中編6
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反射

懺悔と後悔の念を込めて、学生時代の話をしよう。

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高校二年生頃からだっただろうか。

俺のクラスでいじめが始まった。

標的にされたのは大人くて冴えない奴だった(以下B)。

初めはキツい冗談やからかいをクラスのヤンチャ連中がふっかける程度だったが、徐々に行為はエスカレートしていった。殴る、蹴る。カツあげや髪を燃やす等、まあ聞くに堪えないような事をしまくったわけだ。

俺はというとヤンチャ連中の一人だった。正直、誰かをしこたま虐めてストレス解消するような趣味は俺には無かったが、他の頭の悪い奴らが暇をもて余してBに絡むと、渋々俺も付き合った。

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日に日にBは元気を失っていった。

何も非がないのに、俺を含めエネルギーだけが有り余ってるバカたちに不当な扱いを受けるBに時には同情し、飽きた素振りをして虐めに関わらないこともあった。だが、虐めをはっきりと止めさせようとすることはしなかった。猛る暴力の矛先が俺に向かないとも限らなかったのだから。

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ある日、4、5人でBをリンチしていると切れた唇から血を流しながらBが言った。

「お前ら...。お前ら全員呪ってやる。呪い殺してやる」

一瞬、俺ら全員が固まったがすぐにBへの攻撃が再開された。罵倒されながら暴力を振るわれ、腕で頭を防御し、されるがままのBだったが口元だけにははっきりと笑みを浮かべていた。紛れもなく、俺らへの勝利を確信したかのような不気味な音なき笑いだった。

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リンチでBを半殺しにした次の日、俺らの中で中心的だった奴が死んだ。

バイクで市道を走行中、大型トラックに接触。体はバラバラになったが、呻きながらしばらく絶命できなかっということだ。

粗暴で無神経な奴だったから俺を含めクラスの連中からも煙たがられていたが、いざ死んだとなると悲しいものでクラスの何人かは涙を浮かべ、嗚咽を堪えている奴までいた。

そんな中でBがボソッとザマアミロと言った。

運悪くその呪詛に近い呟きは、死んだ奴の親友だったヤンキーの耳に届き、Bはおもいっきりそいつに殴られた。殴ったそいつはすぐに教師たちに取り押さえられだが、Bに死ね、殺してやるとしばらく吠えていた。

俺はというと昨日のBの呪い殺してやるというフレーズを反芻して、恐怖に支配されていた。

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翌日、昨日Bを殴った奴が死んだ。

下校中、後ろから不審者に刺されて倒れ、転倒後も体を滅多刺しにされ、とどめに口に包丁を突き立てられ死んだらしい。

犯人はすぐに逮捕されたが、知能と精神にかなり異常をきたしている女だったそうだ。

事件はその日の夕刊にデカデカと掲載された。

仲間二人が続けて死んだ事実は、不良グループの俺らにかなりの不安をもたらした。もうBへの虐めはやめて、一切の干渉を断とう。そう決めあった。

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また翌日とはならなかったが、二人目が刺殺されたニュースがたまに取り上げられる事があるくらい日を跨がずして、三人目が死んだ。

死因は自殺。

あろうことかカッターナイフで自分の腹を割き、ハラワタを齧りながら絶命していたそうだ。もちろんカッターナイフなんかで人間の腹を切るのは容易ではない。何度も何度も刃を突き立て、無理やり切ったせいで切り口は乱雑なものだったらしい。

Bへの虐めがなくなって暫く経った筈だが、Bの憎悪は全く衰えていないようだった。

いよいよ俺たちは恐怖した。自業自得なのは百も承知だが、やはり死が眼前に迫っているかもしれないと思うと気が気でなくなりそうになる。

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ある日、生き残っているヤンチャ連中と一緒にBに土下座した。カツあげした金も返し、Bの局部を撮影した写真も目の前で燃やした。

俺たちが悪かった。頼む。許してくれ。

誠心誠意謝ったつもりだが、Bは俺らを呪ったあの時と同じ笑みを浮かべていた。

俺たちの謝罪に対してBの返答は無言。だが口元の笑みは俺たちを決して許さず、できるだけ苦しめて殺そうと思っている心理を反映しているようだった。

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二月ほど経った日だろうか。

また俺の仲間が死んだ。そしてBも死んだ。

仲間のほうはやはり残酷極まりない最後だったようだが、正直Bが死んだという事のほうが衝撃だった。

生き残りのヤンチャ連中-といっても俺の他には二人だけだが。一人は恐怖のあまり引きこもるようになり、そのまま退学。もう一人は毎日バッチリきめていたリーゼントを止め、生来本性どうりの真面目な奴になった。俺もヤンチャはやめた。

大人しく学校へ通うようになったが、Bの呪いに恐怖しながらの学校生活となった。Bは確かにお前ら全員呪い殺してやると言ったのだ。

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恐怖に怯えながら日々を過ごしていたが、ある日隣町に評判の占い師兼霊能力者がいることを聞いた。

普段はそんな奴胡散臭いといって取り合わない俺だが、それこそ藁をも掴む心境だったこともあり、場所を確かめすぐに向かった。

古そうな雑居ビルの三階に、霊能力者の事務所はあった。

ドアを開けて入ると、還暦くらいの女性が古びた椅子に腰掛けていた。挨拶を済ますと、早速相談に入った。

占い等は情報が大切。嘘は言わないように。

-そう釘を刺された為、包み隠さず事の顛末を伝えた。

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Bの氏名やBにしたこと、されたことを説明するうちに霊能力者の女性は次第に表情を曇らせていった。

俺が説明を終えると、女性は深くため息を吐いてから口を開いた。

「十分自覚されてると思うけど、全くの自業自得ね。Bちゃんの呪いはとても強力で深刻よ。一人めを呪い殺した時、呪いはさらに強くなったの。Bちゃんの呪い方は正直素人同然でやり方もアベコベよ。でもね、どんな下手な呪いでも実際に人の命を奪うと急に力をつけるものなの。二人目のときは関係ない第三者まで呪いの影響を受けてるわね。三人目のときは呪いの対象を自在に操ってる。わたしでもそんなに影響を与える呪いは扱えないわ。如何にBちゃんの怨念が強かった窺えるわね」

聞きながらどぎまぎする俺の目を見据えて女性は続ける。

「でもやっぱりBちゃんの恨みはBちゃん自身すらもて余すレベルになっちゃったのね。四人目を呪っている最中に自分に反射しちゃってるわ。つまりね。そう。光をイメージしてごらんなさい。いままでは理性という壁で光、つまり呪いをコントロールしていたの。うまく対象の人間にだけ光が届くように調整していたわけね。でも光が強すぎて理性に穴を穿って漏れだしたわけね。結果はあなたが知る通りよ」

俺はそこまで聞いて、一番知りたいことを尋ねた。

つまるところ、俺は大丈夫なのか。

「結論からいうと大丈夫じゃないわね。Bちゃんの呪いはね。Bちゃんという囲いを失って乱反射しているような状態なのよ。あなただけじゃないわ。無関係な人さえ影響を受ける可能性もあるわ。私に出来る限りの事はしてあげる。私がいいというまでは私のところに通うように。でもね。それでもやっぱり駄目かもしれないわね。それだけBちゃんは貴方や貴方のお友達を恨んでいたわ。悪いけど。貴方、本当に自業自得よ」

もしかしたらこの女性は適当に言っているだけなのかもしれない。だが俺は彼女のところに通うことにした。

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俺は社会人になった今でも呪われているらしく、死神に怯えながら暮らしている。

女性霊能力者のところにも通っている。

だが、考えてみたら俺が許される道理などあるだろうか。きっとそのうち俺もBの深い怨みの淀みに沈むことだろう。

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