短編2
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お う む が え し

こんな話がある。

あるところに、趣味でイタズラ電話をかけるという、質の悪い男がいた。

その手口はいわゆる「無言電話」というもので、この男による被害はかなりの数に上っていた。

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プルルルルルルル・・・・ガチャッ

  「はいもしもし」

 男「・・・」

  「あのー、どちら様でしょうか」

 男「・・・」

  「えー・・・と」

 男「・・・(ふふっ、ビビってる♪)」

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このようにして、男は電話をかけた相手のうろたえる様子を楽しんでいた。

相手によっては、無言電話とわかるやガチャリと切られる場合もある。

だがこうして困った様子を見せる人は、この男にとっては格好の餌食だった。

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その日も男は適当なダイヤルを入力し、受話器を耳に当てる。

プルルルルル・・・。

コール音に耳を澄ませる。

男「さあて、どんな奴がでるかなぁ」

プルルルルル・・・、

プルルルルル・・・。

_____。

コール音がやんだ。電話が通じたのだ。

 男「・・・?」

ここで男は、ひとつ違和感を憶えた。

いつもならここで「ガチャッ」と、相手が受話器を取る小気味の良い音が聞こえてくるはず。

今回はふっと唐突に、受話器も取らずに電話が通じたかのようだった。

?「・・・」

男「・・・」

おかしい。

自分は無言を貫いているので当然だが、この相手方。

「もしもし」と添えることも、「○○です」と名乗ることもしない。

ひた黙っている。もしや同業者?

男「(なんなんだコイツは)」

無論、声には出さず、心の中で悪態をついた。

そこでようやく、相手方から「返答」があった。

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?「な ん な ん だ こ い つ は」

shake

男「!?」

聞き間違えじゃない。確かにそう言った。

男「(え・・・?今、おれの思・・・)」

?「え い ま お れ の お も」

男はうろたえた。

半ばパニックになった。

男「(な・・・なん・・どうや・・て)」

声「な な ん ど う や て」

パニックのあまり、まとまりのなくなった男の思考でさえ、「声」は一字一句正確に復唱してくる。

やや低い女性風の声。

活舌はなめらかだが、声の調子は一定で、人間的な情緒を全く感じない。

いや、間違いなく人間ではない。

沈黙が続いた。

男は完全に恐怖にのまれ、何も考えられなくなっていた。

そうすると「声」からの「オウム返し」もないので、当然である。

どれほど時間が経過しただろう。突如沈黙を破り、「声」が勝手に話し出した。

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声「に ほ ん

  ○ ○ ち ほ う」

男「・・・?」

声「△ △ け ん

  □ □ し

  × × ち ょ う」

男「(・・・俺の住所!)」

声「お れ の じ ゅ う し ょ」

男は恐怖さえ忘れて、受話器を本体にたたきつけた。

そしてあてもなく家を飛び出した。その後の男の消息を知る者はいない。

あの「声」の正体を知る者も。

Concrete
コメント怖い
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@しんどい 様
気に入っていただけたようで、何よりです。
(コメントが半年くらい遅れました。申し訳ありません)

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@肩コリ酷太郎 様
117ですね。確かにああいう「人間に似せた声」って、どこか不安感をあおりますよね。
ちなみに私は時報の声の背景で「ぴっ、ぴっ、、ぽーん・・・」と一定のテンポを刻む
あの音が怖かったりします。
この世界とは別の、異空間から響いてくるようで・・・。

なにより、拙著を読んでいただいた上に、コメントまでつけていただいて
ありがとうございます。

「怖い」をつけてくださった皆様も、大変励みになります。

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117の時報のあの感じで脳内で再生されたので怖かったです。
なぜか子供の頃は家の電話で時報とか聞いてました。
(あとフジパンのサービスの番号にかけると童話が聞けるサービスもありました)
その声にオウム返しされたり、
今いる場所がいきなり特定されたらどんなに恐ろしいでしょう……。

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