れ落ち、地面に座り込んだまま、A子さんの後姿を唖然とした顔で見送りました。

A子さんは幽霊のように姿を掻き消すわけでもなく、当たり前のように歩き、二十メートル程先の路地を曲がる際に、私の方に振り返ると、軽く手を振って去って行ってしましました。

以上が、私が高校生の頃に体験したお話です。

あの時、A子さんは私に何をお願いしたかったのかは、今でも分かりません。

ただ、一つだけ気になった事があります。

あの日、死んだはずのA子さんを街で見かけた、という人が、私以外にもいたという話を、後から聞いたのです。

そして店長からこんな話を聞きました。

A子さんの知り合いの男性が通夜に参加する前に、A子さんと同じように、交通事故に巻き込まれる事件があったと。

一体あの時、何が起こっていたのでしょう。

ちなみに、A子さんの事故は引き逃げで、犯人は未だ、捕まっていないそうです……。

                                         

                 〔了〕

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