短編2
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川のおじさん

子供の頃に体験した話です。

私は毎年夏になると田舎の祖父母の家に泊まりにいきました。

山々に囲まれた村での楽しみは川での水遊びと祖父母が買ってくれた花火くらいでした。

川へ遊びに行くには、祖父母の家から少し歩いたところにある真っ赤な橋を渡るのですが、ある日、その橋を渡っているときにふと下を見ると、川の中に膝くらいまで浸かった麦わら帽子姿のおじさんがいました。

素手で魚を捕まえているようで、腰につけられた入れ物には何匹か魚が入っていました。

上からのぞいている私にきがついたおじさんは笑顔で手招きしました。

私は魚をもらえるのかなと思い、急いで橋を渡り、おじさんの元へ近づこうとしました。

思いのほか川の流れが速く、なかなかおじさんのところに近づけず、苦労していると、おじさんは笑顔で「がんばれもう少しだ」と励ましてくれました。

やっとの思いでおじさんのところにたどり着くと、おじさんは腰につけた入れ物から魚と竹串を取り出すと、魚に竹串を突き刺しました。「ほれ、食え」とおじさんは生魚が突き刺さった竹串をわたしに手渡しました。私が「焼かないと食べれないよ」というと、おじさんは「生でも美味しいんだよ」と笑顔でいいます。私はそれを信じてがぶりと一口食べましたが、とても苦かったです。ワタを食べてしまったんだと思います。苦い顔をすると、突然おじさんは怒り出し、私の顔を何度も何度も川に出し入れしました。苦しい、苦しいと叫びましたが、意識は遠のいていきました。

目が覚めると、川の近くにあった大きな岩の上で寝ていました。隣には祖父母がいました。

私はおじさんの話をするも祖父母は私が川に入るのを橋の上からちょうど見かけたそうなのですが、そのとき、川には私一人しかいなく、おじさんの姿はなかったそうです。

「あんなに川の流れが速いのに一人で潜ったら溺れるにきまってるだろう」とこっぴどく怒られました。あれは夢だったのかとも思いましたが、口の中に苦いワタの味が広がっていました。

Concrete
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