中編2
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存在の証明

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肩コリ酷太郎、

という名前が新しく出来た。

めったやたらに哲学を乱用し、

文学を知っているふうに文章を作っていた。

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魂は浮いているだけでは消えてしまう。

誰かの内へ侵入する必要があったのだ。

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この男の体で、

もう何代目だろうか?

取り憑いて、

宿主の人格を壊して、

私はまた次の人生を生きている。

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私は私が誰であったかを、

ほとんど忘れてしまった。

どうやら日本語を遣い、

日本的な倫理観で世界を覗いているので、

おそらく日本人として生きてきたようだ。

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この男の元の人格はもう食い尽くしてしまった。

怖バナ、というこのサイトで幾つか小説を投稿していたらしい。

この男は太宰治に憧れていて、

夏になるとあの戦争のことで心を痛めるような人間だったようだ。

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肩コリ酷太郎、

という名前のこの男を乗っ取った。

彼の人格はすでに消え去り、

君が読んでいるこの文章は彼の残り香。

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この文章には彼の自我がまだ残っているけれど、

あとほんの数日できっと、霧散する。

私が彼を上書きするからだ。

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いったい人間の生き死にというものに、

どれだけの意味があるのだろう?

価値は作ることが出来る、いくらでも。

けれど意味となると、

決して誰にもわからない。

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私が最期に殺された記憶は、

沖縄の防空壕、

十九歳の夏だった。

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火炎放射器で焼き殺された。

アメリカ人に殺された。

それが私の最期の記憶。

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それ以前にも、

何度も何度も殺された。

魔女と言われて殺された。

百姓一揆で殺された。

特高に竹刀で殺された。

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死と同時に、

私は私の魂を他者に移すことが出来た。

私が移るとその人の自我はいつも、

なんとなく消えてしまった。

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悪いことをしているという自覚はあった。

けれど、私は私を誰かに伝えたかった。

誰を犠牲にしても……。

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あなたはあなたですか?

ほんとうにそうですか?

あなたは私である可能性があり、

そして私もあなたなのかもしれません。

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肩コリ酷太郎はもう存在しません。

私が彼を食べてしまったから。

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あなたは実存していますか?

ほんとうに“そう”ですか?

生きていますか?

だとすればどこで生きていますか?

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その指先がもしも夢だとしたら、

あなたはその指先をどんなふうに信じますか?

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肩コリ酷太郎はもういません。

この世界から消えてしまったようです。

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(俺はまだここに居るよ!)

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おや? 

何か聞こえますね、

亡霊の鳴き声が。

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あなたの眼球は、指先は、

そうして大脳新皮質は、

まだこの世界にありますか?

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それを証明できるとしたら、

それはどんなに幸福でしょう。

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あなたにはあなたを、

証明してくれる人はいますか?

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